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かつての里山に暮らす動植物 その3 樹木 ~森の変化を物語る低木~

 さて、紹介するかつての里山に生える低木も、いよいよ残り少なくなってきた。実際にはもっと多くの低木類が生えているのだが、わたしの写真の持ち合わせがもうない、ということで・・。

上はそんな低木の代表といってもいい、ツツジの仲間のヤマツツジ。よく似たサツキという低木が街の歩道沿いなんかに植えられているのを見たことがあると思いますが、それとほぼ同じくらいの大きさで高さはせいぜい1メートルほどの典型的な低木(ちなみにサツキもツツジの仲間)。林の”なか”にあってもたくさんの葉を広げ、しっかりと花を咲かせます。高い木の下で多くの光を受けられなくても、大きくならずに低く小さいままで生き、子孫を増やしていきます。

 このツツジの仲間は日本のかつての里山に、そして里山ではない人手のあまりついていない奥山にもさまざまな種類が生え、我が国の山に生える低木の代表、といってもいいような気がします。まだ見たことはありませんが九州のキリシマツツジ、中部地方のアカヤシオ、シロヤシオ、信州のレンゲツツジなどなど、各地で愛されているものが多い。さらに、高山に生えるシャクナゲや、やはり奥山に生えるドウダンツツジの仲間などはわざわざ苗を育てて庭木として愛でるほど。この国の人びとにとても愛されている木の花、といえるでしょう。

 しかしながらこのツツジ、見ているとあまり豊かではないような、やせた土地や岩場などによく生えています。それはどうも、根に菌根菌と呼ばれる菌類が共生しており、やせた土地でもその菌根菌がいることで上手く栄養を吸収できるからのようです。歩道の脇に植えられたり、庭木として重宝されるのも、こんなところに理由があるのかもしれません。

 さて、かつての里山に生える低木類の紹介はひとまずこれで終了。こうしてみると、低木類はじつにその生き方がバラエティ豊かで、かつさまざまな種類のものがあると実感。高木のように大きくはならず、日照条件もけっして有利とはいえない林や森の地面でその豊かな生態を育んできたことは、いかに植物がさまざまな種類に分かれ、そして生育場所を広げようとしてきたかということを示しているような気がします。

”カマツカ”という低木の黄葉

 高木のように大きく育たない、ということは逆に、狭い空間でも生きていけることを意味し、それはさらに、多くの種類が生きていくことができる、ということにもなります。森というと、どうしてもそこに生える巨木や大きな木に目を奪われがちですが、その”なか”ではこうした低木たちもしっかりと生きているわけです。

 かつての里山がまだただの”里山”だった頃、こうした低木類は人間の生活に欠かせない”柴(しば=薪ほどではない軽めの焚きもの)”であり、当時の林や森ではあまり見られなかったと思われます。それが、暮らしの燃料がガスや石油になることで柴を刈ることがなくなり、いまでは鬱蒼と再生するようになりました。そんなかつての里山はいま、深い森へと変わろうとしています。そしてそれは、森を形づくるような高さ10メートルを越すような高木が生え、その下に中程度の木、さらに、せいぜい数メートルの低木が生えるという、森本来の姿だといえるでしょう。

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