【書評】本気でFIREをめざす人のための資産形成入門 30歳でセミリタイアした私の高配当・増配株投資法
日本にFIREムーブメントを巻き起こした話題の本である。世の中には多くの投資本があるが、中には再現可能性が低いものも多い。しかし、本書は、コツコツと高配当・増配株に投資し、配当によるキャッシュフロー最大化を図るという再現可能性の高い方法である。
「こんな清々しい気持ちになったのはいつぶりだろうか。世界が美しい。今後は1日をどう過ごすかを自分で決めるのだ。決して豚舎が決めるのではなく。」
著者の穂高氏が高配当・増配株に投資するようになった動機がこの一節に表現されている。穂高氏はサラリーマンという自由を制限された環境から脱却すべく、投資を行ってきた。
穂高氏は、かつてFXをやっていたそうだが、常に値動きを気にしなくてはならないゼロサムゲームのFXは早々に切り上げた。
損益だけでなく精神面でも消耗するような投資行動は永続的でないことに気づき、ようやくFXに見切りをつけ、本格的に株式投資に軸足を移すことになります。
私も経験があるが、値動きを気にしなければならないトレードは、常に値動きを気にしなければならず、含み損を抱えているときは他に何も手がつかなくなるほど精神を消耗する。
穂高氏はFXに見切りをつけ、高配当・増配株への投資に舵を切る。
「明日は給料日。収入の8割をせっせと株式買付に回す単純な作業。そうして配当収入の綺麗な右肩上がりのグラフが描かれていく。いかに若年期に投下資本を蓄積できるか、もうそれに尽きるんやで」
穂高氏にとって、収入の8割を株式買付に回し、それにより配当収入のグラフが右肩上がりに推移するのが心地よかったという。世の中には様々な投資手法がある。「配当したときには税金がかかるから、配当をしない企業の株価の値上がりで利益をあげる方が効率がよい」「レバレッジをかけて資金を最大化した方が効率が良い」など、理論的に効率的な手法は多々ある。しかし、穂高氏は理論と実践は異なるとし、私が本書で最も共感した部分が次の一節である。
人間がモチベーションを維持したり、精神面での充実や心地よさを感じたりするのに大切なのは、時とともに成長を感じることです。
今日より明日、明日より明後日が良くなる。
次の①と②~④は別のお話です。
①理論的にベストと思われること
②理論を長期的に実践できるか
③それが自分にとって心地よいのか
④それが自分に合っているのか
いくら理論的にベストであろうとも、長期的に継続できなければ、絵に描いた餅になります。また、楽しくなければ続きません。でも、楽しければ、継続できます。 私が現在の投資手法に至る際には、「相場状況に関わらず自分にとって心地よい仕組み作りができているのか」を最優先しました。その結果、配当金を重視する手法に至りました。
「最も効率的と思しきこと」は大事です。大事ですが、「本来最も効率的だと思われていたこと」が、理論を実践に落とし込む過程で、その効果が薄まることは、よく見られることです。なぜなら、人間は機械ではなく、あらゆる要素・要因によって、1つの行動が導き出されるからですね。
この考え方は投資に限らず、人生全てにおいて当てはまる考え方である。投資を通じて、生き方に繋がる考え方を深化させている著者には脱帽である。
著者の具体的な投資方法は、高配当・連続配当株式にコツコツと投資をすることである。
連続増配企業は、1987年のブラックマンデー、1997年アジア通貨危機、2000年代初頭のITバブル崩壊、2008年リーマンショックなど市場全体が大きく下落する局面でも配当を増やし続け、その配当を相場低迷期に再投資することで、高いリターンが実現したことを示す好例と思います。
過去の様々な危機に直面したにも関わらず連続増配しているという強さが、精神的な安定感をもたらすとともに、今後も増配するかもしれないという期待を抱かせる。また、高配当株は、市場全体の株価が値下がりする局面でも株価が下がりにくく、戻りやすいというデータもある。
株式投資をする上で最も避けなくてはいけないのは高値掴みと狼狽売りです。人間の心理メカニズムでは高値掴みと狼狽売りをしやすい傾向にあります。
株価が上昇している時は、「これだけ上がってきたのだから、もっと上がるかもしれない」「もっと早く買っておけばこれだけの利益が上がっていたのに、買わなかったからその機会を逃した。今からでも買わないと」 などと思いやすく、高値で購入するパターンがあります。そして、株価が下落している時は、「こんなに下がるなんて……、どんどん資産が減っていく。このまま保有していると、さらに減って最悪資産がほとんどなくなるかもしれない……」「今ここで売っておけば、さらに下がった時に買い戻すことで、利益も狙えるぞ」 などと考えやすく、売却に至るパターンがあります。
値動きに一喜一憂せずに、コツコツと高配当・連続増配株に投資をすることにより、配当により得られるキャッシュフロー>生活コストになることを目指すのが、本書の哲学である。
この循環を作り出せば、自己増殖的に配当金が増える段階に入ります。この段階にいつ到達できるのかが、資本主義を生きる私たちにとって1つの大きな分岐点ですから、意識しておきたいところです。
お金という人生とは切り離すことができないテーマを考える上で非常に参考になる必読書である。
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