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紀南紀行「熱と火祭り」

はじめに

和歌山県那智勝浦町那智山の世界遺産・熊野那智大社の例大祭「那智の扇祭り」が7/14に斎行されました。その際、新聞記事用に書く予定だったコラムがタイミング的にボツになりましたので、470字程度のコラム「紀南紀行」と題して、ここで発表させていただきます。「那智の扇まつり」の説明は、最後にあります。

紀南紀行「熱と火祭り」

 乱舞に荒ぶり、燃え盛る炎。前日の雨で水量を増した滝のいつもに増したドオドオという音とその圧倒的な存在感を背後に感じながら、重さ50~60キロにもなる大松明(たいまつ)を汗ビッショリの険(けわ)しい表情で担ぎ運ぶ男衆を正面にとらえ、私はファインダーをのぞき躍起(やっき)になってシャッターを切った。水と風、炎と煙、そして人々の熱気が渦を巻いて、深い森林に囲まれたその全体がまるでひとつの生き物であるかのように蠢(うごめ)き、ざわついている。那智の扇祭りである
 一般の拝観者参入は3年ぶり。例年熊野十二所権現と呼ばれる12柱の神を遷(うつ)し繰(く)り出している扇神輿12体と、その道を炎で清める大松明12体も、過去2年は2体ずつしか出番がなかった。それが今年は規模を戻し、一般の拝観者も入れて大いににぎわいを見せた
 私の近くを男衆が通る。瞬間、頭上にものすごい熱気。神の道を清めるとは、私の想像をはるかに超えたエネルギーを宿す重要な役割なのだと、じわりにじんだ汗が知らせる。神威を新たに。吹き出すいくつもの「熱」が、大きな祭りそのものであった。【稜】

那智の扇祭り

 熊野三山の一つに数えられる那智勝浦町那智山の世界遺産・熊野那智大社の年に1度の例大祭。7/14に行われる。日本三大火祭りの一つ。熊野の神々が扇神輿(おうぎみこし)に乗って本宮から別宮・飛瀧神社にある「那智の滝」へ里帰りし、神威を新たにする祭典。
 12柱の神々を、滝の姿を表した高さ6メートルの扇神輿に移し本社から滝まで渡御する。祭りのハイライトは滝の参道で白装束の男たちが燃え盛る重さ50~60キロの大松明(おおたいまつ)で迎え、その炎で清める神事。
 また祭りの中で奉納される「那智の田楽」は、田楽舞を創成期の形そのままに伝えている数少ない例として、国の重要無形民俗文化財に指定、ユネスコの無形文化遺産に登録されている。
 コロナ禍でここ2年は規模縮小が続き、一般の参列者は入れなかった。今年は時間短縮などは行ったものの、主要な神事は全て行い一般の参列も認め、久々に本来の形で営まれた。

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