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上を向かないで、歩いた。

今回はアダム・マッケイ監督作品「ドント・ルック・アップ」に音をつけさせてもらった時の歩記。タイムリーで気持ちのいい作品でした。録音も楽しかった!ディカプリオさんの足音は初めてだったし。

空気の音。

車が爆発するわけでもなく、ゾンビに脳ミソ食われるわけでもなく、砂嵐の惑星で巨大イモムシから逃げ回るわけでもない、つまり全てが等身大(衝撃のラストシーンを除く)のこの手の作品におけるフォーリーの役割としてはディテールをやって、出しゃばらず、それでいて親近感、臨場感をしっかり足す、みたいな「空気フォーリー」になることが多いです。「生活の音」ですね。

ゾンビや巨大イモムシの音作りはもちろん面白いですが、空気フォーリーも大好きなんです。会話の後ろで控えめにカタコトいってる感じの。セリフの下の方、足元で囁いてる感じの。この作品中ではホワイトハウスで延々と待たされている間に食ってるチップスの袋の音とか、ワイドショーのメイク室の音とかです。足音もさりげなくあって、ディストピアなスーパーの店内とかも出しゃばらない音たちがいい感じに入ってます。とはいえ顔面にチャカチャカ投げつけられるピルボトルとかはちゃんと出しゃばっててよかった。

下を向いてワクワク。

ワイドショーのセットに上がるところで「コンクリート→ステージ」の移行が「あ、いい感じに使ってもらった」とか思ってたり、カッツンカッツンのハイヒールが大理石からカーペットに移行する歩きなんかをヒヤヒヤしながら聞いてたり。地味なスリル満点なのです。

オープニングの誰もいない深夜のラボでケイトがお茶を入れて、トーストにバターをジャリッ、ジャリッ、階段をトントントン、デスクで鼻歌交じりにキーボードをパチパチパチとやるシーンなんかは、その辺の音作る者としては、「ひょ〜、冒頭こうやって音でいざなうの、いい!」となるわけです。完成作品では、気分とともに音楽のボリュームがどんどん上がっていく〜、な感じの仕立てになってましたが、その下の方でちょこっと聞こえてるだけで嬉しい。あとフォーリーにはあまり関係なかったですが、隕石破壊ミッションを見せる場面のアルマゲドンな音楽が静かなキッチンとのインターカットでいちいちぶった切られるのは面白かった。

「マリッジ・ストーリー」、「ビッグショート(←アダムマッケイ監督)」も空気フォーリーが楽しかった作品です。

もっとユーモアを!

政治パロディ作品とはいえトランプバッシングがストレートで、ストーリー的には奥行きを欠いたからか、賛否分かれたようでしたが、私はとても好きで、収録中はケタケタと笑いが絶えない感じで作業させてもらいました。特に初期のバージョンには下品でおバカなセリフなんかがもっとあったので。最近ダークでおぞましい作風の映画が多いですからねえ。コメディはいいですね。

この作品への参加の話を頂いたのはずいぶん前で、コロナ規制で撮影も録音も延期がありまし たが、脚本はパンデミック前に書かれていたわけで、タイムリーさはビックリです。何かとピリピリしている昨今、ハリウッドもあれこれ茶化すのをためらってる感じがある中で、気持ちのいい作品でもありました。お手伝いさせてもらえてよかったです。

世界にはもっとユーモアとコメディが必要だ!



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