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じゃれ本作品『あの子は寿司』

「腹が減ったなぁ」
原川が言うと二人が頷いた。いつも通りの帰り道だが、今日の授業は3限終わりで、昼メシはまだであった。
「そうだ、最近駅前にできたレストランに行かないか。」
織田が目を輝かせて言った。

 *  *  * 

「うん、行こう。」原川と中野は織田の意見に賛同した。そのイタリアンレストランに入ると、カウンター席に座った少女が目に入った。
黒いワンピースに身を包み赤い帽子をかぶった、まるで鉄火巻のような少女だ。

 *  *  * 

「かわいい、、」
原川は席についても、鉄火巻の少女に見惚れていた。しばらくして、中野が彼を小突いた。
「おい、まだ決めてないのお前だけだぞ。俺と織田はペスカトーレにしたから」
「ああ、俺もそれで」

 *  *  * 

食事が終わって中野と織田がレポートの話をしているのをよそに、原川は鉄火巻きの少女に声をかけるべきか悶々と悩んでいた。
その時、少女はおもむろにやってきて言った。「こちらに座ってもよろしくって?」

 *  *  * 

「どうぞ」
原川はニヤニヤしている。少女はありがとうと言うと赤帽子とワンピースの間からワサビを取り出し投げつけた。
原川は悲鳴を上げる間もなく溶け去った。そして彼女は何でもないように空いた席に着いた。

 *  *  * 

次の瞬間、窓の外には大量の黒い雨が降りだし、店にも流れ込んだ。
この匂い、醤油だ。おぼれかけ、必死に息をする。
やがて醤油の波は引き、醤油に濡れた床には赤黒い帽子と持ち主を失ったかばんだけが残されていた。

(完)
100文字×6回

 ※じゃれ本ルールをオンライン用に改変したルールで遊んでいます。
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タイトル発案:あの子は(そめいよしの)、寿司( いんすたんとん)
作者:そめいよしの、いんすたんとん