空の雲フーの幸せレシピ 第8話(最終話)
次の日、お母さんはお鍋に残っていたスープを飲んで、すっかり元気になりました。
その日はクリスマスでした。でも町には人から人へ移る病気が流行していたので、大勢で集まってお祝いすることができません。
それでクリスマスのお祝いは、それぞれのお家でこじんまりとすることになりました。
この町では、クリスマスにおいしい料理を食べ、イエスさまのお誕生の話を聞いて、最後にクリスマスの讃美歌を歌います。
エミリはクリスマスの讃美歌「きよしこのよる」を歌うが大好きでした。
やさしいメロディーが好きでしたし、中でも3番が特に好きでした。それは、エミリの名前がこの歌詞からつけられたからです。
きよしこの夜
み子のえみに
救いのみ世の
明日の光
輝けり
ほがらかに
エミリの名前は、イエスさまが喜んでくださる子どもになりますように、と願ったお父さんが考えついたものでした。
「エミリの名前は、“み子のえみ(笑顔)”という歌詞から付けられたんだよ。イエスさまみたいに、やさしい子どもに育って欲しいと思ってね」
と、お父さんとお母さんは、エミリが小さい時から何度も話してくれました。
エミリとお父さんとお母さんは、近くに住むエミリのおじいちゃんおばあちゃんと、食堂コトリで一緒に働くゆりさんを家に招きました。
6人のクリスマスパーティーの始まりです。
元気になったお母さんと、エミリとお父さんは、この日のためにごちそうをたくさん作っていました。
メインディッシュはお父さんが作った串にささった牛肉のデミグラスソースがけと、マグロの塩窯焼きです。
デザートには、エミリとお母さんが作ったミルクゼリーとクリスマスクッキーが続きます。
エミリのおじいちゃんは、4種類の秘密のスパイスが入ったカレー、おばあちゃんは庭でとれた野菜を使った特製サラダも持って来てくれることになりました。
ゆりさんは、切り株の形をしたクリスマスロールケーキを持ってきてくれました。
村に住んでいる人達も、集まれない代わりに、それぞれ得意料理を少しずつおすそ分けしてくれました。
おかげでテーブルの上は、色とりどりのおいしそうな料理でいっぱいです!
お父さんがあいさつをして、いよいよクリスマスのお祝いが始まりました。
食事の始めにお父さんは、まっ白なボウルに入ったアツアツのスープをみんなに出して、こう言いました。
「みなさんに、食堂コトリの新しい看板料理を紹介します。『ふわふわひつじ雲のコンソメスープ』です!」
それは鶏肉のおだしがたっぷり入ったコンソメスープでした。
具にはしっかりとアメ色に炒められた玉ねぎと、細かく切った赤いパプリカが入っています。上には、卵の白身がぷかぷかと浮いています。それは朝焼けの空に浮かぶまっ白な羊雲のようでした。
みんなは大喜びして拍手かっさい。全員ゴクゴクと喉をならして、あっという間にスープを飲みほしました。
ごちそうをお腹いっぱい食べた後は、音楽の時間です。笛やバイオリンやピアノなど、色々な楽器でクリスマスの歌をそれぞれの人が演奏しました。
そしていよいよ、エミリの大好きな讃美歌を歌う時間になりました。
この日はいつもの「きよしこのよる」とはちがう歌詞で歌うことになりました。それは、エミリのお母さんが、元の英語を読み、7歳のエミリにも分かるような、やさしい日本語に訳したものでした。
静かなこの夜 星は光り
神の子イェスは 布にくるまれ
馬小屋で 眠ります
静かなこの夜 羊飼いは
干し草の中 イェスを見つけて
救いぬしを 拝みます
静かなこの夜 笑顔の主は
恵みの時の 希望の光
輝かせて 眠ります
歌い終わるとエミリは、飼い葉おけの干し草の中ですやすやと眠る、救い主イエスさまの様子を思い浮かべました。
エミリはお母さんのそばに行って、お母さんの手をキュッとにぎりました。そしてお母さん見上げて「クリスマスおめでとう」と言いました。
お母さんもエミリの手をにぎり返して、ほほえみながら「クリスマスおめでとう」と言って、エミリをそっと抱き寄せたのでした。
さて、その頃、フーはどうしていたのでしょう?
