見出し画像

理系論文の型を会得したくて、本を何冊か読んでみた

恥ずかしながら学生時代から今に至るまで、論文を書くときも読むときもなんとなーくでやり過ごしてきた私。

しかし、そろそろ中堅と言われる齢になってきたし、このままじゃいけない!

と思い立って、頼ったのがTwitter界。

素晴らしい皆様からたくさんの暖かいコメントをいただき、一件落着。

いやいやちゃんと読まねば。ということで早速数冊購入して読んでみました。

本によって全然違うことが書いてあったんですが、僕の中でスッキリしたものを中心に整理しています。詳しくは末尾に記載した本を読んでみてください。

多分論文を書くときだけでなく、読むときの参考にもなるはず!

研究計画の順番通りに論文も書くべし

研究っていきなり実験をするわけではなく、必ず何かしら「仮説」をもって始めます。

その通り書けばいいじゃんってのが一番シンプルな話。

そもそも臨床試験を実施する際は倫理審査を通すために事前にプロトコルを作成するので、自然とこの流れになってるんですけどね。

ということで、以下のような流れで書くことが推奨されていました。

1.Introduction
(我々の場合)市場の健康課題の背景調査、先行研究を確認、リサーチクエスチョンの整理をすることで、まずは研究背景、目的、仮説をまとめる

2.Methods
研究の方法をまとめる(データの取り方、実験条件、統計方法など)

3.Results
実験の遂行、データ収集、統計解析

4.Discussion
実験データの解釈、考察

5.Abstract
1~4を端的な言葉で整理

6.Title
Abstractの要素をさらに抽出

ただし、全体像が掴めていないと書きづらい事もあるので、最初の入りとしてAbstract草案から始めるというやり方もありかもしれません。これは読んだ本ごとに主張がバラバラでした。

では一つ一つもう少し詳しくいきます。各パートにおいて、【構成】と【気をつけること】に分けて記載しました。

1.Introduction

論文の冒頭とも言えるパートで、構成としては以下のものがオーソドックス。
改めていろんな論文を改めて読んでみると、この四つの要素で構成されているものがほとんどでした。

【構成】
①背景
なぜこの研究を実施するのか、やる意義があるのか?研究は何かしらのリソースを使ったり、臨床試験であればヒトの協力を得るわけなので、ここは改めてまとめるまでもなく必ずあるはずだし、ないなら研究する意味ないよねって話。

②今何がわかっているのか?
①の背景に対して、先行研究では何が明らかになっているのか?どんなことが既にわかっているのか?

③何がまだわかっていないのか?
①に対して②のアプローチが既に取られているが、まだわかっていないことは何なのか?

④研究目的は何か?
①〜③をふまえて、どんな仮説を立案するのか?リサーチクエスチョンの形でまとめると整理しやすい。よく言われるのがP、E(介入試験の場合I)、C、O。どのような対象者(P)にどのような暴露(E)があれば、何と比較して(C)どんな結果になるのか(O)。

【気をつけること】
④に関してもう少し書くと、この研究目的は以下の要件を満たすことが重要で、質の良い論文になるかのポイントにもなる。
Novel:新しさ
Feasible:実現可能か
Interesting:興味深いか
Relevant:必要性、関連性があるか
Ethical:倫理的か

2.Methods

具体的な実験に関する部分で、先行文献を読むときは穴が開くほど読み込むパート。

【構成】
研究によって必要な項目は変わるでしょうが例えばこんなところでしょうか

・臨床研究
→研究デザイン(介入研究か観察研究かなど)、対象者の選択基準、除外基準、アウトカムの測定方法、介入(何を、どのように、いつ、どのくらいの間)倫理的配慮

・非臨床試験
→系統や週齢、投与経路、細胞の種類、

・共通
→統計解析(使ったソフトも)、試薬(入手先も)

【気をつけること】
書くときに意識すべきは「この論文を読んだ他者が再現できるレベルのことを綿密に記載する」こと。多くの論文がなかなか再現できないという論文すら出てますが、再現性はとても重要な観点。

ヒトを対象とする場合は遺伝的にも生活習慣でも全く同じ集団を抽出して同じ実験を組むことは難しいので、なおさら細かく記載することが重要。

また選択基準など定義づけが必要になるものは、既報があることが望ましい。例えば「高血圧患者」に向けてなら、ガイドラインの定義や既報を活用すべきで、勝手に基準は作らない(当たり前だけど重要)

このパートは過去の文献と似通うことが多く、特に自分たちのグループが過去書いたものと同じ場合もあるが、コピペすると剽窃となる恐れもある。その場合は「our previous paper」「In brief」などを記載することでケアすること。

