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【記者体験記】『令和版 現代落語論』刊行記念イベント・レポート

1. はじめに

はじめまして。直塚大成です。長崎県に生まれ、現在、福岡県に住んでいる23歳の大学院生です。

また、本年2023年12月22日にSBクリエイティブより刊行される『「書く力」の教室』という本で、プロのライターである田中泰延さんから、マンツーマンで文章指導を受ける生徒役を務めます。よろしければ、よろしくお願いいたします。

約1年間、田中さんからライターとしての心構えを教えていただき、「ライターは依頼があって、書く人」という言葉を肝に銘じてきました。しかし、このたびどうしても書きたいことができたので、1年ぶりにnoteを更新いたします。

どうしても書きたいことというのは、先週11月17日(金)に下北沢の本屋B&Bで開催された、落語家・立川談笑さんの『令和版 現代落語論~私を落語に連れてって~』の刊行記念イベントに行ったことです。

11/17(金) 20:00〜 @下北沢 本屋B&Bさん
『令和版 現代落語論』刊行記念イベント
「古典の現在位置 〜調べて変える方法論〜」
※現在、Peatixでアーカイブ視聴が可能)

東京・下北沢の本屋B&Bで、立川談笑さんと田中泰延さんが「古典の現在位置 〜調べて変える方法論〜」をテーマに、喋って、喋って、喋り倒すイベントでした。

会場では本書の編集担当の廣瀬翼さんや、装幀の担当の上田豪さん、さらにひろのぶと株式会社総務・営業の加納穂乃香さんも登壇し、『令和版 現代落語論』刊行までの経緯をお話くださいました。

これが、楽しかったんですわ。

思わず関西弁(またはお嬢様言葉)になってしまいました。それくらい素敵なイベントでした。ここからは、そのイベントレポをお送りしますわ。

2. まず『令和版 現代落語論』について

まずは、本書をご存じない方へ『令和版 現代落語論』についてさらりとご説明いたします。『令和版 現代落語論~私を落語に連れてって~』は、田中泰延さんが社長の出版社『ひろのぶと株式会社』から、2023年10月31日に刊行された書籍です。編集は廣瀬翼さん、装幀は上田豪さんです。

価格は、2,420円(税込)

この本には二次元バーコードが付いており、スマートフォンのカメラで読み取れば、談笑師匠の高座の動画で見ることができます。だから、この本は「落語は見たことないし、よくわかんない」という人や「落語は大好きで、毎日聞きたい!」という人にもおすすめですね。つまり、全人類対応!

正統派でストレートな題名なので、とっつきにくそうと思ったそこのあなた! ……長さん、あんたじゃないよ。後ろのべっぴんさんに言ったんだ。安心してください。とっても読みやすいです! 文中には丁寧な配慮が幾重にもなされており、むずかしい専門用語もほとんどありません(それどころか脚注まであるのです!)。グングン読み進めて、気づけば、落語の世界から帰ってこれなくなります。

ご興味があれば、ぜひ一読を。二読もいいよ!

3.『令和版 現代落語論』出版記念記者発表会

今回、ひろのぶと株式会社の廣瀬翼さんからお誘いいただき、当日イベントの前に開催された記者発表会に参加させていただきました。

下北沢は人生初。会場となった本屋B&Bはまるで本の森でした。中に入ると、すでに新聞各紙の記者さんや、演芸専門誌「東京かわら版」の記者さんがいらっしゃいました。廣瀬さん曰く、僕も記者席から談笑師匠に質問をしてよいとのこと。いいんですか!