フーは氷のお城でスープを作ったあとに、お父さんが車で帰ってきた音を聞いて、ドアからそっと外へ出て行きました。
そして、川の横にモミの木がたくさん生えている所へいって、鳩のコルムにお使いを頼むことにしました。
それは、雲の学校「虹の川学校」のシェフをしている南風のナナさんへのお便りでした。
それはこんな内容でした。
ナナさんへ
お元気ですか?ぼくは元気です。
ぼくは今日、人間の女の子のエミリちゃんと友達になりました。エミリちゃんはスープの作り方を教えてくれました。
ぼくたちは、エミリちゃんのお母さんのためにスープを作りました。そして、夢の王国に行って、寒さに震える王様と王妃さまにもスープを作ってあげました。
スープに入れる材料に困っていたときに、十字架と虹のバッジが光って、必要なことを教えてくれました。とっても、うれしかったです。
エミリちゃんに教えてもらったスープのレシピをナナさんにも伝えますね。
【材料】
煮込むと美味しいだしがでて、冷めるとプルプルゼリーができるお肉
煮込むと甘くなる白い野菜
煮込むと甘くなる赤い野菜
【作り方】
水をはった鍋に、肉と、細かく切った野菜を入れます。
弱い火で20分間、コトコト煮込んだら、できあがりです。
具合の悪かったエミリちゃんのお母さんは、このスープを飲んだあと、すっかり元気になりました。
ぼくは、エミリちゃんといっしょにいることで、イエスさまのお役に立てたみたいです。
こんなふうに働けて、ぼくはとっても幸せです。
これからも旅を続けます。ナナさんもお元気で。
愛を込めて、
フーより
コルムは優秀な伝書バトなので、このお便りを全部ナナさんに届けてくれることは間違いありませんでした。
コルムは、フーのお便りの内容を、ハトの言葉でクルックー、クルックー、と繰り返しました。
フーはそれを聞いてうなずくと「うん、それで大丈夫。じゃあ、お使い、お願いね!」と言って、コルムを南の空に送り出しました。
フーはスープの材料の鶏の手羽肉だということは、どうしてもコルムに伝えられませんでした。
人間は「何を食べても良いですよ」とイエスさまに言われていることを、フーは知っていました。
でも鳩のコルムが、スープのおだしが鳥の仲間だと知ってしまうと、悲しい気持ちになるかも知れない、と思ったのです。
そういう訳で、フーは何でスープのおだしを何で取るかは、自分の心にそっとしまっておきました。そして、ナナさんに会ったら自分で直接伝えようと心に決めたのでした。
ひとり森の中に残ったフーは、モミの木の上のてっぺんで、うっすらと降り積もった雪をベッドにして横になりました。
空を見上げると、昼間集まっていた雪雲たちはみんないなくなっていました。きっと、次の仕事場へ移動したのでしょう。
そばを流れる小川からはサラサラと水の流れる音が聞こえてきます。
その音に重ねるようにホーホーと鳴くフクロウの低い声は、フーのためのやさしい子守り歌のように森に響き渡りました。
澄んだ夜空には星がキラキラ光り、大きな満月も出ています。
「満月さん、おやすみなさい」と、フーは小さな声で言うと目を閉じました。
満月は、暗い森を白い光で照らしながら、すやすやと眠りにつくフーをやさしく見守っていました。
おわり
【ふわふわひつじ雲のコンソメスープ】
〔材料〕
水 800cc
鶏の手羽肉 6切れ
バター 10g
玉ねぎ 中2個
パプリカ 大1個
卵白 2個分
片栗粉 大さじ1
水 30cc
ローズマリーソルト 少々
こしょう 少々
〔作り方〕
鍋いっぱいの水に鶏肉を入れて煮立たせます。
その間にフライパンにバターを入れ、スライスした玉ねぎを飴色になるまで炒めます。
角切りにしたパプリカを鍋に入れ、玉ねぎもいれます。10-20分ほど煮込みます。
具材に火が通ったらローズマリーリーソルトとこしょうを入れて味を整えます。
卵白に水と片栗粉を混ぜたもの(水溶き片栗粉)を加え、ぐつぐつ煮えているスープの上から回し入れて完成です。
〔食べ方〕
スープ皿にによそって食べます。
手羽肉だけ取り出してオーブントースターで焼き、スープと別に食べるのもおすすめです。
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