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かつての里山に暮らす動植物 その3 樹木 ~かつての里山はどこに向かう~

 さて、かつての里山を形づくる高木について書いてきたのだが、ここまではわたしが暮らしていた静岡、長野といった中部地方を想定したものがほとんどだった。このかつての里山はおもに東日本には当てはまると思われるが、西日本の太平洋岸になると少し様子が違ってくる。温暖で冬にもそこそこ雨の降る西日本の太平洋岸ではいわゆるシイ・カシの多いかつての里山というものが現れる。
 
 とはいえ、そうしたシイ・カシのかつての里山はそれほど多くない。太平洋岸からすこし内陸に入ると、途端に降水量が減るのか、一年中葉をつけているシイ・カシはその数を減らし、そこに落葉樹であるコナラやシデの仲間、サクラの仲間やクリなどが混じるようになる。冬の間に葉を落とすことで、冬季の乾燥や寒さに適応している落葉樹のほうが有利なのだろう。じつにうまくできている。

 というわけで、コナラを中心としたかつての里山がある一方、シイ・カシを中心としたかつての里山もある、ということを確認したうえで、もうすこしコナラを中心としたかつての里山に生える高木類をご紹介する。

 どこかで上の写真のような木の実を見たことはないだろうか? ときどきクリスマスリースなどの飾りなどに使われていたりもするのだが、ヤシャブシという木の実である。

この木は前に紹介したイヌシデと同様、カバノキ科の樹木だが、ハンノキ属なので、クマシデ属のイヌシデとは親戚のような関係といっていい。この科の特徴といってもいい、荒れた土地(岩場や崩壊地など)にやはりよく生えている。ちなみに実は煮詰めると黒に近い茶の色が出る。ヤシャブシの”ブシ”はこの黒に近い茶の色を意味しているのだそうだ。

 こちらはネムノキ。

葉っぱだけでは気づかないかもしれないが、花が咲けば「ああ」とわかる。初夏にその色の鮮やかさと、近くに行くと漂う香りで猛烈に主張する。こう見えてマメ科の木なのだが、花だけではとてもマメの仲間だとは思えないかもしれない。

花のどこかに蜜腺があり、つぼみの頃から虫たちが集まっている。

 夜や夕方になると写真のように葉を閉じるから”ネムノキ”(眠る木)だと思っていたが、じつは春の芽吹きがほかの木々に比べてとても遅い。だから、やはり”ネムノキ”なのか。

 はじめに書いたが、太平洋岸の西日本にはシイ・カシのかつての里山が広がる。そして、そうしたかつての里山と、コナラを中心としたかつての里山とが入り混じることがある。そこではシイ、カシのほかに写真のようなタブノキという木もよく見かける。

 じつは、静岡あたりのかつての里山だと、コナラを中心とした落葉広葉樹のなかにシイやカシの仲間、そしてタブノキやヤマモモといった常緑の高木がかなり混じるようになる。さらに、見ていると林のなかにはそうした常緑広葉樹の若木がたくさん育っており、コナラを中心としたかつての里山はいずれシイ・カシ、タブノキ、ヤマモモなどを中心とした林や森に移り変わっていくのだろうと思える。常緑広葉樹は冬でも葉を落とさず、一年中、光合成ができるし、林のなかのような少ない光のもとでも成長することができる。山の木を伐り、そこで炭を焼いたり、薪を採ったり、畑にしたり、草を刈ったりしていたかつての里山が放棄されると、そこには日当たりのいい環境を好み、かつ冬の乾燥にも耐えられるコナラなどの落葉広葉樹がまずは林をなす。そして、そこが太平洋岸のように雨が多く、温暖な地域だと、そうした林のなかにシイ・カシ、そしてタブノキ、ヤマモモといった常緑広葉樹が育ち、やがてはそれらが林や森をつくるようになるのだ。こうした林や森の移り変わりを植生遷移(しょくせいせんい)と呼び、そのメカニズムというか構造はとても興味深いものがあるのだが、それはややマニアックな興味だろうか。

若干、黄いろに色づいた落葉広葉樹のなかに濃い緑色の葉をつけた常緑広葉樹が混じる
かつての里山

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