見出し画像

#vol.4 人口減少社会の未来に備えよ。日本の転換点を探る必読書。

 今回は、「コミュニティを問い直す」の著者で有名な広井良典さんの新作「人口減少社会のデザイン」を取り上げてみたい。

 将来を予測する際、一番実態に近い状態になるのが、人口の推移だ。(人間は毎年1歳ずつ等しく歳を重ねるため、将来予測が大きくずれることがない)

 文章も読みやすく簡潔に書かれていて、広井さんの文章、僕は好き。

「人口減少社会のデザイン」において重要なのは、まさにこうした「拡大・成長」型の思考、あるいは”短期的な損得”のみにとらわれ長期的な持続可能性を後回しにする発想の枠組みから抜け出していくことにある。p.18

 冒頭で本書の大方針を語っている。これまで目指してきた「経済成長がすべての問題を解決してくれる」という大前提がいま揺らいでいるというわけだ。ではどうすればよいのか。
 広井さんの素敵なところは僕らに自らの解決案を提示してくれて、議論の素案を与えてくれるところにある。

「人口減少」が必然的にもたらす帰結なのではなく、公共政策や経済社会システムのありようの問題なのだ。つまり、戦後の日本社会は、高度成長期の前半期には「工業化」という方向を国是とし、農村から都市への人口大移動を促すような政策を行っていった。p.34
現在の日本の地方都市の空洞化は、国の制作の”失敗”の帰結なのではなく、むしろ政策の”成功”、つまり政策が思い描いたような都市・地域像が実現していった結果という側面を持っている。p.34

 一連の文脈の中で、国家が目指してきた方向性と人口減少による問題を切り分けて明示している。
 つまり、時代に即した目標設定の達成が、現”人口減少社会”というモデルにおいてはそぐわない結果を生み出しつつあると指摘していると僕は読み取った。

 これは決して悪いことではなくて、”人口減少社会”に向けて、新しい国是を今こそ考え直すときなのではないかというある種の問いかけにも思えるのだ。

 本書ではここから、都市や社会保障、医療といった領域で具体的にどのような取り組みを行うべきかを丁寧に説明している。
 その中で、僕が鋭いと感じた指摘を2点程取り上げてみたい。

「経済効率性」をめぐる逆説と若い世代の生活不安という項目の中で、
(以下引用)
若い世代の生活や雇用の不安定ないし困窮が、少子化の要因の一つとなっているのであり、若い世代への支援というテーマが「人口減少社会のデザイン」にとって、非常に重要であると言える。(中略)いささか強調した言い方をするならば、保育所の整備など、すでに結婚して子供のいる層への支援もさることながら、むしろ結婚の手前にいて、本来は結婚したいが生活や雇用の不安定のためにそれができないという層などへの幅広い支援策が重要だろう。p.63

 かなり強い意見だが、たしかに”保育所”があるから、子供を産もうとは考えないわけであり、支援(施策)の内容が実態と乖離してしまっている点が否めないのだ。(ここは政策立案を勉強しないと意見を示せない領域なのは僕自身理解しているつもりではあるが、、。)

 考え方としては今までにない視点でとても斬新だなと感じた次第。

 施策のみならず、日本特有の日本人らしさや国民性にも言及している。

現在の日本の場合、「知っている者同士」の間では極端なほどに気を遣い、また同調的にふるまおうとするが、見知らぬ者あるいは集団の「ソト」の者に対しては、ほとんど関心を向けないか、潜在的な敵対関係が支配するという現状がある。(中略)人口減少社会を迎え、カイシャなどの組織が流動化し、かつ家族も多様化して一人暮らし世帯も急増する中で、「集団を超えて個人と個人がつながる」ような関係性をいかに育てていくかが日本社会の最大の課題となっている。p.89

 よく言われる議論ではあるが、まさか人口減少社会に紐づけて語られる内容であるとは思わなかったというのが所感。

 たしかに、言われてみればカイシャはどんどん人材を流動化させようとしている(副業解禁などもその一例)し、組織にとらわれない形で、個人と個人がつながる関係性を育てていこうとしているのである。

 現代社会において、副業がOKであることやリモートワークが可能になり、働く場所を選ばなくてよくなったことは好意的に受け止められる傾向が強いように感じるが、視点を変えてみれば多くの領域で責任の所在が明確になりはじめているとも言えなくはないのだ。

 ある種裁量権を与えてあげるから、個人の責任でお願いします。というムラには見られなかった新たなカイシャと個人の関係性が見え始めてくる。(これはこれで新たな問題を生み出しそうではあるが、、)

 とにかく、冒頭述べたように将来予測をする際、人口の推移はかなりの部分で信頼に足る指標になり、こと日本社会においては”人口減少社会”がまさに生み出されようとしているわけだ。

 したがって、社会は”そうなっていくのである”と捉えたほうが賢いし、そうなっていく社会に自身が取り残されないだけでなく、どうしたら多くの人が順応できて幸せになれる社会モデルをつくっていくかということに思考を巡らせるもの必要な時間のように僕は思う。

 ぜひ、興味を持ってくださった方は、広井良典さんの著書を読んでみていただけますと幸いです。

 それでは~!

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?