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アパレル新時代を作る新しいファッションビジネスモデル


日本に洋装が広がり始めて70年。日本の繊維産業を発展させてきた高品質なアパレル製品の大量生産を見直す時が来ました。歴史的背景やノウハウを踏まえ、新しいビジネスモデル開発の必要性とこれからのファッション産業を支える技術を考察します。

◆洋装の歴史

■およそ150年前(1870年ごろ)

和装から洋装に移行した時期は明治時代初期(1868年以降・およそ150年前)と言われています。

■およそ100年前(1922年ごろ)

上流階級から洋装が徐々に広まり、一般庶民に洋装が少しずつ広がり始めたのは大正時代(1912年以降・およそ100年前)です。国家の近代化(=西欧化)を目指して官僚や軍服などの制服から広がりました。

■およそ70年前(1950年ごろ)


第2次世界大戦の復興期が終わる1950年ごろ(およそ70年前)、やっと洋装が一般化しました。


■70年前から30年前まで(1950〜1990年の40年間)


バブル崩壊と言われる1990年前後までの40年間、日本の繊維・ファッション産業は日本の経済発展とともに拡大してきました。

この期間の日本の繊維・ファッション産業は、大量生産の効率化と工業製品としての品質を上げる努力を続け、世界的にみても高品質の工業製品を効率よく大量生産ができるサプライチェーンを築き上げました。


■30年前から現在まで(1990年以降)


バブル崩壊後の30年間、日本のファッション産業はより低い製造原価を実現するために、海外生産(縫製)をさらに押し進めることになります。安い労働力を求めて中国の海岸沿いから奥地へ、さらに東南アジア諸国にまで縫製工場を求めて行くことになります。

この期間は、H&MやZARA、ユニクロなどに代表されるグローバルSPA(ファストファッション)の価格に対応できるサプライチェーン開発と、見込みゆえに売れ残る数量を少しでも現金化するためのセールの乱発が加速します。

原価率を設定上代の15%程度に設定して、販売開始の2週間後にはセールを始めることを前提にしたビジネスを展開する企業が台頭するなどコモディティ化が一気に進みました。外国からの旅行者が増えることでなんとか利益を創出できていたこれらのビジネスモデルも、コロナ禍で一気に破綻。供給量の半数以上を残すモデルは世界的な環境意識の高まりと併せて終焉を迎えています。

平成30年6月 経済産業省製造産業局生活製品課「繊維産業の課題と経済産業省の取組」pdf資料より

◆日本のファッション産業を支えてきたノウハウ

■海外生産が増える中で忘れ去られた技術・ノウハウ

2022年日本繊維輸入組合の報告によりますと、衣服の輸入浸透率は98.2%(点数ベース)。流通製品のほとんどが海外で生産されるようになり、国内縫製が一部のサンプルや小ロットの量産のみに移行してきた中で、忘れ去られた技術・ノウハウがあります。それは、量産工場で修正される型紙の修正ノウハウです。

唐突ですが、量産製品において以下のような「パッカリング(縫い合わせ部分にできる縫い縮みやひきつれによる規則的なシワ)」が起こる原因と、量産における修正方法は分かりますか?

大量生産の縫製工場では縫製ラインで組み立てられた製品を1点だけ完成させて、日本のアパレルに送付して確認する「量産の先あげサンプル確認」というビジネス習慣があります。この先あげサンプルに前述のような問題(パッカリング)があると修正を要求されるのは工場です。このため素材の特徴に合わせた型紙修正などのノウハウは工場に残り、日本のアパレルや工場にはノウハウが蓄積されない状況が長く続いてきました。

◆これからのファッション産業

■3Dモデリングで必要になる素材の物性データ

3Dモデリング用のソフト(CLO/VSticher/Style3Dなど)は生地物性(地の目方向・横地の目方向・バイアス方向)を入力して、重力下でどのような動きをするかをシュミレーションする機能があります。

この生地物性を入力する際に生地特性に合わせて型紙を修正できれば、前述のサンプルの先あげサンプルの確認作業は必要なくなり、さらに効率化が高まります。

FMBでは、この効率化を追求するために、量産工場で生地物性に合わせて型紙を修正するノウハウをデータ化して、自動的に型紙を修正できる研究を始めました。

少し話は脱線しましたが、今後のファッション産業が求めるべきビジネスモデルに関しての考察を進めてみましょう。


■3ヶ月後の未来を感覚で予測するビジネスモデルの終焉

趣味嗜好やサイズが多様で、気候や社会情勢に大きな影響をうけるファッションビジネスにおいて、一つの型に対して3色以上展開し、少なくともSMLの3サイズを展開して9(=3×3)種類の数量を3ヶ月以上前に見込発注することは至難の技です。

特に、ファッション市場がシュリンクし続けたバブル崩壊後の30年間は、販売単価の下落とともに、さらに製造原価を下げるために1型あたりの生産数が大量に要求され、供給量の半数以上を売れ残すほどの過剰供給が常態化し、サプライチェーンに関わる全ての企業の体力を奪ってきました。

コロナ禍を経て、いよいよ経済活動を再開する現在、未来に続く新しいファッションビジネスモデルを構築することが必要です。

その際に、ファッションに関わってきた我々が忘れてはならないことは、30年をかけて環境に対する悪影響も加速度的に大きくなり続けてきたことを根本的に変革する必要があるということです。


■「見込生産」から「先行受注」や「データドリブンなサプライチェーン」へ

日本の洋装が一般化してからたった70年(!)です。

この期間、日本のファッション産業はアナログな見込発注による大量生産でより安く、より高い品質を追求してきました。この恩恵で、あらゆる階層の人たちが安くファッションを楽しめる素晴らしい状況になりました。

前述のように我々ファッションに携わる者が、次に挑戦しなければならない喫緊の課題は「環境負荷」「利益の出ないサプライチェーン」にあると考えます。つまり、3DCGをサプライチェーン全体で活用する「情報統合生産」をいよいよ実践する時期に差し掛かっていると考えます。

洋服の情報を詰め込んだ3DCGを活用した「先行受注」。SNSにまだ製造していない洋服の3DCGをアップすることで得られるコンシューマーのレスポンスを、生産数量に反映させる「データドリブン・マーケティング」。


FMBでは川上から川下と言われるファッション産業に携わる全てのサプライヤーと連携して新ビジネスモデルを創造し変革を進めて行きます。

文責:市川 雄司

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