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かつての里山に暮らす動植物 その3 樹木 ~わたしたちも大好きなクリ~

 さて、前回はかつての里山を代表する木(高木)、ということでコナラを取り上げた。今回はそんなコナラに混ざって生える他の高木を取り上げてみよう。

 というわけで、まずはクリ。意外に思われるかもしれないが、野生のクリはかつての里山に意外に多く生えている。そして、クリといえばいわゆるあの”クリ”(ケーキのモンブランの上にのっているのや天津甘栗)を思い浮かべるかもしれないが、こうした”クリ”は野生のクリを品種改良した”丹波栗”などであり、野生のクリは「これがクリ?」と思わず言ってしまうような小粒のものである。

熟して落ちた実

なので、野生のクリをわざわざ”ヤマグリ”とか、”シバグリ”などと呼ぶのを聞いたこともあるが、もともとのクリといえば、こうした小粒のものだったのだろう。とはいえ、味もしっかりあるし、生で食べれなくないほどアクが少ない。昔から人間の貴重なタンパク源だったことは間違いない。縄文時代の大遺跡で有名な青森県の三内丸山では、集落の周辺に半栽培状態のクリの林のあったことが分かっている。

クリの花

 クリはコナラを中心としたかつての里山には必ずといっていいほど生えているが、その数はそれほど多いわけでなく、森のなかに点々と生えている、といったところである。というのも、上の写真のようにクリは虫媒花を咲かせるので、受粉を虫たちに頼っており、その結実数が風媒花を咲かせるコナラのドングリなどに比べると少ないからだろう。

 さて、クリの花は上の写真のとおり、細長いブラシのような姿をしているが、ブラシのようなものの大半は雄花である。ではクリの実ができる雌花はどこにあるだろうか?

クリの雌花

上の写真でいうと、スーッと伸びて雄しべらしきものがズラーっと並んだ雄花の一番下に、ほんの少し雄しべとは形態の違う花のようなものが付いているのが分かるだろうか(上の写真には2つ写っている)。これがじつは雌花だ。

最初は「これが雌花?!」と思ったほど小さく地味で、さらにどうしてこんな場所についているのかと不思議に思ったが、あるとき甲虫の仲間がこの花の花粉を食べに来ているのを見たとき、なんとなく理由が分かったような気がする。そもそも雌花は雌しべの先に花粉がつきさえすればいいので目立つ必要はなく、上の写真のように目立つ雄花によってきた甲虫が花から花へ花粉を求めて歩きまわるなら、花粉を付けた体で必ず雄花の付け根にある雌花の上を通ることになる。よって、そのときに受粉が達成されるわけだ。

実際、受粉がそのように達成されているのかどうか、残念ながら正確なところはわたしにはわからないが、とにかく、クリの実は雄花の付け根にある目立たない雌花のところでできるのだ。

アリも花粉を食べにくる

 さて、クリもコナラ同様、高さ20メートルを越すような大木になり、森に棲む動物たち(イノシシやサル、そしてクマの大好物である)に貴重なタンパク源をもたらす一方、わたしたち人間にとってもかつては貴重なタンパク源であり、さらにはこの木を伐って炭を焼いたり、薪にしたりするほか、材が腐りにくいという特性を生かして家の土台や鉄道の枕木として利用したようである。三内丸山で発見された巨大な建造物の柱に使われていたのもこのクリだった。自然に生える数はそれほど多くなかったかもしれないが、人間は昔からこの木を伐って利用したり、集落の近くに植え、育てていたりしたようである。ちなみにクリもコナラと同様、陽当たりのいい環境でスクスクと育つ特性がある。その種子にたっぷりと栄養をため込んでいるので、初期の成長に優れているのだろう。


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