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かつての里山に暮らす動植物 その3 樹木 ~大きくならずに生きる木々~

 さて、リアルタイムの記事が尽きてしまったので、またかつての記事に戻ってみよう。わたしたちの暮らす街の近くにある”かつての里山”に生える植物の紹介だ。これまではかつての里山を形づくるような高木について書いてきたが、今回からは高木にまではならないが、林や森のなかで中程度の高さにまで育つ木々について書いてみる。

 まずはアカメガシワ。その名のとおり新芽が赤い。

大きい葉を付け、陽当たりのいい伐採跡地などによく生える木だ。なぜ新芽が赤いのかといえば、陽当たりのいい場所はそれだけ紫外線が強いことになり、その紫外線から若い葉を守るために赤い産毛のようなものを付けるからだという。よって、赤い産毛は次第に抜け落ち、やがて緑の葉になる。日差しの強い場所に生えるための工夫といっていいだろう。

花に注目する人はあまりいないだろうが、上が雄花。アップで撮ると雄しべが花火のようできれい。写真にはアリしか映っていないが、蜜や花粉を求めて小さいアブなどたくさんの虫たちが集まる。

こちらが雌花。これだけあれば、たくさんの実やタネを付けるのが想像できる。
 わたしが住む静岡あたりのかつての里山ではよく目にする木であるが、最初に書いたとおり、伐採跡地のような日当たりのいい環境に生え、大きくなっても高さ数メートルといったところだ。やがて、あとから生えてきた高木たちに抜かされて、光を受けられなくなって枯れていくのだろう。
 こう書くと、なんだかみじめな木のように思えるかもしれないが、こうした木が生えることで伐採跡地のような陽が燦燦と照り付ける場所に適度な木陰ができ、そこでほかの種類の草木が育つことになる。こうしたその土地の環境に応じた草木の入れ替わりを、専門的には「植生遷移(しょくせいせんい)」と呼び、そのなかでアカメガシワのような木のことは”パイオニアプランツ(先駆植物)”と呼ばれている。自然のなかで確固たる位置を占めているのだ。
 また、人が愛でるような花ではないが、そこには多くの虫たちが集まって蜜や花粉を食べ、傷ついた幹からしみ出す樹液にはカブトムシなどの甲虫類も集まる。自然界で立派な役目を果たしているのだ。

 次は一見、小さなイチジクのように見える”イヌビワ”。こちらはアカメガシワと違い、森の「なか」に生える中低木。見た目のとおりイチジクの仲間なのだが、ビワの実に似ているからかなぜかこの名が付いている(ちなみに”イヌ”には偽物といった意味がある)。生物の教科書なんかにも出てくるので知っている人も多いかもしれないが、上の写真の実のようなものはじつは「花」でもある。先端には小さな虫(コバチの仲間)が潜り込めるような穴が開いており、虫はそこから中に入って卵を産む。そして卵が孵化して成虫となり、花から出ていくときにおしべの花粉をつけ、出口のところにある雌しべに受粉させて出ていくという。したがって、一見、すでに実が付いているかと思いきや、受粉が達成されるとその実のようなものが一回りほど大きくなり、その色もやや紫ががってくる(花のあいだは緑色である)。そうすると正しく実がついた、というわけだ。イチジクの仲間はどの種もこのような受粉の仕方をしているようであり、じつにユニークだ。

紅葉すると鮮やかな黄色に染まる

 このイヌビワはアカメガシワのように、あとから生えてきた背の高い木に抜かれ、枯れてなくなる、というわけではなく、中低木のまま森のなかに生えている。したがって、アカメガシワのように先駆樹種ではなく、植生遷移後半の森のなかに現れる中低木だといえよう。同じ中低木でもアカメガシワとはやや性質が違うのである。

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