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XR技術とDX(デジタル・トランスフォーメーション)

近頃巷でXRコンテンツが実用的になってきた。仮想現実が市場に発表されて30年程、かつてはVRカフェやセカンドライフ等の旧世代のメタバース等、幾度か実用的になりかけては立ち止まって来た技術であるが、ようやく最近誰しもが簡単に体験できる環境になりつつある。

■XRコンテンツの実用化

   XR(X reality)とは、VR(virtual reality)、MR(mixed reality)、AR(augmented reality)、SR(substitutional reality)を総じてあるいは併用した呼称である。ゴーグルで覗いたり、眼鏡越しに見たり、スマートフォンやタブレットのカメラ越しに見ながら、そこに映し出されるリアルタイムレンダリングによるCGを視聴者の動きに合わせてインタラクティブに視点を変える事で、存在しないものや空間をあたかも実在する様に見せ、現実では在り得ない体験をさせる物である。
 しかし従来のXRはその制作技術の複雑さとは裏腹に、クオリティの低いものであった。決してリアルではないCGであったり、小さな画面を一人で覗き込んで体験するものであったりなど、ハリウッド映画のCGや最新のプレイステーションシリーズを知っているユーザーにとって、子供騙しの様なコンテンツが多かった。それでも何かDX化に役立つであろうとずっと研究され続けてきたのだ。

■XR技術の進化とデジタルサイネージ

 ところがここにきて、WEB通信で離れたユーザー同士が同じコンテンツを共有出来たり、低遅延通信と高性能なサーバーによる高速処理で、モバイル端末では到底不可能であった高度な表現を実現できるようになった他、手軽なフォルムやサイズと多種な端末バリエーション、そして、誰しも手に入れやすい価格になったことで、ユーザーもコンテンツ数も大いに増えマネタイズが容易になったのだ。そんな中、この新世代のXR技術が、単に仮想体験だけでなく、産業や商用に応用が広まりつつあるのが最近のタッチパネル式インタラクティブデジタルサイネージである。

■インタラクティブデジタルサイネージの活用法

 これは、単に動画を表示できる立て看板のようなものではなく、その大きなディスプレイでタブレットやスマートフォンと同じOSで稼働し、Wi-Fiや5Gといった通信機能を持つ多目的端末である。従来であれば小さなスマートフォンで最大でも一度に1~2人でしか見られなかったインタラクティブコンテンツを、臨場感ある大型映像で利用できる、いわば大型タブレットあるいはスマートフォンと言えるデバイスである。

■デジタルサイネージのアパレル店頭での実用化イメージ

 XR技術の通信とインタラクション機能、高速リアルタイム処理、そして、ボリュメトリックや3D・CAD/CG、フォトグラメトリ等の量産制作技術を組み合わせる事で、バーチャルマネキンによるコーディネートや製品、そのキャプションなどを大画面で閲覧できるようになる。また、XRコンテンツの閲覧だけではなく、通販や決済等に関するマーケティングや、ロジスティックやリテールへの機能を有する、いわば自動販売機の様な活用を見込めるのだ。これにより小規模店舗でもフラッグシップ店と同じ品揃えを販売できたり、一か所からの配送で店舗在庫を節約したり、顧客が自身で同型別品番を検索する事も出来る他、レジ機能まで有する事が出来るのだ。また、寸法入力で自身の体形のマネキンアバターを等身大に表示して、選んだ品番の商品をバーチャル試着したりする機能を実装するなど、店舗やブランドに応じた新機能もどんどん盛り込んで進化させていくことができる。さらに画面をミラー加工したサイネージは、単純に姿見としても使用可能で、大型画面であるが故、店員が客の利用の様子を遠目に伺いながら、最適なタイミングでコミュニケーションを図るのにも役立つ。そして、各店舗のサイネージ端末をクラウドサービス化し、CMS連携でデータのアップロード作業も一括管理するようにすれば、アパレルファッション業界の店舗DXには最適なツールとなる。

■ECサイトとリアル店舗 双方の購買体験を実現

 ECサイトでのショッピングは、ある程度目的を見据えた買い物になる傾向があるが、店舗では思わぬ物を見つけて購入するという、購買へのアプローチが違うパターンになる。このサイネージと各型番のサンプルが1つずつあれば、ECサイトと店舗の補完的な販売のアプローチを実現できる他、前述の様な店舗の効率化も図れることで、SDGsにも貢献できる画期的な代物になるのである。

■終わりに

 アパレルファッション業界で3DCGデータの活用が注目を浴びてはいるが、未だダイレクトな効用を見いだせずにいる中、XR技術の応用でデータそのものの付加価値を高め、通信機能を持つサイネージと組み合わせることで新しい用途を創出する事ができたのである。XRやサイネージは、現在は博物館やイベント会場、公共施設の案内等で利用されることも多いが、従来の用途に加えアパレルファッション業界の様に品目が多く、一つ一つの商品単価が低い商品群のリテールには、その活用は大きな期待を寄せる事が出来る施策になるのではないかと思う。
 
 
㈱ 島精機製作所 スーパーバイザー 小畑正好

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