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特許をどう仕事に活かすか?オススメの活用術5選!

〜今回の話は全理系民、全食品業界関係者に読んでもらいたい逸品です〜


飲料食品業界の皆様に朗報です。

4月からなんと飲料メーカーを題材にしたドラマが始まります。

これまでなかったよね。医療界とか法曹界とかあんだけドラマになってるのに、なんでうちらはないんだと思い続けておりましたが、ついにその時が来ました。自分の身の回りの人に当てはめて見れそうです楽しみです。


そして、飲料メーカーの中でもさらに知財部門の話とのこと。なんてマニアックなんだ・・でもそんなところがイイ(・∀・)

ところで、みなさん知財って何者かご存知ですか?

人間の知的活動によって生み出されたアイデアや創作物などには、 財産的な価値を持つものがあります。そうしたものを総称して「知的財産」と呼びます。 知的財産の中には特許権や実用新案権など、 法律で規定された権利や法律上保護される利益に係る権利として保護されるものがあります。それらの権利は「知的財産権」と呼ばれます。

日本弁理士会「知的財産権とは」より

この知的財産権は何種類かあるのですが、有名どころ&メーカーに主に関わるところとして
・特許権→技術情報
・商標権→ネーミング
・意匠権→デザイン
あたりがあります(ざっくり)。


ということで、中でも特許が技術に関わるところなわけですが、、、、

みなさん特許読んでますか?

>なんか文章難しくて読みにくいんだよなぁ
>請求項1だけ読んであとはスルー
>適当に単語入れて検索してるわ


・・・・・・

こんな宝の山を見逃すなんてもったいない!!


ということで、今日は非知財部門の人(特に研究開発者)が特許をいかに活用していくべきか、私なりの使い方を五つに分けて解説します。

特許はどうしても守り(権利保護、他社特許抵触回避)のイメージが強いですが、実は攻めにも使える文書だと私は確信しております。

ちなみに、今回はあくまで特許をどう役立てるかがメインなので、特許のルール(公開や登録に至るまでの流れ)や検索式の作成方法などは語っていません。あらかじめご承知おきください。

あと、知財が本職ではないので、語句や認識の違いがあればご指摘ください!

本日の題材


具体例がないと分かりにくと思うので、(生贄を)持ってきました。

https://ipforce.jp/patent-jp-B9-6279714

特許6279714:睡眠の質改善剤
【請求項1】
ラクトバチルス・カゼイの菌体及び/又はその処理物を有効成分とする睡眠の質改善剤であって、入眠潜時短縮剤、日中覚醒困難改善剤及び中途覚醒数減少剤から選ばれる1種以上である睡眠の質改善剤。

はい、あれです。

この特許のおかげであの製品はあの会社からしか出せないのです(あの菌を他社が出せるとも思えんけど)

ではここから活用術五選、早速行きましょう!

①基本構成:技術文書のいろは

特許明細書の基本構成は大体こんな感じ

【発明の名称】
【技術分野】
【背景技術】
【先行技術文献】
【発明が解決しようとする課題】
【課題を解決するための手段】
【発明の効果】
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【産業上の利用可能性】

馴染みのない言葉で書かれると分かりにくいですが、これって

発明の名称:タイトル
技術分野:ジャンル
背景技術:イントロ(背景)
先行技術文献:イントロ(既存知見)
発明が解決しようとする課題:イントロ(目的)
課題を解決するための手段:イントロ(目的)
発明の効果:イントロ(目的)
発明を実施するための形態:方法
実施例:方法、結果、考察
産業上の利用可能性:考察

ということで、乱暴に言えばイントロに偏ってる論文です。しかも日本語です。DeepLに入れなくても読めます。

理系文書の型を学ぶのに、特許はちゃんと全体像を読むと案外いいこと書いてあるので、参考にしましょう。権利を守るはずの他社特許の文章をぱく参考にするって、逆転の発想ですがかなり有用です。

②特許の分類:お隣さんを知る

特許にはIPC分類というもがあります。

”国際特許分類”とは、特許出願された発明を分類するため国際的に統一された分類であり、特許公報などの文献に表示されています。
International Patent Classificationの頭文字をとってIPCと呼ばれます。IPCは、発明に関する全技術分野をAセクションからHセクションの分類されています。

https://chizai-portal.inpit.go.jp/madoguchi/kumamoto/consultation/support/patent/class/

