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感想「大統領の執事の涙」黒人執事と白人の主人たちの関係性とは

先日気になっていた「大統領の執事の涙」を見ました。
ホワイトハウスで何人もの大統領に仕えた黒人執事のお話です。
ホワイトハウスの中で執事を務める主人公セシルの視点から、ホワイトハウスの外であるアメリカ社会の黒人差別とその解放運動の歴史を知ることができます。
不勉強なもので、歴史を詳しく論じることはできませんが、映画を中心に私の思ったことを書いていきたいと思います。

あらすじ

主人公セシルは綿花農園の奴隷の子として生まれます。
幼いころから農園で仕事をしていましが、ある日仕事中に父を農場主に殺されてしまうのです。
その後室内での給仕係を命じられ、それをステップにホテルのボーイとなり、さらにホワイトハウスの執事としてスカウトされます。
ホワイトハウスではその仕事ぶりから執事として大統領からの信頼を勝ち取っていきますが、依然として黒人の使用人の待遇面の差別は改善されません。
直談判に行くものの、なかなかその壁を破るのは困難でした。
一方、彼の息子ルイスは激しい反政府運動に参加し、白人に仕えている父と対立します。
果たして親子の対立の行方は、そして黒人差別問題はどのような歴史をたどっていくのか…
というお話です。

1950年代のホワイトハウスの執事は黒人

正直言って意外だと思ってしまいました。
家庭内の使用人に黒人の方がいるのは想像がついたのですが、ホワイトハウスの使用人、しかも大統領の一番身近にいる執事が黒人の方だということに驚きました。
映画のセリフの中で白人の使用人もいるようなことは言われていましたが、映画ではあまり登場している印象がなく、給仕や厨房はほとんど黒人の方がされていたように思います。

1920年代のアメリカのお屋敷にも黒人の執事がいた

映画を見た後、先述のように意外だなーと思っていましたが、ある本を読んでもっと驚きました。
「おだまり、ローズ 子爵夫人付きメイドの回想」(ロジーナ・ハリソン、監修:新井潤美、訳者:新井雅代、2014)では、1920年代にアメリカのお屋敷に黒人の執事と料理人がいたということが記されています。
しかも、白人の使用人よりも家族と近しい関係にあったとも。
ただ、この著者のいう”近しい”関係というのは、あまり現代の理想的な関係とは呼べなかったようです。
どこかペットの犬をかわいがるように…というようなものだったと。

「大統領の執事の涙」では執事として大統領の信頼は得ていたものの、待遇改善はなかなかなされませんでした。
信頼はしていても、待遇改善や同じ人間として敬うということに至っては、人種差別の壁は厚かったということなのかもしれません。

1920年代のイギリス、使用人に黒人の姿は見えない

話は横道にそれますが、1920年代のイギリスについてもお話ししたいと思います。
イギリスでは1920年代に黒人の使用人の姿はあまり見えなかったように思います。
大人気ドラマ「ダウントン・アビー」は1910、20年代のイギリスが舞台ですが、そこには黒人の使用人の姿は見えません。
どのお屋敷に行ってもです。

しかし、黒人の方が一切登場しないということではありません。
シーズン4の4話~8話にかけて、歌手として黒人の方が登場します。
しかも結構重要な役回りでした。
なにせ令嬢のローズと恋に落ちる役でしたから。

お屋敷でバンド演奏をするために、ひそかに呼ばれた黒人歌手ジャックはお屋敷の主人たち、使用人たちみんなを驚かせました。
あまり接したことがないのだろうと思いますが、執事のカーソンはかなり失礼な質問までしていましたね。

イギリスでは黒人歌手の方はたくさんいたのではないかと思います。
映画版のダウントン・アビーでも黒人の女性歌手が出てきます。

しかし、お屋敷の使用人ほど身近なところにまで黒人の方を起用することはなかったようですね。

父セシル、息子ルイスの戦い

話を映画の感想に戻しますね!

セシルとルイスはお互いの人種をめぐる立ち回り方で対立してしまいます。
息子はホワイトハウスで差別問題を解決できない白人大統領に仕える父を理解できません。
父は危険な方法で差別問題を解決しようとする息子が許せない。
相容れないように思いますが、それぞれがそれぞれの方法で差別問題と戦っていたのです。

父はホワイトハウス内での待遇の差別を訴え続けます。
そしてついに”大統領からの信頼”を利用して問題を解決するのです。

息子は身なりを整え、紳士的な態度で落ち着いて民衆に訴えることで、ついには議員にまで上り詰めていきます。

親子はホワイトハウスの内と外から差別問題に一石を投じ、理解し合うことができました。

そして、ついにあの時が。
オバマ大統領の誕生です。
あのシーンのセシルの涙は忘れられません。

まさに激動の時代ですね。

うまくいかない日々を過ごしていると、どうせ何も変わらないと思ってしまうのですが、こんなに根深い問題も一歩ずつ変わっていっているのがよくわかりました。
この映画を見ることで、陳腐な言い方ですが、未来への希望が持てるような気がします。

私も一歩一歩自分の理想に近づいていけるようにがんばらなくては、と
思わせてくれた素敵な映画でした。


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