また、ひろのぶと株式会社の株主さんも「株主記者」としてイベントに参加できる企画があり、その中には大阪のレザーストア「スナワチ」のオウナーである前田将多さんや、ウエチカズヤさんもいらっしゃっていました。緊張感があります。

さて、定刻。定刻ホテルです。

ゲストでお越しの麻衣阿さん(モデル・プロデューサー)を加え、記者会見が始まりました。早速、各誌の記者さんから質問が飛び交い、談笑師匠と田中さんが軽快に答えていきます。

さて、その時の僕は……質問できる気がしませんでした。沈黙。沈黙の艦隊です。ここで、一年前ならば「ああ、まったく、勇気がないな~」と自信を失くしていたかもしれません。しかし、この日の僕はすこし違いました。約1年、田中さんに取材の心構えを叩き込まれてきています。

「取材には、流れがある」

田中さんから頂いた言葉の一つです。記者会見中、この言葉を思い出していました。質問するために必要なのは勇気ではありません。流れ。調べたことをアピールしたり、聞きたいだけのことを聞くことは、その流れに反しています。そして、流れに反しているから、勇気が必要だと感じるのだと思います。緊張はまやかしだ! 流れをつかめ!

この場の流れを考えました。

各紙の記者さんの質問が終わり、なんとなく、場が終わりに向かいかけました。やばい。このままでは質問できずに終わってしまう……。その時です! 前田将多さんが、手を挙げて質問されました。

「直近で、談笑師匠の落語を見たいと思ったら、どこに行けば見られるのでしょうか?」

談笑師匠はそれを受け、にこやかに

「11月21日、談志の13回忌の日に東京・有楽町のよみうりホールで『談志まつり2023』というイベントがあります。あとはその日に東京・吉祥寺で『立川談笑一門会』。あとは11月26日に大阪・梅田のブリーゼプラザで『立川談笑独演会』を予定しております。

あとは年末12月20日の東京・新橋で行われる『立川談笑月例独演会 其の251』ですね。こちらは『慶安太平記』と呼ばれる、大変長い間かけて演じてきたシリーズの最終回でございます。

立川談笑WEBより

そして明くる年の2024年1月7日には、東京・池袋で『新春談笑ショー’24』も予定しております。落語は生で見るとまた全然違いますので、ぜひお越しください」と仰いました。

立川談笑WEBより

談笑師匠のHPによると、その後も12月2日に千葉・新浦安の浦安市民プラザ『しんうら寄席』、6日に東京・町田の『東京落語会』、9日・17日に東京・浜松町の『立川談笑独演会』、20日は東京・新橋でついに『立川談笑月例独演会 其の251』、そして22日に東京・吉祥寺の『立川談笑一門会』を以て今年の公演はおわり。1月6日に東京・蒲田の『新春プラザ寄席』、1月7日の東京・池袋『新春談笑ショー』から、新しい1年がはじまるようです。

前田さんは大阪で行われたもうひとつの刊行記念イベント(配信はナシ)にも参加されており、大谷選手顔負けのダブルヘッダーでした。さらに談笑師匠の高座はもちろん、他の落語家さんの寄席にも何度も足を運んでいらっしゃいます。そんな前田さんが、談笑師匠の今後のスケジュールを押さえていないはずがありません。ならば、なぜ訊いたのか? おそらく、前田さんが各メディアの読者へ向けて考えた、記者としての質問だ。そう思いました。

そこで、僕もビビッときました。

このやりとりは、本書の副題であり、談笑師匠が伝えたい「私を落語に連れてって」という思いと通じています。伝えたいことは、きっと何回聞いても悪いことではないはずです。ならば、前田さんがいま投げてくださったボールを、違う角度から投げればいい。さて、どうしよう。切り口をさがせ!

大阪……東京……。そうだ、他の都市は?

いくら談笑師匠といえど、からだはひとつ。今日は北海道、明日は沖縄へ軽々と行けるわけではありません。それなら「僕は九州から来ました。師匠は九州で寄席をやることがあるんでしょうか?」と聞いてみるのはどうだろう?

……いやいや。そんな質問したって何にもならない! それは自分語りに近い。ダメ。でも惜しいよ! もっと、もっと広く考えてみました。

ここにいる他紙の記者の「読者」はどんな人だろう。想像してみました。全国、場所を問わず、無類の落語好きかもしれません。落語に興味を持っていない人かもしれません。ならば、記者さんは「みんなに読まれるネタ」を探しているのかなあ。

そんなふうに、前田さんの見よう見まねで考えていると、考えが浮かんできました。

(『令和版 現代落語論』と、ここに集まる記者さんの目指すところは同じじゃないか?)

