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異国で奮闘する同い年のサムライに刺激を受けた旅。

人は何故旅に出るのか。それは非日常を体験するためである。と、昔何かの文献で読んだことがある。世界遺産に関する考察の文献だっただろうか。全くもってその通りで、ストレス社会に身を置く現代の我々にとって、旅によって非日常を体感しストレスを発散することはとても重要なことだと思います。綺麗な景色を見たり、美味しいものを食べたりしてリフレッシュ。いいですよね。

今回の自分は、いつもと違うスタジアムで、いつもと違う雰囲気のサッカーを観たいから旅に出てみました。日本のスタジアムと違ってどこか自由な空気感のスタジアムで。

誤解の無いように言うと、自分は日本のサッカーも好きですし、日本のスタジアムでサッカーを観ることだってもちろん非日常です。でもなんか、理由はわからないけど、たまに息苦しくなる。ちょっと視点を変えたくなる。

そうなると自分の中で真っ先に挙がる行き先がマレーシア。サッカーのレベルは高くないけれど、どこのスタジアムに行っても大体楽しい雰囲気があります。結果にそれほど一喜一憂しない、いや、喜びのエネルギーはとても大きいんですけど、チームの負けが込んでても殺伐とした雰囲気にはなりません。熱いんですけど危なくない。人生にサッカーがあるこの瞬間を楽しむ心意気がマレーシアのサポーターにはある気がします。これにすっかりハマってしまい既に4回もサッカーを観るためにマレーシアに行っています。エアアジアを使えば航空券も高くないですし。去年はカップ戦の決勝戦も観てきました。

東南アジアのサッカーリーグというと、タイやシンガポールの名前が挙がることが多いですが、これらの国では多くの日本人選手がプレーしています。しかしマレーシアでプレーする日本人選手は多くありません。今年は1部と2部で4選手がプレーしているはずですが、これでもここ数年に比べたら多い方。首都クアラルンプール(以下KL)はリタイア後の移住先として日本でも人気を博し、比較的生活しやすい環境なのですが、意外にもサッカーでは人気の行き先ではないようです。なので自分もマレーシアで日本人選手が出場する試合をこれまで観たことはありませんでした。

今回マレーシアに渡航するにあたりマレーシアリーグの下調べをしていたら、Wikipediaで1人の日本人選手に辿り着きました。

中武駿介

聞いたことがない名前です。それもそのはず、大学卒業後Jリーグを経ずに東南アジアでプロキャリアを積む選手とのこと。ただ自分と同年同月の生まれということ。また、神奈川大学でキャプテンを務めていたということで、神奈川県民の自分は勝手に親近感を覚えてしまいました。同学年のこの選手が、大好きなマレーシアサッカーでプレーする姿、興味深い。これが旅の決め手となりました。

そうやって今回はACLにも出場した絶対王者ジョホール・ダルルタクジムFC(以下JDT)を筆頭としたスーパーリーグ(1部)の試合を無視して、プレミアリーグ(2部)に所属する彼のチームの試合を観戦しに行くことにしました。

KL国際空港からバスに乗って1時間ほどのところにある街、スレンバンが今回の目的地。KLセントラル駅から鉄道でも1時間でアクセスできる地方都市です。この街を本拠地とするヌグリ・スンビランFAに中武選手が所属しています。

熱帯のマレーシアでは基本的にナイトゲームしか開催されません。今夜の試合も21時キックオフとのこと。試合終わったら23時だ… 19時過ぎに街からタクシーでスタジアムへと向かいました。スタジアムは街から遠いところが多いので行き帰りはアプリでタクシー呼ぶのが一番。マレーシアはタクシー使っても安いので助かります。15分ほど乗って300円前後でした。

スタジアム・トゥアンク・アブドゥル・ラーマン。通称「スターオブパロイ」というスタジアム。とりあえず窓口でチケットを購入。20リンギットということで600円しないくらい。これでもメインスタンドの屋根付き席だから高い方で、バックスタンドなどはもう少し安いそうです。

飲食やグッズの売店はバックスタンド側にあるとのこと。スタンドに常設されている食堂に加え、飲食・グッズの露店が並んでいました。

その中でも美味しそうなチーズフライドチキンを購入。マレーシアっぽさは無いけどとても美味しいそうだったのでつい。9ピース約350円。仕上げにバーナーで炙って、チーズがトロトロで、美味しかったのですが、フォークや箸が全く入っていなくて手掴みで食べるのだけは大変でした…でもこういうところでイライラしてはいけません。そんな緩さもマレーシアの魅力だったりするのです。と、言い聞かせながらチーズでベタベタの手をウェットティッシュで拭き拭き…

結構なボリュームでチーズチキンだけでお腹いっぱいになってしまいました。マレーシアっぽいグルメにありつけず。スタジアム以外でも食べられるからいいか。ということで次はグッズ購入。ユニフォームとマフラーを購入しても2400円で済むお手頃価格。ユニフォームはレプリカとオリジナル(オーセンティック?)の2種類ありましたがオリジナルを選択してこの値段。本当に安い。

これで完全にヌグリサポーター。これがマレーシアリーグを始めとした東南アジアサッカーの好きなところでもあります。グッズがこんなにお手頃だと、すぐにホームチームに加勢できちゃいますよね。

このスタジアム、試合日以外も営業している常設の食堂もあるからなのか、棲み着いている野良猫が多い。しかも人慣れしている。近寄っても全然逃げない。カメラ構えるとレンズに体を寄せてくるのでピントが合わない合わない。とても可愛い。

