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かつての里山に暮らす動植物 その3 樹木 ~イヌシデの存在理由は?~
さて、かつての里山を形づくる樹木ということで、コナラとクリを紹介した。今回はイヌシデという少々、マイナーな木をご紹介しよう。
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この木のことを知っている人はほとんどいないのではないだろうか。というのも、花がきれいで目立つわけでなし、実が食べられるわけでなし、その材が身近に利用されているわけでもない。そう、これといってわたしたち人間とはあまり縁のないような木だからだ。しかしながら、かつての里山には意外にも数多く生え、コナラなどと一緒に林や森を形づくっているといっていい。植物学的にはカバノキ科クマシデ属、シラカバやダケカンバと親戚のような間柄の木である。
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花がきれいで目立つわけでない、と書いたが、雄花はこれ。早春、葉が開く前に咲き、枝にたくさん釣り下がる。コナラと同様、風媒花なので風に吹かれて花粉が飛びやすい形態をしている。
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こうした姿を見たとしても、「ああ、イヌシデの花が咲いてるなあ」なんて思う人はまずいないだろう。
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雌花はこれ。雄花よりさらに目立たない。
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葉っぱはこれ。多少、ギザギザのあるいわゆる”葉っぱ”な形なので、これまた印象に残らない。
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上がタネ。これだけちょっとオッと思える姿をしてるかな。付いている葉っぱのようなものは、タネが落ちるときにすこしでも風に乗って遠くへ運ばれるためのもの(翼=よく、カエデのタネと同様のもの)。この房状になって枝から釣り下がるタネの姿が、神社などのしめ縄に釣り下がっている白い紙でできた四手(しで=稲妻を表しているといわれる)に似ているので、イヌシデと呼ばれるようになったとか。
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こんな印象に残らない木ではあるが、低地ではアカシデ、すこし山地に行くとクマシデ、ネコシデ、サワシバといった比較的たくさんの仲間がある木で、シラカバやダケカンバなどとも合わせ、このイヌシデを含むカバノキ科の木々は日本では数多く見られる。
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ただ、どうにも人の話題にのぼらない。多くあって、高さも20メートルほどの高木になるにもかかわらず、たいへん地味な存在である。なので、このイヌシデをはじめとするカバノキ科クマシデ属の存在理由っていったい、なんなのだろう、なんてことを考えてしまった。すると、あることに思い付いた。それは、このイヌシデをはじめとするカバノキ科グループの木々は、崩壊地や岩地のような貧栄養で過酷な土地によく生える。つまり、他の木々が過酷で生えることができないような土地に生え、成長することができるというわけだ。それは、言い方を変えると、崩れやすい土地に根を張り、その土地を安定させる役割を担っている、ということにもなる。
すべての生物は理由があって存在している、なんて大それたことを言うわけではないけれど、地味で目立たない生物もなにか理由があるからこそ、そこに存在するようである。わたしたちはその存在の前につい、理由を考えてしまいがちだが、理由の前に存在があると考えたほうが自然なのかもしれない。
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