心お弁当『#毎週ショートショートnote』
各地からたくさんのお客さんが来る弁当屋。
着いた先には普通の民家が建っていた。
看板も見当たらない。ここであっているか不安になるが、チャイムを鳴らしてみた。
「中へどうぞ」
女性の声だった。
入ると中も民家そのものだった。
何かを切っている音が聞こえる。
台所を覗くと、一人の女性がリズムよく包丁を動かしていた。
「高橋さんですね。居間でお待ちください」
しばらく待っていると、女性が弁当箱を持ってきた。
「どうぞ」
ふたを開けると見覚えのあるお弁当だった。
卵焼きを一口食べると、自然と涙が頬を伝った。
箸が止まらなかった。食べ終わると、僕は号泣していた。
間違いなく妻が作ったお弁当だった。
心に開いた穴が埋まっていくのがわかる。
ふたを閉めると、体が宙に浮いたような不思議な感覚に、意識が遠のいていく。
「お疲れ様でした。成仏してください」
女性の言葉に安堵した。
これでやっと成仏できるんだ。
ありがとう心お弁当、まさに天にも昇る美味しさだった。
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