落語は全国にファンがいます。立川談笑師匠も全国にファンがいます。ひろのぶと株式会社も全国にファンがいます。ならば、潜在的な落語ファンは全国にたくさんいるはず。その人たち全員の背中を押す質問ができれば、この場にいるすべての人にとって意味があるのではないか。すべての流れが繋がり、気づいたら手を挙げていました。「どうぞ!」と田中さんがマイクを向けます。

九州から来ました。えっと、一般人枠……みたいな。株主でもないんですけど、直塚と申します」

……ひどい自己紹介でしたが、とにかく立つことができました。

とはいえ、あながち「一般人」の立場が間違っているわけでもありません。落語を聞いたことない度は、この場で一番です。そして、立ったからには質問します。

「談笑師匠はこの本の中で、若手の落語家さんたち……というか、全国を巡ってやっていらっしゃる人たちが、決して都会の有名な落語家さんより劣っているわけではない。『これが一番言いたかったんだ』と書いてらっしゃったのですが、僕のように落語の初心者で、近くに落語会が来てることは知っているけれど、あと一歩踏み出せない……みたいな人への一言があれば、お願いします!」

僕の質問は、このようなものでした。談笑師匠や田中さんがどう思われたかわかりませんが、拙いながらも、成長を実感しました。なぜなら、心から出た言葉で、質問ができたからです。

事前に準備した質問もありました。
たとえば

「家元の立川談志さんは落語を『業の肯定』と言い表しておられましたが、談笑師匠は書籍の中で『談志が(業を)肯定するわけではない』と書いておられました。ここにはどのような違いがあるのでしょうか?」

などです。これも、たぶん、ダメではないと思います。しかし、どこかで「僕は調べたぞ!」だったり「この観点、他と違うでしょ?」という、質問にかこつけた自己アピールに思えなくもありません。

質問にかこつけた、自己アピールをしてはいけない。

『「書く力」の教室』より

この瞬間まで、ずっと手を挙げられずにいたのは、どこかで自己アピールしようとしている自分に気づいていたからです。しかし、ここでほぼアドリブの質問で手を挙げられた理由は、前田さんが作ってくれた場の流れと、それに加え、はじめて本を読んだ時に感動した部分をどうしても伝えたかったからではないかと思っています。

何が言いたいかというと、有名ではない落語家だとしても立派な技術者です。と、これが言いたかった。

『令和版 現代落語論』, p35

僕はこの部分を読んだ時、心が震えました。

書き手の切なるものに触れたときに、人の心は動く。そして心動かされるという体験をくれた書き手のものを、人は読み続ける。

『「書く力」の教室』より

これも田中さんから教わったことです。そして、僕は「『私はこれが言いたいんだ』『僕はここに感動しました』と恥ずかしがらずにハッキリと書くこと」という指導も受けました。

その教えを、田中さんご自身が、自社から出す書籍で実行していること。そして、今回『令和版 現代落語論』でまっすぐな言葉を綴った談笑師匠の熱い思いに胸を打たれました。この部分に感動したのは、絶対に、談笑師匠が「これが言いたかった」と書いてくださったおかげです。ありがとうございました。

師匠は質問を受け

落語家はみな、一流の技術者です。それに、落語は人の心を癒すことができると思っています。お笑いはセンスがはじける爆発的な笑い、落語は技術に支えられた頭脳的な笑いなんですね。今日も落語家は全国すみずみまで足を運んでいます。それを技術者が話芸で現場を回っていると考えてみるとどうでしょう。見方が変わってきませんか」

という強い思いを、記者の皆さんに楽しそうに語っていました。

「お近くに落語家が公演に来たら、名前を知らなくてもどうぞ聴きに行ってくださいね」と声を大にして言いたいのです。

『令和版 現代落語論』,p35

よかった。少しは役に立てたかもしれません。この部分は本にもバッチリ書かれておりますので、ぜひみなさんも確認してみてください。ぜんぜん記者発表会の中身に触れずにすいません。でも僕は、このことをどうしても書きたかったんです。

4.『令和版 現代落語論』刊行記念イベント、ついに開幕!