試合中も野良猫が2回もトラックに現れてスタッフに回収されていました。幸い、大きなトラックがあるので先日イングランド・プレミアリーグであったような黒猫暴走騒動のようにはならず。猫好きにもたまらないかも、このスタジアム。

外で時間を潰していたらキックオフまで1時間を切ったのでスタジアムの中へ。

すごく大きい陸上競技場。3〜4万人くらい入りそう。観やすさでいうとかなり微妙。マレーシアリーグではこのような陸上競技場が多いです。

ガラガラだなと思っていましたが、試合開始に近づくにつれ観客が増えてきて、最終的には3〜4000人くらい入っていたと思います。週末開催だともう少し入るようなのですが、火曜日開催で、相手もセカンドチームではアウェイサポーターの動員も見込めません。仕方ないでしょう。

そう、この日の相手はマレーシア・スーパーリーグの絶対王者JDTのセカンドチーム。2軍とはいえ、高いレベルの外国人選手が所属していたり、スペイン出身でマレーシアに帰化した選手がいたり、戦力としてはスーパーリーグにいても遜色が無いくらいの強敵です。スーパーリーグ昇格への可能性を残すヌグリ・スンビランにとって、この日の試合は絶対に落とせないものでした。

マレーシアリーグでは試合前、両チームの州歌を斉唱し、最後にマレーシア共和国国歌を斉唱します。日本で言えば川崎市民の歌と横浜市歌を斉唱した後に君が代を斉唱するような流れ。もっとも、マレーシアの州というものは日本の県や市以上の意味合いを持つ、国のようなものですが。

それぞれの州への愛を歌い、最終的にマレーシア共和国として団結していくこのセレモニーの流れも心揺さぶられるのでとても好きなところです。

セレモニーが終わるといよいよ試合開始ですが、注目の中武選手はなんとキャプテンマークを巻いています!

試合が始まると、ゲームキャプテンに相応しい活躍を見せてくれました。頻りにチームメイトに戦術やポジショニングの指示を出し、ボランチとして常にバランスを気にしながら舵を取っていました。機を見た攻撃参加も脅威となり、相手守備陣を混乱に陥れます。

マレーシア人選手が試合中に集中力を切らしてしまうシーンはどこのチームでも頻繁に見てきたので、2部リーグの選手ならその傾向も顕著なのだろうな…と予想していたのですが、この日のヌグリ・スンビランは中武選手が常に味方を引き締めることで全員の集中力が高い状態でプレーを続けられていました。これは納得のキャプテンマーク、間違いなく助っ人の働きだ、と。

また、中武選手はプレースキックの精度が高く、今シーズンは何度も直接フリーキックをゴールに叩き込んでいるそう。なので良い位置でフリーキックを獲得するとスタンドからは間髪入れず「ナカタケ!」の叫び声が飛んでいました。期待の表れでしょう。

守備に攻撃にハードワークし、プレーが切れた時も周りに声をかけて、熱心なプレーのひとつひとつを、日本人としてとても誇らしいなと、勝手ながら、すごく感心して眺めていました。

この日の試合を決定付けたのは1ゴールずつ挙げた助っ人ブラジリアン3人の活躍でした。特に勝ち越しの2点目はセンターバックのブラジル人選手が35mはあろうかという距離から弾丸のようなフリーキックを突き刺し、スタジアムは歓喜の渦に包まれました。

試合は結局3-1でヌグリ・スンビランの勝利。リーグ2位につける強敵相手に貴重な勝ち点3を手にし、昇格争いに望みを繋げました。

試合後、メインスタンド側に戻ってくる中武選手に声をかけることができました。日本人が観に来るのは珍しかったのか、驚いたような表情でしたが、「ユニフォームまで買っていただいて」と気配りのできるところをピッチ外でも見せつけられてしまい、素敵な選手だとつくづく感心してしまいました。

自分の周りにいた地元のサポーターも写真を撮ったり握手攻めしたりと、在籍1年目にしてサポーターに愛される中心選手です。

更に帰り道で中武選手のFacebookをフォローして知ったのですが、KLに住む日本人の子供たちにプロサッカー選手と交流できる機会を提供したいと、定期的にサッカー教室やトークイベントを開催しているそうです。同い年でここまで考えて行動できる人格者。「キャプテン任されて今日でまだ2試合目です」と謙遜していましたが、こうやって任されたのも自然な流れだったのかもしれません。

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その後、マレーシア・プレミアリーグは残りの2試合が行われ、ヌグリ・スンビランは惜しくもスーパーリーグ昇格を逃しました。配信サイトmycujooで観戦していましたが、最終節、中武選手の直接フリーキックによるゴールであと一歩のところまで詰め寄った戦いぶりは素晴らしいものでした。

今月はカップ戦の予定が組まれており、ヌグリ・スンビランはグループリーグでスーパーリーグ所属の格上クラブと3試合を戦うことになっています。来季、より良い環境でプレーするためには絶好のアピールの機会となることでしょう。

マレーシアに限らず東南アジアでプレーする助っ人外国人は入れ替わりが激しく、日本では考えられないことも起こり得るシビアな世界だと聞きます。中武選手にはマレーシアのサッカーファンの憧れとして長くプレーを続けていけることを心から願っています。その姿をチェックして、また自分も刺激をもらえたら、嬉しい限りです。

異国で奮闘するサムライに刺激をもらったサッカーの旅。機会があれば、今後もいろんな国に日本人選手を観に行ってみたいものです。


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