3.Results

【構成】
臨床研究だと、最初のFigureやTableは対象者の選択と除外を整理し、その人たちがどういう特徴かを記述したものが多いですね。

そのほか構成自体はあまり決まったものはなさそうですが、文章とFigure/Tableが混在するところでもあり、気をつけることがたくさん。

【気をつけること】
・結果を公平に記述すること。感情は入れず、結果をシンプルに書くべし。

・全て過去形で書くべし。現在形だと結果というより真理に近い。

・Figure/Tableとその下の補足を読むだけで理解できること、つまり本文を読まないとFigureの内容がわからないような記述は避けるべし。

・必ず前述のMethodsと一対一対応しなければならず、Methodsに記載した実験のみ言及するべし

そのほか細かい話をすれば、「Tableには縦線を使わない」などいろんなルールがあるので、詳しくは末尾記載の本を読んで確かめてみてください。かなり細かい規定があるのがこのパートかもしれません。

4.Discussion

Resultsに基づきさまざまな考察を重ねて、Conclusionに向かって一直線に向かうパート。

【構成】
①Resultsを簡潔にまとめ、Disucussionに繋げる。

②過去の文献との比較。これはIntroductionの②や③と対応するところですが、ただそれを説明するのではなく、その先行文献(previous study)と何が違うのか、特に我々の研究は何が新しい(novelty)のかを記載。

③Resultsの解釈や含意。当初立てた仮説に対して、適切なのか、予想外なのか、それは臨床的にどのような意味合いがあるのかを、論理的飛躍をすることなく一直線に書く。妄想を書かない。

④Limitation。今回の結果に与えうる制限の列挙。特にさまざまなバイアス(選択バイアス、測定バイアス、交絡)の大きさなどを適切に記載する。

⑤Conclusion。Limitationを踏まえて、誠実に。原則として断定的ではない表現(may, suggestなど)や過去形で書くなどの工夫を。

【気をつけること】
全ての内容は結論(Conclusion)に向けて論理一貫性を強く意識すること。

ここはとにかく冗長になりがちで、特にIntroductionと同様自分の調べた文献の話をとにかくたくさんしたくなるところをグッと我慢すべし。

またLimitationは非常に重要で、読むときはこの制限があることを前提に理解が必要だし、書くときも隠すことなくしっかり書かないと、そもそもreviwerにはバレてるよっていう話。

5.Abstract

全体を簡潔に示す冒頭のパート。読むときはまずここを見るので、大事なところで、ジャーナルによって指定があるなどまちまち。

【構成】
最もシンプルな形であればこんな感じ。
①背景 Background
②方法 Methods
③結果 Results
④結論 Conclusion

さらに細かい場合は(BMJの投稿規定)
①目的:主な目的/意義とリサーチクエッション
②デザイン:前向き、ランダム化、盲検化、クロスオーバーなど
③設定:ケアのレベル
④参加者:n数や属性。選択基準と除外基準。
⑤介入:何を、いつ、どのように、どのくらいの期間
⑥アウトカム:最終的に計測されたもの
⑦結果:95%信頼区間、または統計的有意性のレベルなど主な結果。
⑧結論:今回の結果から導かれる重要な結論

さらに、最近はAbstractにLimitationを書くことが求められることも出てきているようですが、基本的にはここでは書かずにDiscussionパートで書く。

【気をつけること】
そもそもここまでの本文を書いた上で、重要な部分を濃縮して書くべきパートであり、それ以上の結論を導いてはならない。

本文の重要な文(key sentence)からのコピペもいいが、できるだけ簡潔に言い切るべき。

また、原則として過去時制で書くべきで、現在形だと普遍の真理を表してしまう。

6.Title

Pubmedで検索してここだけを見て論文を選ぶので、ここでしっかり伝えるべし

【気をつけること】
・一言一句無駄な単語を入れないこと
・体言止めの方が良い(議論の余地あり)
・曖昧な表現は避け、この論文の対象を明確に
・検索されやすいような単語を入れる

文字数を減らして明確に伝えるため、前置詞をうまく駆使するのもテクニック。by(手段)、for(目的)、from(起点)、in(場所/関連)、of(所属/関連)辺りが使いやすそうです。

ちなみに、Abstractを読んでこの論文のTitleを作成する演習を課していた本もあって、なかなか面白かったです。有名ジャーナルの論文で試しに遊んでみてもいいかも?

まとめ

論文にまとめる際に記載すべき必要不可欠な情報として整理されているガイドラインがあり、例えば
観察研究:STROBE(the Strengthening the Reporting of Observational Studies in Epidemiology Statement
無作為化比較試験:CONSORT(Consolidated Standards of Reporting Trials
などがあります。
これらを読めばそもそも必要な要素が全体としてわかるので、日本語での解説したサイトをぜひご覧になってみてください。

参考にした書籍

今回は以下の書籍を参考に自分なりに要素を抽出してまとめました。

表現方法など細かいテクニックは読んだ方がわかりやすいので、気になる方は購入をぜひご検討ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?