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かつての里山に暮らす動植物 その3 樹木 ~子孫を広げるための工夫~

 さて、このところ映画についての記事が続いてしまいましたが、あらためて森や植物の記事に戻ります。「かつての里山に暮らす動植物 その3 樹木」の続きです。

 上はご存じ、クワの実。クワの実はクワという木になる実で、葉はあの蚕のエサになりますね。この木はもともとこの国にあったのかどうか定かでないのですが、蚕にエサをやるため農村の周囲に植えていたものが、養蚕をやらなくなったいま、山に逃げ、そこで見られるのをヤマグワと呼んだりします。以前、家でカイコを飼ったことがあったのですが、エサを探すために市街地でもちょっとした木立のある場所へ行くと、よくこの木が見つかったものです。
 日当たりのいい場所に生え、高さはせいぜい数メートルといったところ。周囲にほかの木が茂り、林になると見られなくなってしまうのでしょう。
 

 たわわに実った実は昔、こどもたちの大好物だったようで、年配の方からはよく、この実を食べて口のまわりを青く(実際は紫っぽい)したものだ、という話を聞きました。たしかに熟して濃い紫色になったものは大人でも手が止まらなくなるほどの甘みとおいしさ。もちろん、鳥などの野生動物も大好物。それらが実を食べ、移動した先でフンをすることでその中に入っていたタネが芽を出し、かつての里山でクワの木が見られるようになったのでしょう。

 お次は”ゴンズイ”。紅色の房のようなものから黒い実が出ています。名前の”ゴンズイ”は魚にも同名のものがありますが、木肌の模様が魚のほうの体の模様と似ているから、とか、魚のほうと同様に「役に立たない」(魚の”ゴンズイ”は毒をもっているので食べられない、ということか)から、という説があります。わたしとしては前者の説を採りたい。後者じゃあんまりなので。この木は林や森の”中”でも見られ、高さはやはり数メートルといったところ。比較的、暖かく、雨も多いような地域に生えている気がします。

ちなみに、実を覆っている房と実の色の赤と黒は”2色効果”と呼ばれていて、1色よりも鳥の目を引き、より食べてもらえる効果があるようです。

 クワはその色と味で、ゴンズイは色は色でも”2色効果”などという方法を採って、いずれもその実を鳥や動物に食べてもらい、それらが移動して糞をしたその中にタネが入っていることで、生育場所を広げていると言えるでしょう。動けない植物がその子孫を広げるための工夫と言えます。植物は基本的に、子孫をなるべく自分から離れた場所へ広げようとします。それは、近くだと自分の枝葉が影となってしまって育ちにくいとか、自分が病気になってしまったときにそれが子孫にも伝染りやすいからとか言われていますが、わたしには、そもそも植物は子孫を自分から離れた場所へ広げようとする傾向があるように思えます。それは動物やキノコにしても同様で、生物というものにはそもそも、生まれれば拡散しようとする性質があるのではないでしょうか。そういえば先日、わたしたちモンゴロイドがどうやって南米大陸にまで広がっていったのか、という本を読みましたが、われわれ人類も数十万年前にアフリカを出て、世界各地へと広がっていったのです。

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