【航空機内での黄色ブドウ球菌食中毒 昔話】
今週も黄色ブドウ球菌の食中毒の話です。
HACCPが食品衛生管理の手段として、アポロ計画から始まったことは良く知られています。
究極の限定空間である宇宙船の中で病気やケガがあれば命に関わります。安全を担保するためのプロセス毎の衛生管理を高めることが求められています。
宇宙船と同様に安全が求められるのが大陸間を行き来する航空機で提供される機内食です。200人、300人と乗った機内にトイレの数は限られています、複数の感染者が出たときの機内の混乱は想像を超えたものだと思います。
1975年2月3日、羽田をフランス、シャルル・ド・ゴール空港に向けて出発したコカ・コーラ社の社員を乗せたチャーター機ボーイング747型機は、アンカレッジを経由して、明け方2か所目の経由地コペンハーゲンに到着直前に搭乗者の半数以上が嘔吐、下痢などの食中毒症状を訴える事件が発生しました。原因は朝食に提供されたハムの入ったオムレツでした。食中毒を原因菌は黄色ブドウ球菌。機内のギャレーで調理したコックの指のケガから検出されました。344人中197人が吐き気・嘔吐・下痢などの症状を訴え、144人が重症、うち30人が重篤な症状でした。
アメリカ公衆衛生局の役員である、アラスカ州保健局のミッキー・S・アイゼンバーグを中心に調査がすすめられました。
チャーター便は帰りの便も同じ席に着いていたので、発症者の座席位置と喫食した食事の調査を行い、原因食であるオムレツの特定と、作業員の指のケガ、絆創膏の使用を突きとめました。喫食した時間から発症するまでの時間、食事の内容で、黄色ブドウ球菌による食中毒と断定されました。
食中毒の被害者は、数日の入院で退院しています。この事件で唯一の死者は機内食責任者でアンカレッジ支社長だけ原因は責任を感じての拳銃自殺でした。
ニューヨークタイムスの記事。
https://www.nytimes.com/1975/02/07/archives/illness-on-japanese-jet-is-traced-to-alaskan-cook.html
現在の機内食は、専用の工場で衛生的に作られ、冷蔵状態で飛行機に積み込まれ、喫食直前に再加熱されます。ほぼ人の手に触れないように設計されています。機内食で食中毒というニュースは聞きませんね。
ビジネスクラスやファーストクラスですと、凝った器に乗せられて提供されていますが、盛り付け前にスチームコンベクションオーブンでの再加熱はありますが、ギャレー内で調理されることはありません。
『うちの台所とどう違うの? 空飛ぶキッチン、ギャレーのお話』
航空機のギャレーなどの製造を行うジャムコ社のホームページ
https://www.jamco.co.jp/ja/technology/air/jamco_article01.html
機内食製造を行う、ジャルロイヤルケータリングのホームページ
http://www.jalroyal.co.jp/process/
【プロフィール】
上田和久
kazz@studiowork.jp
スタジオワーク合同会社 代表
1959年熊本県生まれ、京都、福岡で暮らし、都城の単身生活を終え福岡に戻っています。
国際HACCP同盟認定リードインストラクター、JHTC認定リードインストラクター
上田和久 facebookは
https://www.facebook.com/kazz.ueda
経歴と仕事分野
厨房設備施工会社、電機メーカーで冷蔵設備の設計施工営業を担当後、食品メーカーへ転職し、品質保証の仕事を経て、2016年コンサルタントとして独立。
主に、HACCPの認証取得が目的ではない、あるいは安全安心な食品を提供することを目的にした企業に対して、HACCPに基づいた衛生管理の取り組みを支援している。
具体的には、食品工場に対し、これまでの計画施工から現場運営まで経験を生かした新築・増改築についての助言を行う他、製造現場に対して、クレーム対応、異物混入の原因の究明と対策、再発防止の仕組み作りの提案を行っている。
食品工場の抱える問題やこれからますます厳しくなる要求への対応、それらを一緒に解決していくことを使命とし、精力的に活動している。
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