これ、検索式を作る時にも知っておいた方が良いのですが、こうやって分類の全体像を掴み自分の現在地を知ることができるので、実はものすごく重要な情報です。

自分の位置を俯瞰することで、次の一手をどこに進めれば良いかわかることもあります。もう少し噛み砕いて言うと、「へぇーこんなジャンルなんてあったんだ。自分の研究に当てはまるとどうなるだろう?」と言う感じ。

分類からお隣さんを覗くべし。

では例の乳酸菌の特許を見てみると、

A61K 35/00
A61K 31/00
A61P 25/00
A61P 43/00

このA61と言うのが分類なんですが、全部覚えるのは無理なので、検索サイトから調べましょう。

食品系の特許で多いのはA(生活必需品)のうちA23(食糧、食料品)とA61(医薬)ですね。

今回は睡眠改善「剤」ということで医薬系のIPCが並んでますが、A23も普段結構よく見かけます。

この分類眺めるだけでかなり面白いので、ぜひご覧ください。

A23↓

こんな感じ。そうやって分けるのねという発見も。

医薬品や化粧品はA61↓

(もっと詳しく知りたければFタームとかFIとか他にも分類があるので調べてみてください)

③背景:技術トレンドを学ぶ

論文だろうが特許だろうが読み飛ばしがちなパート。それが背景。

特許に書いている内容も、正直言って「まあそりゃそうやろ」くらいのことも多いです。

でも例えば、こんな活用ができます。

自分の研究を誰かに説明するときに冒頭でいろいろ背景を語ることもありますよね。その都度適当にググって出てきたよくわからないサイトの情報から背景をつぎはぎするくらいなら、自分の取り組みに近い特許明細書の背景からパクったほうが、先行文献のことも書いてくれてるしまだマシです。

試しに例の特許を見ると・・・

現代社会においてストレス、食物の偏食、環境等の要因により、不眠症又は睡眠不足に罹患しているヒトが増加している。睡眠不足は、肥満、高血圧、集中力低下、うつ病、糖尿病等の原因ともなるといわれており、睡眠不足の解消は重要である。
睡眠不足の解消の目的で、睡眠導入剤の他、種々のサプリメント等が推奨されている。例えば、アミノ酸の摂取、植物抽出物、香料、ラクトバチルス属乳酸菌又はその発酵物やホスファチジルセリン(特許文献1〜5)等が睡眠を改善することが報告されているが、その効果は十分ではなかった。
また、ラクトバチルス属乳酸菌等については、入眠潜時短縮効果を奏しないことが報告されており(非特許文献1)、さらに、日中覚醒困難改善効果を奏することについては何ら報告されていない。

うん、それっぽい。こう言った文章書くこと結構あるよね。

なんなら論文化の前に特許出願をすることも多いので、論文書くつもりでこの辺をまとめとくのはアリ。

④実施形態:アイディア強制発散

発明を実施するための形態とは、この技術はこんな形で使われることを想定しているよ(だから真似するなよ)というパートなので、どの特許を見てもものすごい大風呂敷を広げています。

え?そこまで活用の範囲広げちゃって、検証できてないけど大丈夫?と思うようなものも多々ありつつ、あくまで権利範囲を主張しているということで・・・ちょっと納得いかないこともありますが。

ということで、大風呂敷広げるので、この出願人が想定できる色んなアイディアがここには詰め込まれています。これは現場の人間だからこそ発想できることもあるので、そのアイディアを自分の取り組みにも横展開してみたら面白い化学反応が起こるかもしれません。

件の特許もたっぷり書いてますが、一例を挙げるとこう

ラクトバチルス・カゼイであればその菌株は特に限定されないが、好ましい例としてラクトバチルス・カゼイ YIT 9018(FERM BP−665)、ラクトバチルス・カゼイ YIT 9029(FERM BP−1366)、ラクトバチルス・カゼイ YIT 10003(FERM BP−7707)が挙げられ、睡眠の質改善効果の点から、ラクトバチルス・カゼイ YIT9029(FERM BP−1366)が特に好ましい。

