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オリジナルPCケースの製作依頼

個人のお客さまから、「macbook pro 13インチ ※」のPCケースの製作をお願いしたいとご依頼がありました。
※ サイズは幅:30.41 cm/奥行き:21.24 cm/高さ:1.56 cm

お客さまのご要望は

(1)革は黒で、「JUST AS IT IS」を使いたい。
※JUST AS IT ISについてはこちらの記事をご参照ください
↓↓↓

シンプルなデザイン。収納ポケット類は一切不要。
靴屋さんならではの技法を入れてほしい。
クッション性は求めないが、革のケバケバがPCに付かないように裏地を張ってほしい。
PCが落ちないように、留め具もしくはフタが必要。ただしファスナーはNG。
出し入れは短手、長手のどちらでもいい。

このような内容です。
読むと難しく感じてしまいますが、実はこのように的確に指示をしてもらうと製作しやすいです。
ただ、見逃してはいけないのは「靴屋さんならではの技法を入れてください」との一文。この一文をどのように捉えるかが、大きなポイントとなりそうです。

面白いお題なので、オリジナル商品として販売することも視野に入れ、作業に取り掛かります。

靴のさまざまな縫い方

「靴屋ならではの技法」と考えると、靴にはさまざまな技法が存在します。
今回は靴を製作するわけではありませんので、靴の製法(技法)ではなく、手縫いの手法(技法)で考えると分かりやすいでしょうか?

例えば、靴の手縫いには「モカ縫い」や「スキンステッチ」があります。モカ縫いにはさまざまな縫い方がありますが、分かりやすいのは手縫い「拝みモカ」だと思います。レッドウィングなどのモカ縫いも同じ手法です。

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革の端を漉き、裏と裏を貼り合わせると三角形になり、拝んでいる手に似ていることから「拝みモカ」と言われています。

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そしてこちらが「スキンステッチ」です。
スキンステッチとは、革の内部に糸を通す手法。革のパーツとパーツを繋ぎ合わせるときや飾りとして施します。
糸を革の表面には出さず革の内部のみを縫い通すため、革の表面に美しい立体感が生まれます。一ヶ所でも貫通させてしまうと全てやり直しになってしまうため、熟練の職人にしかできない難しい手法です。

どちらも弊社フットバンクスインターナショナルで製作した靴になりますが、パソコンケースにここまでの手法が必要なのか?
「靴屋さんならではの技法」というのをどのようにとらえるかが大きなポイント、と前述したように、今回はオリジナル商品としての販売も視野に入れて製作するため、あまりコストがかかる仕様を採用せず、程よい加減で止めておくことが最も重要との結論に至りました。

PCケースへの応用

まずデザインですが、「シンプルなデザインで収納ポケット類は一切不要」とのこと。
靴で例えるならば、ホールカットでしょうか?
ホールカットとは、1枚の革だけで作られる靴のことです。かかと以外に継ぎ目を作らず、アッパーを包み込むように仕上げるためシンプルなデザインながら、他とは違う高級感が特徴です。

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そこでホールカットのように、1枚の革でPCを包み込むデザインにしました。

「靴屋さんならではの技法」はいろいろと考えましたが、落とし所として親子穴(穴飾り)を採用しました。
PCケースは平面的な作りなので、更にシンプルなデザインです。親子穴を入れることで平面的なPCケースにアクセントが加わり、高級感が出ます。

早速、パターンを製作します。広げるとサイズも大きくなるので意外と場所をとります。

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紙製のパターンと革では、厚さやしなやかさが違うため微妙な誤差が出てしまいます。そこで試作品を製作し、PCサイズに合わせて調節します。

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いよいよ本製作

さて、本製作に取りかかります。
お客さまのご要望であった

・「JUST AS IT IS」を使いたい
・クッション性は求めないが、革のケバケバが付かないように裏地を張ってほしい

これらを満たさなければいけません。

この革は厚みもあり、裏材を貼り付けることも考えると革がさらに厚さを増すため、革全体を薄く漉く必要があります。
漉屋さんに持っていくと、なんと! サイズが大きく機械に入りません……。試作品は売り物にならない革を使って、サイズ合わせのためだけに作ったので気づきませんでした。
そこで急遽、背面に斜めに切り込みを入れ1枚のパターンを2枚に分けて、パーツを漉きの機械に入るサイズにすることに。左右対称のため、パターンは1枚のみで成立します。

パターン

今回のPCケースのように、製作過程ではさまざまな問題に直面します。その都度どのように問題を解決させるのか、対処方法も重要になってきます。
単純に両端を切るなどの対応も可能ですし、その方法に正解はありませんが、今回は斜めに切り込みを入れたことによりコンビ色も製作可能になります。例えば、黒革×茶革のように自由に組み合わせることができるようになります。

絵型

ハプニングも発生しましたが、フットバンクスインターナショナルならではの「自由な発想」ですべてのお題をクリア! 靴屋さんならではのPCケースが完成いたしました。

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できあがったPCケースは使いやすく、周りからの評判も良いとのこと。製品化も決定です。

※ PC本体サイズは幅:30.41 cm/奥行き:21.24 cm/高さ:1.56 cm


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