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『豆腐小僧双六道中ふりだし』 by 京極夏彦: ブックレビュー

『豆腐小僧双六道中ふりだし』は、存在しない者の観点から描かれた非常に珍しい小説。著者の京極夏彦は、本作で彼独自の妖怪の存在論を見事に結集させている。

本作には多くの妖怪が登場するが、「妖怪大戦争」や「ゲゲゲの鬼太郎」のようなファンタジックな夢物語とは一線を画している。物語の舞台は、科学的で現実的な論理が支配する世界だ。

主人公の豆腐小僧は妖怪でありながら、現実世界に存在しないため、主体的に世界に働きかけることができない。つまり、自ら事象の因果関係を生じさせることができないのだ。彼の存在はどこまでも事後的にしか意味を持たず、おかしな出来事が起こり、その説明として時間的に遡行する形で彼の存在が原因として想定される――その限りで妖怪たちは存在できる。

要するに、妖怪とは事象に対する説明として仮定される存在であり、現実の論理からはみ出る過剰を解消するために想定される装置と言えるだろう。

この物語は読者の妄想を煽るように構成されている。読んでいるうちに、「ひょっとしたら、今も自分の横に妖怪たちがいるんじゃないか」と思えてくるのだ。


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