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【脚本】窓ろみ

所属しております劇団の310万の個人ストレッチゴールでモノローグを書きました。
5分ほどで男とありますが女優さんでも出来る内容となっております。
色んな意味と大柱の気持ちを纏めたので纏まっているかわかりませんが
是非想像力豊かに楽しんでいただければと思います。

【本編】

【男が寝転んでいる】
頭の中に思い浮かべる。頭の中に図を思い浮かべる。頭の中に明確な図を思い浮かべる。頭の中の明確な図に奥行きをつける。頭の中の明確な奥行きのある図に色をつける。頭の中の明確な奥行きのある色のついた図の匂いを思い浮かべる。頭の中の明確な奥行きのある良い匂いの色付きの図の味に思いを馳せる。ジュワッとしてジューシーで脂ぎってて、でもそれがよくって。やっぱり揚げたてで。何かける?ソース?少しお金を払って味噌ソースにしよう。名古屋の味だ。ご飯は?大盛り。おかわりも後でしようかな。頭の中にある明確なロースカツを思い浮かべ、お腹に手を当てる。よしちゃんと減ってる。はらぺこだ。
よし、マイボディイズボーン。

【立とうとする】

あれ?くそくそ!動け!動けよ俺の体!
行くんだろ!久しぶりにロースカツ食べに行くんだろ!!
ステイホームを律儀に守った僕の身体は順当なる適応、進化というより真っ当な退化の一途を辿り、起き上がることすらままならない、文字通り根の生えたようになってしまった。
くそっ!ロースカツじゃあダメか。足りない。
必然性を持ってステイホームをしていた僕は必然性を持たなければ動かない身体となった。いや、正確には必然性というよりもっとニュアンス的な。運命。そう運命が欲しいんだ。戸を締め切った僕の運命はいつの間にか鈍さを見せていた。こう、風通しも悪い部屋では運命の歯車も回ることを知らない。最後にこの部屋に風が吹いたのは1週間前、実家からの仕送り。大量の食材。お陰で家から出る必然性がまるでなかった。1週間分の食材が運んで来たのはこの場に留まる運命なのだろうか。でもそんな事を言われてしまったら、こんなひどく退屈な運命ってあるかと僕は抗議したい。運命っていうのはもっとこうドラマチック、スピリチュアルなもので偶然みたいな雰囲気も醸し合わせているもんだ。

外に行く事にはそれくらいの不確実性が欲しいわけで。閉じこもる以前、外に出るってことはそれこそ歯車に乗ったみたいに僕が望もうが望まなかろうがやらなきゃいけないことだった。
動いてる。流れてたんだ。一人一人の運命が。命を運ぶと書いて運命。僕達は文字通り命を運んでる。お互いが運んだ命が相互作用を起こして、運命的に運命的な出来事が巻き起こる。別に特別な事じゃなくていいんだ。前に街で見かけた人を見かけるだけでも、自販機で新商品を見つけるだけでも、同じを履いてる人を見かけるだけでも十二分に運命なんだ。

と、実に実に崇高でそれらしい事をこんな体制で高らかに騒いだとして、これを人は惨めと呼ぶのだろう。
運命的な出会いを果たしたロースカツも普遍的に感じるようになると魅力的ではあるが原動力にはなり得ない。外の世界に魅力的な原動力の運命がある事をこの部屋にいるだけじゃあ証明できない。想像力を働かせても、目の前に浮かぶのはカツばかり。しかもそれを思い浮かべ満足するだけの自分。多分、以前より随分低俗な世界を並べている。

【這いずり窓を開ける】

窓をあけて想像力を部屋の外に伸ばしてみる。
あー、いい。いい天気だ。外は今どうなっているんだろう。世間とこの部屋に風が通った1週前。少しは進んだであろう世界と僕には時差があった。ステイホームで溜まりに溜まった鬱憤で家々は空っぽで、泥棒達も家なんか見たくもなくて、道ゆく人はハグして周り、夏なのにみんなで同じ鍋を突き、電車は満員の満員で、それでも人の温もりに感動し、涙を流し感謝しあって会社へ向かい、デスクを放り投げ歌い狂ってるのだろうか。見えなかった顔をみんなでお互いに覗き込み、手ピカジェルはカルピス割にして、透明カーテンを暖簾に改造して粋のある雰囲気に釣られてみんなお店を覗きにくるのだろうか。

窓をあけただけで7畳じゃ足りなかった想像力は多分世界の裏側まで旅立った。
国境線を無くした地図を急いで刷って、拳銃を全部フィクションの世界に押し込んで、プーチンとトランプが田舎で農家を始めてキリストとアッラーが小躍りしてる銅像がエルサレムに建てられみんなも小躍りしてるのだろうか。

【立ち上がる。】

お腹すいたなぁ。

【終】

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お陰様で320万も達成致しましたのでまた頑張りたいと思います。
その時はまた。

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