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カブトとクワガタ 6

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初めて会った2人の男に自分の余生をかけて掴んだ"証拠"を託した女は、ただ祈るしかなかった。

自分の依頼通り事が進み、"あの男"に正しい罰が下される事を。

女は吸っていたタバコを灰皿に押し付け、店の看板の灯りを消す。
"スナックNANA"と書かれた黄緑色の看板はフッと色を無くした。

この店を始めてからすでに20年が経とうとしていた。
女はその月日を思い返す。

幼少期を施設で過ごした彼女は天涯孤独だった。
物心がついた時にはすでに施設におり、何故自分はここに入る事になったのか、自分の両親はどこで何をしているのか、手掛かりは一つもなかった。

家族の温かみを知らない彼女は人肌を求める様になり、14歳で初体験を済ませ18を越えてからは水商売の世界に入り数々の男と肌を重ねるようになった。

何度も何度も相手を変え繋がったがそこに本物の愛を感じた事は一度もなかった。

そして彼女が30歳を向かえた頃
1人の男と出会う事になる。

その日、行きつけのバーのカウンターで1人酒を煽っていた彼女に声をかけてきた男がいた。

とてもナンパをするような見た目や話し方では無く七対三に分けられた前髪にピシッとしたスーツ姿から「真面目そう」というのが彼の第一印象であった。
しかしそれが逆に珍しく、彼女の興味をそそった。

実はこのバーで彼女に一目惚れを
した彼は、何度も話しかけようと試みるが勇気が出ず、通い詰めてやっとの思いで声をかけたのだった。

話をしていくうちに意気投合した2人は定期的に食事に行く仲になり、段々親密になっていった。

その男は彼女にいつも花をプレゼントした。
君に似合うと思ったんだと照れ笑いを浮かべながら。

その男は彼女に世界で一番君が好きだと言った。
顔を真っ赤に染めながら。

その男は彼女に世界で一番君を愛していると言った。
今までで一番真剣な表情を浮かべながら。

彼女は初めて愛を知った。
これ以上無いという程彼女の心は満たされた。

そして2人はすぐに結ばれた。

水商売をしていた彼女との結婚はエリート銀行マンである彼の両親から猛反対を受けたがそれを半ば強引に押しきった2人は籍を入れた。

そして結婚生活も10年に差し掛かったある日

彼の応援もあって彼女は夢であった自分のお店を開くことに成功したのである。

彼女が40歳の時であった。

楽しい話を書くよ