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読まずにわかる!「プーチンとロシア」本

目の前で進行している歴史は最も鮮明であるはずなのに、実は最も解釈がわかれる

1年ほど前から「プーチンのロシアってプーチンがいなくなったらどうなるんだろう?」と思っていた。プーチンは現時点で69歳(ロシア人男子の平均寿命は69歳)。

そこでプーチン本を読んでいたところ、急にウクライナ侵攻だ。テレビやネットでは(日本で接する限りは)、プーチンの暴走でウクライナが可哀そうという論調がメイン。一方で、ロシアでは太平洋戦争中の日本のように情報操作されているという。

アメリカ軍産複合体の関与、あるいは習近平の中国の関与など、真相は事態が歴史になってみないとわからないのかもしれない。まさに「目の前で進行している歴史は最も鮮明であるはずなのに、実は最も解釈がわかれる」(J・バーンズ)のだ。

ということは、今回の侵攻以前に書かれた分析的書物から「プーチンとロシア」を読み解いておくことが冷静な対応なのだろう。というわけで、過去に読んだ関連本をレビューしてみます。このレビューから本を読むことになるのもよし、まあ、このレビューだけでわかるのもよし・・

「プーチンのユートピア」

権力者や監督権限を持った者が、その権限を使ってとにかく自分に利益誘導しようという国がまさにプーチンのロシア。それって表立っては書きにくいことなんだろう。著者はモスクワのテレビ局でディレクターやインタビュアー的な仕事をする中でのエピソードという形でプーチンのロシアの諸相をリアリティ番組のように(いや、リアリティ番組のパロディなのでリアルそのもの?)伝えてくれる。

富豪の愛人になろうとする女たちとそのための学校。ソ連崩壊後、地方の秩序を保ったギャング(のち映画監督)。売春婦とテロリストの姉妹。政権批判のパロディ化で批判そのものを無毒化するという手法。カルト的コーチング集団。権力を利用した企業乗っ取り。新兵いじめ・殺し。国策事業で財産作り。財産作ったらロンドンに逃げて、逃げた先でもひと悶着。

もう、むちゃくちゃでんがな・・・。そのむちゃくちゃの事例の積み上げがじわっとプーチンのロシアの実像を結んでくれる。

ただ、これらむちゃくちゃのミニチュア版は日本にもあるよね「〇〇〇マスク」とか・・・(2021.9.7読了)

「自由なき世界」

プーチンのロシアが目指すファシズム社会。プーチンがロシアの大統領になって、それまでの共産主義 VS 資本主義では理解できない世界になってきた。さらにグローバリズムやネット社会(スマホにSNS)も要素として加わる。そんな2010年代の歴史を知るにはこの本だ。

上巻は 

プロローグ(2010) プーチンの権力奪取まで。

第1章 個人主義か全体主義か (2011)・・プーチンのロシアの政治的あり方(必然性の政治・永遠の政治・・・ファシズム的寡頭政治オリガーキーによる権力の永久支配)の根拠となる思想家イリイン思想を知る。

第2章 継承か破綻か (2012)・・西側にとってもよくわからない存在であったプーチンが不正選挙もあって大統領に再選されさらに永遠の政治を追求。

第3章 統合か帝国か(2013)・・統合のEUと帝国化するロシア。ヨーロッパでの民族国家は統合化か帝国化でなくては維持できない。しだいにヨーロッパから離れ、「ユーラシア主義」に依拠していくロシア。その接点にウクライナがあった。

第4章 新しさか永遠か (2014)・・ウクライナのEU志向とロシアとの板挟みのヤヌコーヴィッチ政権。あやしい選挙とクーデター(マイダン革命)、ロシアのクリミア進攻。

全体を通して、ロシアの巧妙なプロパガンダ、西側の国々の中の協力者、トランプの受益など、プーチンのロシアがいかに世界を動かそうとしているかがわかる。(2021.9.26読了)

いざ、下巻へ。

上巻でウクライナに侵攻したロシアだが巧みな情報戦略で国際的にも何が何やらわからない状態(日本の国内政治でも立て続けに事件がおきて何が何やらわからない日々があったが、あれもまたプーチン流の情報戦略だったのか?)に・・・

第5章(2015) その中でロシアの地対空ミサイルにマレーシア航空機が撃墜される・・・。そして、その責任問題もなんだかよくわからない・・・。

たしかに、この頃から、すべての物事の真実が見えにくくなってフェイクだったり、相手をフェイク呼ばわりするフェイクだったり・・・がネット空間を中心にあふれだした、たった5年前のことだ。

ヨーロッパ各国の右派ポピュリズム政党を利用して、自分たちのダメさに合わせて相手もダメにするロシアの情報戦略。それに乗せられてのブレグシット・・・ロシアの思うつぼ。

第6章(2016) ロシアのサイバー戦略の最大の勝利はアメリカ大統領トランプの誕生。破産した不動産屋を大統領に押し上げる。曰く「トランプなら西側の機関車を脱線させてくれるだろう」。ハックしてリツイートしたりボットでばらまいたり、まさに何が真実かわからない世界の誕生。

さて、ロシアも予想しなかったあまりのハチャメチャぶりと新型コロナのおかげもあって2期目とはならなかったトランプ。しかし、プーチンも習近平も元気だ。世界はどうなっていくのか・・・(2021.9.28読了)

「プーチンの世界」

1985年にゴルバチョフが書記長となって1989年にベルリンの壁崩壊、エリツィンによる混乱の1990年代にソ連が崩壊し、2000年にプーチンがロシア大統領に。以来20年以上にわたってロシアを支配するプーチン(1952年生69歳)。その出自と足取りを追う。2014年のウクライナ危機を含む二段組500ページの詳細なプーチン解剖。