記者発表会が終わり、イベント定刻の20時になりました。田中さんと談笑さん。でっかい二人が椅子に座ります。浅生鴨さんや二重作拓也さん、田所敦嗣さんら作家の面々や、田中さんや談笑さんを応援しておられるたくさんの方々が集まりました。到底書ききれません。つまりは、超満員!

本編前半はひろのぶと株式会社の皆さんが書籍に寄せた想いや、装幀の上田豪さんによる本の装幀・ブランディングのお話がありました。上田さんの「広告屋としてのブックデザイン」、廣瀬さんの「タイトルへのこだわり」、そして忘れてはならない、加納さんによる「重版!決定!」などなど、エキセントリックなお話の連続です。

休憩を挟んだ後半は、やっと談笑師匠のお話です。「マクラへの視点」「新作落語への視点」というお話を切り口に、すごいお話が次々と展開されてゆきます。いままさにアーカイブを聴き直していますが、談笑師匠が話し始めた瞬間、場の空気が変わっているのが分かります。

「落語と古典」「改作落語と文学」などの語り口で進められるお二人の掛け合い、また観覧席にいらっしゃった浅生鴨さんから談笑師匠へ「せっかくなので伺いたいんですけど……」と出てきた質問など、見たらぜったい楽しいですよ。

5. 閉幕。そして、

愛くるしい談笑師匠

あっという間に終わりました。
いやーおもしろかった! 

中身は書きません!ぜひ!みなさん見て!
ライター失格ですが、見るに勝るものなし!

閉会後に手ぬぐいと書籍を購入し、談笑師匠からサインをいただきました。書きなれてるなあ。かっこいい。ひろのぶと株式会社の直販限定サイン本は持っていたので、表紙の談笑師匠の写真にサインを書いて頂きました。反対側は、いつかあの世で立川談志さんにサインをお願いしようと思います。いつまでも、いつまでも読み続けられる本であって欲しいです。

そして、このイベントの間、ずーっと気になっていたことがありました。それはカバーのデザインについて。このカバーの紫って……どうやってくっついてるんだろう?

ココです。それが気になって、実は、イベント中もずっと触っていました(笑)。赤色の部分と紫色の部分の間に段差を感じられなかったからです。金の裏表紙から触っても貼り付けた形跡がありません。そこで、閉会後に上田豪さんへお尋ねしました。

「それはね、箔押しっていうんだよ」

上田さんは優しく答えてくださいました。隣にいた前田さんも、ウンウンと頷かれていました。えっ、これって、まさか常識……? でも、箔押しってふつう凹凸とか出るもんじゃないのかな? もしかしてここに段差がないようで、ある? なんでこれで剥がれないの? 

……うーむ、世界は奥が深い。

さらに、この表紙は二次元的で、意図して立体感を減らしているのだろうかということも気になっていたので、勢いに乗って聞いてみました。すると、こちらも答えてくださいました。

「これこそグラフィックデザイン的な考え方だよ。ひろのぶと株式会社のブランディングや広報まで考えた時や、他社の本と並んだ時、一目で印象に残るものがいいと思って、これに決まったんだ」

画像はひろのぶと株式会社よりお借りしました。

聞いて良かった! たしかに、チラシやSNSで書影を見た時を考えると、シンプルで洗練されたデザインが光ります。また、今回のイベント内でもお話されていますが、このカバーデザインは他にもいくつかの案があり、その中で、みなさんの意見が一致したのが今の表紙だったそうです。もしかすると、いずれ、そのお話も聞けるかもしれません。楽しみに待っています!

余談ですが、その時

「本、もうすぐだね~」

と仰ってくださったときの顔が、とても優しかったです。がんばります。こういう人たちによって、本は支えられているんですね。

6. おわりに

こうして振り返りを書いてみると、質問を考える力や書く力が付いているのではないかと成長を感じました。プロのライターである田中泰延さんに教わったおかげです。ありがとうございました。

過去形で話しましたが、発売日は今年の12月22日。まだもう少し先なので、宣伝ちゃんとがんばります。これを機に、止まっていたnoteも書いてみます。この1年を、夢にしてはいけないので!


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