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缶コーヒー

私は人間が嫌いだ。

強く意識したのは
幼稚園の時だった。
皆が慕っている先生に

あんたは嫌い

と真顔で言われた
幼心にどう対処していいか分からず
ただ笑って
その場を離れた。

その頃から
私は嫌われている
そう思い始める自我が出来た。
私は嫌われているのだ。

それからの私は
出来るだけ陰に隠れていた
呼ばれる時にだけ
声を出し
後はじっと
遠巻きに群れを眺めている。

そんな私も
高校を卒業し
働きに行くことになった。
もちろん
嫌われている
嫌われる
そのことを覚悟のうえで
私は黙々と働いた。

あんた、ええ子やね。

工場のパートのおばちゃん。

最近の子は
しゃべってばっかりやけど
あんたはずっと黙って
働いてる
文句も言わんと。

偉いわ。

そういわれ
缶コーヒーをくれた。

キョトンとしている私に
笑顔で去って行った。

君偉いね。

色々な人が私を褒めてくれた。

皆、文句ばっかりで
働きもしないのに
君はしっかりしている。

そういって
缶コーヒーを渡された。

ただ嫌われると思って
諦めて働いているだけの私なのに。

私はただ働いた。
どんどん色々な人が
声をかけてくれた
偉い偉い。
そう言ってくれた。

始めて笑ったな。
色々辛いこともあったんやろ。
そういわれ
煙草を一緒に吸った。

ここは安心できる場所や
あんたみたいに
一生懸命、文句も言わんと
働いてる子は
大歓迎や。

そういって頭をなでられた。

あんな子が社会で役に立つわけがない。
学校でも、
皆に関心も持たないし、
協調性が全くない

教師の声が
遠くに離れて行く。

あんな、
私、怖かったねん。
人間が
怖かったねん。

涙があふれた

横でみんなが煙草を吸った。

解るよ
みんなそうやから

そう言いながら笑いあった。

あんた笑った方が可愛いで。

遠くに聞こえる
教師の声は
もう耳元には無かった

大きな笑い声と
暖かな缶コーヒーが
私を温めた。

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