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弁理士も顧問契約のススメ

このnoteを読んでほしい人:
特許事務所勤務の弁理士社内に弁理士試験合格者がいない企業

特許事務所はクライアント企業から特許事務所へはスポットで依頼するものと思われており、継続的に依頼がある場合であっても、その実態はスポット案件が継続的にあるいうパターンが特許事務所の業務としては通常だと思います。

この認識は企業と特許事務所の共通のものであると思いますが、それでは両者が損をしていることが多そうです。顧問契約は弁護士、税理士、社労士だけのものではなく、特許事務所の弁理士も顧問契約を取っていくべきと私は考えています。

特に、知財部が無い企業、社内に弁理士試験合格者がいない企業にとっては弁理士との顧問契約は非常にコスパが高いです。逆に、弁理士が社内にいるような企業は特許事務所と顧問契約する必要は無いかなと思っています。

■特許事務所のメリット

まず、特許事務所側の視点で弁理士が顧問契約を取るメリットを挙げていきます。

・相談に気持ちよく応じることができる

初めての相談者から相談料をもらっている特許事務所は多いと思いますが、継続的に出願案件をもらっている企業から出願に繋がらない相談があったときに、相談料を請求しにくいですよね。

しかし、いくら継続的に出願依頼があっても、いただいている報酬は明細書作成とその都度等価交換しているはずなので、どちらが得をしているということは無いはずです。

したがって、出願業務とは独立して相談に対しても提供したサービスと報酬がその都度等価交換されるべきです。

特許事務所の売り物は知識しか無いので、その知識の提供に対して相談料を請求できずにいると、特許事務所側に不満が溜まります。

不満が溜まると知らず知らずのうちにクライアントに対してそれが態度ににじみ出てしまい、特許事務所とクライアント企業にの両者にとって決して良いことにはなりません。

一方で、顧問料をもらえていると特許事務所は気持ちよく対応することができ、非常に健全です。

・クライアントが遠慮しなくなる

クライアントは意外と「こんなことを弁理士さんに質問していいんだろうか」「忙しそうだからこんなことを聞くのは悪い」と思っています。少なくとも弊所のクライアントさん達は奥ゆかしく、このように言った方が複数います。

その点、顧問契約することでクライアントは遠慮なく相談することができるので、クライアントの知財リスクが事前に回避できる等、いいことだらけです。

・事務所経営が安定する

当然のことながら顧問料が毎月入ってくるので、売上げが下支えされます。それが僅かであっても、毎月約束された売上げがあるのと無いのは大違いです。

顧問料による下支えによって毎月の他の売上げノルマが低くなるので、すぐには売上げに繋がらないけど重要なことに時間を投資できるようにもなります。

それに加え、クライアントからの相談が増えることで出願案件が発掘され、自然と出願依頼も増えます。つまり、顧問料をいただきながらそれがそのクライアントに対する営業活動となります

ここで、特許事務所にとっては出願手数料が大きいので相談があったときにはクライアントに出願してもらおうというインセンティブは少なからず働きますが、顧問料という報酬をいただいていると、無理に出願へ誘導しなくて済みます。そのように「この案件は出願しないほうがいい」とアドバイスできることでクライアントからは誠実だなと思われ、さらに信頼を得ることができます

余談ですが、弊所では事務所の家賃や事務員さんの給料等の経費は顧問料で賄えているので、精神が非常に安定しています。

・コンフリクトでも泣かずに済む

弁理士法ではコンフリクトについて第31条で「相手方」と規定しており、出願業務に関してはコンフリクトが無いことになっています。

しかし、将来(出願の)クライアント同士が当事者対立構造になった場合のことを想定して、自主規制でコンフリクトを厳しめに捉え、既存クライアントの競合他社から出願依頼があっても断る特許事務所は多いと思います。弊所もこのスタンスです。

コンフリクトに対してこのように厳格なスタンスでは、過去に出願依頼があったクライアントから継続して出願案件が出て来なくても、後から出願件数が多い競合他社から出願依頼があったときに泣く泣く後の依頼を断るという決断をします。

こういった場合に先のクライアントと顧問契約できていると「顧問料をもらっているからそりゃ競合他社の案件を受けれないわ」とスッキリと後の企業からの依頼を断ることができます。

■企業のメリット

今まで特許事務所側のメリットを書いてきましたが、企業側にもメリットはあります。

・特許事務所に気軽に相談できる

顧問料を毎月支払うことで、特許事務所に相談しなければ損!という意識になる結果、特許事務所とのコミュニケーション量が増えるので、色々と手遅れになる可能性が減ります。

・知財人材を自社で雇わなくてもよい

知財人材を自社で雇うに越したことはありませんが、会社の規模によっては人件費と仕事量の点から「専属の知財人材を雇うのはちょっと...」という場合も多いはずです。そういったとき、顧問契約することで知財の専門家である弁理士に毎月数時間という単位で協力してもらうことができます。

■顧問契約の提案のタイミング

今まで出願と出願の間に無料で相談に応じていたクライアントに対して「顧問契約しませんか?」と言っても、今まで無料で相談できていたわけですから、そこに顧問料という新たな費用が発生することをなかなか受け入れてもらえません

そこで、新規に出願案件の取引が始まる企業に「弊所では顧問としてのサービスも提供しています」と伝えることで「◯◯事務所にはそういうサービスラインナップがあるのか」と知ってもらえます。

また、最初にクライアントへそのように伝えておくことで、相談業務が増えた場合に「そろそろ顧問契約はどうでしょうか」と提案した場合に受け入れてもらえる可能性が上がります。

したがって、開業したばかりで顧客数が少ない特許事務所にこそチャンスがあるのではないでしょうか。

■最後に

特許事務所とクライアント企業の両者にとってメリットが大きい「弁理士との顧問契約」が「弁護士との顧問契約」程度にスタンダードになることを願っています。

松本特許事務所
代表弁理士 松本文彦

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