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カブトとクワガタ1


兜は少々気が立っていた。

仕事をする時はいつも一人で全てを行う彼にとって
バディを組まされることはストレス以外の何ものでもなかったのだ。

隣に座る丸メガネの男に目をやり、兜はまた一層憂鬱な気分になった。

第一こいつは、顔が目立ちすぎる。

尖った鼻に堀の深い顔面はヨーロッパ人を彷彿とさせる見た目であった。丸メガネで顔の印象を和らげようとしているのだろうが、あまり効果的であるとは思えなかった。さらには肩まで伸びてるであろう長い黒髪を後ろで結んでいる。

『兜…だったか?

お前、氷は好きか?』

突然の理解不能な質問に兜はすぐに答えず、仕事を渡してきた仲介人である“林檎“という女の顔を思い浮かべた。
次会ったときには必ず文句を言ってやろう。

ーーーー


この日はいつも通り仕事を受け取りに事務所へ向かった。

事務所といっても端から見るとただの古い書店ではあるが。

中へ入ると店主である五十代程度の小綺麗な女性は兜に向け軽く手を挙げた。


『いらっしゃい。待ってたよ。』


『ああ。いつも通り頼むよ。』


そう聞くと林檎は準備していた本を棚から取りだした。林檎の仕事の渡し方はいつもこうだ。本屋は本屋らしく渡した本の中に仕事内容が記載されている。


『今回はいつもと勝手が違うよ。

あんたにとっては少ししんどい仕事になるかもしれないわね。』


林檎はイタズラっぽい笑みを浮かべながらそう言った。兜はやれやれといった様子でそれを受け取り長居は禁物といった様子でそそくさと店を後にした。


あの時しっかり確認しておけば


兜はひどく後悔することになる。


自分の仕事場に戻った兜は先程の本を開き中身に目を通した。


【・北海道のすすきのにある“スナックNANA“に行き、ママからある物を受け取ること

・それを羽田空港第2ターミナル1階、南側コインロッカーに入れること

報酬は任務完了後に支払われる】

東京在住の兜にとって少し面倒な内容の仕事ではあったが、その分報酬は弾む。いつも通り淡々とこなすだけだ。
そう思ったとき、最後に書かれていた1文に目が止まった。


【なお、今回は二人組みでの行動とする】

楽しい話を書くよ