↑菌の範囲を広げやがったなぁ

ラクトバチルス・カゼイを含む発酵物は、例えば、ラクトバチルス・カゼイを牛乳等の獣乳、粉乳、脂肪粉乳、脱脂粉乳等の乳成分中で30〜40℃の温度で5〜24時間培養することにより得ることができる。培養は、静置、攪拌、振盪、通気等が挙げられる。より好ましくは、殺菌した乳培地にラクトバチルス・カゼイを単独又は他の微生物と同時に接種培養し、これを均質化処理して発酵乳ベースを得る。次に別途調製したシロップ溶液を添加混合し、ホモゲナイザー等で均質化し、さらにフレーバーを添加して最終製品に仕上げればよい。

↑簡単にだけど作り方公開してるな

ここで、発酵物とは、乳等省令により定められている発酵乳、乳製品乳酸菌飲料等の飲料やハードヨーグルト、ソフトヨーグルト、プレーンヨーグルト等も包含するものである。また、本発明の発酵物には、ラクトバチルス・カゼイを利用した飲食品、例えば、プレーンタイプ、フレーバードタイプ、フルーツタイプ、甘味タイプ、ソフトタイプ、ドリンクタイプ、固形(ハード)タイプ、フローズンタイプ等の発酵乳、乳酸菌飲料等が含まれる。

↑色々他の商品にまで範囲を広げて欲張りね。

本発明の睡眠の質改善剤は、前記のようにラクトバチルス・カゼイの生菌を含む発酵物としてラクトバチルス・カゼイを摂取するのが好ましく、その1日摂取量は生菌数として105cfu以上が好ましく、108cfu以上がより好ましく、1010cfu以上がさらに好ましく、1011cfu以上が特に好ましい。またその摂取日数は、5日間以上が好ましく、2週間以上がより好ましく、4週間以上がさらに好ましく、8週間以上が特に好ましい。

・・・・・ね、広げてるでしょ?

こうやって専門分野の人が広げてくれた発散作業から色々学べることもあるので、ぜひ見てみてください。

⑤実施例:試験設計を学ぶ

このパートはもしかしたら、すでに活用している人もいるかもしれません。

実施例とは、この技術がこれまでのものと比べてこんだけすごいんだよー(新規性と進歩性)というアピールをする場。

つまり、普段隠しているような実験のノウハウなども特許を取るために結構しっかり書いていることもあります。

まさに巨人の肩に立つではないですが、自分が実験をする前に類似の実験(実施例)をみて条件設計することは重要です(特許じゃなくて論文でもいいけどね)

ということで、お馴染みの特許を見ると(長いので画像で)

これ以降も続きます。初めて実施例を見た人はこう思われるかもしれません。

想像以上に細かく書いてんな、

と。特に食品の製造方法なんてノウハウとして隠されていると思ってる人にとっては想像以上に書かれてると思われるかもしれません。実際はこんな程度じゃ再現できないので出しても問題ないレベルなんですが、参考にはなるはず。

これ以降も事細かに書いてあるので、気になる人は明細書を読んでね。繰り返しになるけど、リンクはこちら

https://ipforce.jp/patent-jp-B9-6279714

(おまけ)請求項

最後はおまけですが、請求項とは権利範囲そのもので、ここに書いてある内容の権利を守っているパート。

ちゃんと読んで、自分の研究や開発が地雷を踏んでないかチェックしましょう。

言われんでもやっとるわと言われそうですが、これがすこぶる難しいので知財部門の人や弁理士さんに相談しないとわからんことだらけです。。

ここから何か学べることってありますかね?請求項で書くことを事前に想定して実験ができるのがベストですが、非専門家にあれが書けると思えないし、無い物ねだりな気も(私は諦めてます)

終わりに

ここまで色々書きましたが、take home messageとして、3点。

①特許の明細書の構成は技術文書そのもの。全体像を把握して自分自身の取組みの糧にすべし。

②特許は「守り」(権利保護、他社特許抵触回避)のイメージが強いが、①の使い方をすれば実は「攻め」にも使える宝の山。

③日本語の文章ってよくない?自国の言語で読めるって大きなメリット。

ということで雑にまとめましたが、ドラマ楽しみにしています!


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