第1部 工作員、現る

第1部は2013年12月の原書初版部分であり、プーチンの出自とロシアの大統領として権力を握るまで、そしてその握り方をプーチンの多面性(6つの顔)から分析する。

①プーチンとは何者なのか?
②ボリス・エリツィンと動乱時代
③~⑧プーチンの6つの顔 国家主羲者・歴史家・サバイバリスト・アウトサイダー・自由経済主義者・ケース・オフィサー(工作員)
⑨プーチンが支配するシステム

ゴルバチョフ時代とエリツィンの混乱時代を東ドイツ・ドレスデンでKGBの工作員として過ごし、いいタイミングでレニングラード(ペテルブルグ)に戻り、KGBの指令もあって市長の補佐から副市長へ。そこで身に付けた独特の資本主義観(インドのジュガールに近い)によりものごとの取りまとめ屋(ケース・オフィサー)の能力を買われクレムリンへ。エリツィンが裏取引で国有財産を払い下げたことでできた財閥(オリガルヒ)をコントロールし評価をあげたからなのか、ぎりぎりのところはわからないがなぜかエリツィンに選ばれて大統領補佐から2000年に大統領に。

KGBらしく弱みをつかんで、あるいは一緒になって非合法なことをやり、それを相手の弱みとしてつかむことでコントロールするのが基本の手法のように書かれているが、いつでもそういうわけでもなさそう。エリツィンも弱みをつかまれていたのか。

いかにも「ロシア的な国家愛」と「KGB的な人使いの手法」と「非欧米的なやったもん勝ち資本主義観」・・極端にまとめればそういうことになるのか。複雑すぎてレビューもしづらい。

第2部 工作員、始動

第2部は2014年のクリミア併合・ウクライナ危機(今となっては第一次ウクライナ危機か)勃発を受けて2015年2月に大幅増補された部分。

⑩ステークホルダーたちの反乱、⑪プーチンの世界、⑫プーチンの「アメリカ教育」、⑬ロシア、復活、⑭国外のエ作員、エピローグ

2008年のグルジア戦争で欧米・NATOの弱腰を見抜くも、アラブの春のような強制的民主化(裏にアメリカがいるとプーチンは思っている)に危機の前兆をみたプーチンは2012年にいったんメドベージェフに譲った大統領に復帰。国内からは大きな非難を受けるがさまざまに強行し、2014年のソチ五輪開催で完全に既成事実化。オリンピック終了後わずか3カ月でクリミア進攻しロシア化。同時にウクライナ東部のロシア人居住地域に進攻。マレーシア機の撃墜もうやむやに。

その8年後の今、2022年にまさに第二次ウクライナ危機で2月22日の今日、東部のドネツク、ルガンスクのロシア人支配地域の独立を一方的に承認。

西側では善ととらえている諸外国の民主主義や自由市場を促進するという西側の政治体制の本質部分がプーチンの世界ではまったく善ではない。プーチンの作り上げた(あるいはロシア的な)閉鎖的なワンマン・ネットワークや経済の「みかじめ料」制度の上に成り立つロシアの政治体制にとって、民主主義や自由市場の促進は明らかに脅威だということ。そして、そんなロシアの有様をプーチン自身はロシアとしての正義だと認識しているということ(ここが、西側の人間にはわかりにくい)。そのロシア主義の先にグルジア戦争がありウクライナ危機がある。(習近平の中国もかなり似ている)

プーチンが2000年に大統領になって22年・・・。ロシア人もうんざりしているのではないかという気がするが・・・。(2022.2.22読了)

読了後、NHK BS世界のドキュメンタリーで放映されたO・ストーンによるプーチンへのインタビュー「オリバー・ストーン オン プーチン(前後編)」(録画)を再度視聴した。編集のせいもあるのだろうが、プーチンの受け答えのよどみなさは、この本の著者が主張する「プーチンは西側民主主義のことがわからない」というのはアメリカの研究者の一方的な見方かもなどとも思う。

「名画で読み解く ロマノフ家 12の物語」

現代ロシア=プーチンのロシアのことを調べていて、ロシアらしさとは何なのか、ぼんわりわかったような気がしたので、それを確認するためにざっくりとロシアの歴史を学べる本書を読んでみた。非常にわかりやすい。肖像画の時代でもあるので「名画で読み解く」のが大正解。

ロシアがいわゆるタタールのくびきから解放されて国の形をなすのがイワン雷帝の頃(1533-1584)で日本では戦国から安土桃山時代、ドイツ系のロマノフ朝になるのが半世紀後の1613年なので、以来1917年まで300年間がロマノフ朝。そこから、ソビエトが1917-1991の74年間。そしてプーチン時代がすでに20年。こうしてみると、ロシア的なものとはじつはロマノフ的なものなのかもしれないし、ソビエト政権もまたひとつの王朝にすぎなかったのかな。

不透明な政権交代、暗殺、夫殺し、妻殺し、親殺し、子殺し。なんでもあり。どこの馬の骨ともわからない女性が皇帝に気に入られて次の女帝になるなんてことが普通に起きる。

国の最高権力者がある日突然失脚、というパターンが延々と続いてきたし、これからも続いていくだろう。(P80)

ロシアのような広大な国を束ねるには強権的君主制が最適だ(エカテリーナ二世、P112)

今の、プーチンのロシアをみてもロマノフ朝とそっくり。されば、プーチンがいなくなったとき、ロシアはどうなるのか・・・(2021.9.22読了)

ウクライナについては読まずにわかる「ウクライナ」本 を!


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