ナイトメアの路地を歩いた。
ギレルモ・デル・トロ監督作品、「ナイトメア・アリー」に足音つけさしてもらった時の歩記。初めてのデル・トロ監督作品、ワクワク!
1年彷徨い続けたナイトメア。
録音始めてからファイナルバージョンを仕上げるまで1年かかりました。こんなに一つの作品に携わっていたのは初めて。一年間毎日やっていた訳ではなくて、約一ヶ月に渡る本収録(←ここで既にかなりの日数)が終わってから月に一度くらい再編バージョン、追加シーン、新VFXなんかが届く感じで。スタッフ一同「これってシリーズなん??」。しかも当初の尺は3時間超。それを2020年10月から2021年10月までやってました。終わらない、抜けられない、まさにナイトメア。
カットされた幻のオープニングシーンの音!
当初、あのオープニングシーンはもっと長くて、家にガソリンを撒いて火をつける謎の男、の部分があったのだ!
泥沼の恐怖と、クリスタルな恐怖。
監督と音響監督を交えたzoomミーティングで念をおされたリクエストは、前半の見世物小屋と後半のニューヨークとで180度世界が変わるので、音もしっかりそうしてほしいと。泥とワラ、雨のテントの前半から黒幕を挟んでいきなりニューヨークのコパ・カバーナのステージ、という舞台回転。もう一つのリクエストはケイト・ブランシェット扮するリリスの足音。大理石にガラスのナイフを突き刺すイメージで、と。
レトロ萌え!
音を入れる作品としては申し分なく面白かった。見世物小屋!黒電話!札束!殺人事件!チェイス! クリスタルグラスの中で回るウィスキーの音、逃げたフリークを捕まえて路地裏に捨てる音、、。クリーチャーこそ出てこないものの、一番恐ろしいモンスターは人間の欲望。一歩ずつカッツンカッツンのイタリア靴で描く泥沼。携帯電話がない時代のものは音がキャラに溢れてて萌える!
路地裏の舞台裏。
この作品ではこっちで1秒増、そっちで8フレーム減、このショットはテイクが変わって微妙に歩きが違う、このショットはアングルが変わった(音の距離感が合わなくなった)、ここはショットの順番がややこしく変わった、みたいな変更がゴリゴリに多く、変更400箇所なんてバージョンもありました。
ニュアンスが変わってるシーンなんかもあって、そうなるとフォーリーもやり直した方がいい。エディターさんが繋いでくれた部分もあったけど、あまりツギハギを入れるとこちらが意図したフローが崩れてしまうので、歩き直しをさせてもらった部分も多くありました。
デル・トロ・ワールド1年分。
「ナイトメア」では俳優さんが色々イジくりながら喋ってるシーンが多くて、音的にも難しい場面の盛り合わせだったけど、1年間うんざりするほど満喫させて頂きました。
監督の過去作では「パンズ・ラビリンス」も好きだけど、「HELL BOY」も好きで、中でもエイブ・サピエンのキャラは最高。「シェイプオブウォーター」のクリーチャーが生け簀を動き回る鎖と水の音よかった。
「ナイトメア・アレイ」は物語の設定が40〜50年代なので、1947年に制作されたバージョンでは「現代劇」だったんだな〜と参照しながら思いました。新生デル・トロバージョンは古いサスペンス映画のレトロ感を残しながら、贅沢に色を加えた面白い作品になったと思います。
我がフットステップス・スタジオにとっても泥まみれの渡り板からマンハッタンのモザイクタイルまで一年かけて歩いた力作。機会がありましたら是非。