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ビジネスパーソンにおける自律とは

1. ビジネスパーソンにおける自律とは

前回のコラムで「ビジネスパーソンにとっての自律」を以下のように整理しました。
経営者や上司から具体的な指示や命令がなくとも、自らの頭で考え、責任をもって行動すること
外(他者)からの要請ではなく、内なる意識の下で主体的に考え行動するということを表します。他者に依存していない独立した状況です。

そう考えると被雇用者である限り、完全に自律的な行動をとることは不可能となります。
社員である限り会社や上司に依存しています。独立した立場にはありません。逆に言うと会社という城に守られているのです。他者から守られている以上は完全な自律とは言えません。
ビジネスパーソンにとっての自律は、制限つきなのです。この範囲内であれば自由に考え行動してもいいよという具合です。

2. 一般社員(担当者)の自律

会社の役職・階層をザックっと4つに分けて自律について考えてみました。まずは、一般社員、担当者レベルです。

企業に雇用されている人は、入社当時は右も左も分からず一人では何もできません。会社の利益に貢献することなどできません。
上司や先輩から与えられた業務をひとつひとつ着実に遂行することが求められます。この段階で自律人材は不要です。経験も実績もないうちに自分の考えで行動されたら、たまったものではありません。

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新入社員も仕事のやり方を覚えることによって徐々に1人前になっていきます。成功体験を重ねることで自信につながります。自信はさらに難易度の高い、そして会社に対する貢献度合い高い業務を担いたいという欲求をもたらします。この段階から「自分らしさを発揮したい」と思い始めます。人間は誰しも他人から指示されるのではなく、自分の思う通りに行動したいという本能があるからです。

入社2-3年目になると、与えられた業務におけるやり方を改善していきます。自分に与えられた業務内で創意工夫するようになります。

そうした行動を繰り返し行ううちに、与えられた業務を含めた前後のプロセスの工夫に興味が移ってきます。業務プロセスの改善です。仕事の手順について口を出したくなってくるのです。「今ある手順のこの部分は簡略化できる」とか「この業務とこの業務は順番を入れ替えた方が効率的だ」などと考え、上司や先輩に提案するようになります。
こうした業務改善提案は自主的に行われることが多く、誰に言われたわけでもなく内なる思いから表に出てきます。自律人材を育成しようと考える会社は、こうした取り組みを推奨しますが、そうでない会社では、「生意気なやつだ」、「ちょっと慣れてきたら人のことまで口を出すようになって」と周囲の否定的な声に押されてしまいます。
ベテラン社員の反感をかいやすい行動で、下手をすれば上司にも潰されてしまいます。そうしたことが繰り返し行われると、改善意欲は減衰し社員の自律意識は失われてしまいます。
会社全体の自律意識を高めたいのであれば、まずは業務レベルでの自由度を高めることが求められます。

4. マネジャー(管理職)の自律

与えられた業務をしっかりと担える社員の中からマネジャー(部課長)が選ばれます。自分の仕事を完遂できる人材は、自分の仕事を人に任せ、より責任範囲の広い、組織利益に貢献する度合いの高い業務を担っていくことになります。
マネジャーは、自分で直接的に業務を担うよりも部下を動かすことで、組織目標を達成するというウエイトが高まります。まさに仕事を管理するという役割に徹することになるのです。業務範囲内における環境変化(社内外)に対して、臨機応変に自分のアタマで考え行動することが求められます。

ただこの状態では、枠組みはあくまでも経営層である上席が決めたことに従っているにすぎません。100%自分の経験や才覚で「思い通りの行動」をすることはできません。管理職以前は結果オーライで大目に見てもらえた人も、管理職という名がつくことで、“わきまえ”なくてはなりません。ある意味で「部長」や「課長」というキャスト(配役)を演じるようになるのです。
組織の中には、時として上のポストになるほど自由度が縮小してしまうということもあるのです。自らの経験と才覚によるパフォーマンスの最大化と組織の中で配役のバランスをとることが管理職としての大きな行動基準となります。

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この役職(キャスト)に求められる行動と自分らしさ(オリジナリティ)のバランスを保ちながら組織目標を継続的に達成することができた人は、更に大きな責任を担う事業責任者というポストに就くことになります。こうなると職責上は、事業(部)に属する社員全員の将来を預かることになります。まさに自分の経験と才覚で自由自在に能力を発揮することができるようになるのです。

5. 事業責任者(執行役員・取締役)の自律

事業責任者(執行役員や取締役など)は、管理職よりも自由度は高まりますが、会社の傘の下にいることに違いはありません。事業がうまく行かなくなった場合でも、すぐに全社員の給与に影響を与えるということはありません。まだまだ逃げ道は残されているのです。担当事業が赤字になり、資金繰りがうまく行かなくなったとしても、降格人事に従うか、最悪の場合でも自らの退職で責任をとることでお役御免です。

取締役というと何だかとても偉そうな印象を持ちますが、実質はどこまでいっても株主(中小企業の場合は多くが創業社長)の「雇われ人」です。完全に自律しているとは言えません。
大企業の社長や、中小企業でも社長が最大株主でない場合、所謂雇われ社長も同様です。最大株主に依存しているので自律度合いは高くありません。社長と役員の心理的距離は、役員と一般社員よりも遠いという話がありますが、それは自律度合いに関連していると考えることができます。

6. 起業家社長の自律

起業家社長はそうはいきません。自ら始めた事業がうまくいかなくなれば、全責任を負います。規模を大きくすることで事業を大きく育てることもできますが、その分リスクも背負います。
出資を募れば、出資者に対する利益責任が生じますし、銀行からお金を借りれば返済義務を負います。
優秀な社員を雇いたければ、福利厚生を充実させ、事業が継続するように仕組みを考えなければなりません。社長の言動によって、社員の現在の生活だけでなく、将来の可能性まで奪ってしまうことがあります。

責任は重大です。まさに自律人材でなければ担うことができないのです。
自分のやりたいように、物事を進めることができることはとても気持ちの良いものです。ただその反面として責任が生じることによるストレスも増加します。よく言われている「自由は不自由だ」とはこのことです。

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みなさんは、ビジネスにおいて自律するという険しい状況をどこまで追求しますか?

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