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【FLSG】ニュースレター「Weekly Report 7/15号

米CPIで大波乱、日経平均1033円安
11日発表の米6月CPI(消費者物価指数)は前月比-0.1%と市場予想の+0.1%を下回った。前月比マイナスは実に4年ぶりで、一気に短期筋の動きを誘ったと見られる。前年比では+3.0%、5月の+3.3%から鈍化した。食品とエネルギーを除くコア指数は前月比+0.1%(5月+0.2%)、前年比+3.3%(同+3.4%)、根強いインフレの主因とされてきたガソリン価格の下落、家賃の伸び鈍化が寄与した。

金利先物市場で、「9月利下げ」確率が発表前の70%程度から90%に撥ね上がった。つれて、米債2年物利回りは一時4.486%,10年債は4.2%割れ。その後戻しているが、10年債は2月以来の4.0%攻防に向かうとの見方も出ている。
米利回り急低下で、ドル安円急騰、一時157円台半ば。ややオーバーシュートしていた相場が140-160円ゾーンに戻ったという印象だが、投機筋のポジション変動が目まぐるしくなると見られる。

株式市場も急変動。もっとも目立ったのは、半導体SOX指数-3.47%、中小型株指数のラッセル2000指数+3.77%。ナスダック、S&P500指数の連騰記録が途絶えた一方、NYダウは+0.08%。高金利に圧迫されてきたセクターに買い戻し、薄日が差した。ラッセル2000の水準は22年3月以来の水準。ただし翌12日の日経平均はナスダック、半導体SOX 指数の下げで1000円超の下げ。

それまでの買い戻し主導の株高が一服。6月中頃からの日本株の上げは海外投資家の買い、ファンダメンタルズより需給要因が相場をけん引していたため、先物やオプションでの売り方の踏み上げ(損失覚悟の買い戻し)が終われば調整局面は必至。12日はその歪な相場が修正局面だったとみている。
CPI発表の翌日発表された6月PPI(生産者物価指数)は前月比+0.2%、予想は+0.1%だったが、インフレ鈍化を変えるほどではないと受け止められ、10年債利回りは4.2%割れを維持して週を終えた。

11日ワシントンで開催されたNATO首脳会議の宣言が発表された。事前に断片的に伝えられていたが、「ウクライナのNATO加盟は後戻りできない道」、「ウクライナ軍の訓練や装備品輸送に直接関与」、「ウクライナ領土の違法な併合は決して認めない」、「中国は戦争の決定的支援者」と強く非難した。

トランプ停戦論が事実上の「ウクライナ敗北」を前提にしていることを強く意識した印象がある。敗北はポーランド、バルト三国、フィンランドなど隣接国の危機感を一気に高める。米戦闘機F-16の今夏供与開始などが発表され、字面避け見ていると戦争拡大の恐れが高まる。

中国は当然、猛反発。特使のようになっているハンガリー・オルバン首相はトランプ氏と面談予定(3月に次ぐ)、ロシアが独防衛大手ラインメタルのCEOの暗殺を計画していたと米CNNが報道、などキナ臭さが出ている。NATO強硬路線維持のため、バイデンは大統領選から撤退できないとの見方も出ている。15-18日に「3中全会」を開催する中国の動きが関心を高めると見られる。

ナスダック7連騰、S&P500は目標5600到達、NYダウ再び4万ドル
米株の上昇勢いが止まらない。10日までナスダック指数は7連騰、S&P500指数は6連騰。この日S&P500指数は識者の多くが引き上げた目標値5600ポイントに到達した(5633.91)。S&P500指数の主要11セクターが揃って上昇、値上がり銘柄数:値下がり銘柄数は4.3対1で、ほぼ全面高の様相。

ただ、取引所合算出来高は100億株、直近20営業日平均115億株を下回る推移が続いている。なお、翌11日には両指数とも下げたが、12日には戻している。12日のNYダウの終値は4万90セントと5月18日の4万3ドルの史上最高値を抜くことはできなかった。

パウエルFRB議長の議会証言は、ほとんど材料視されず、金利、為替、原油相場など株式環境を左右する要素がほとんど動いていないなかでの連騰だ。一応、「9月利下げ開始期待」と説明されているが、CPI 発表前の時点で確率が高まっていた訳ではない。このまま行くとトランプ復活が濃厚で、トランプ政策先取りとの見方もあるが、どの政策を材料視しているのか分からない。

10日は、台湾TSMCの4-6月売上高が前年同期比40%増(予想は35.5%増)となったことで、AI・半導体関連を中心に買われた。TSMCのNY市場での時価総額は8日に1兆ドルに達していた。米調査会社によると、「AI新興企業への投資は4-6月期240億ドル、前四半期比倍増」と報告された。ヘルスケアやバイオ関連を上回った。ただし、別の調査では、「製造業者の生成AI導入ペース鈍化、精度に懸念」と発表されたが、現状無視の状態。

日本株は、7月に入って11日まで突然急上昇を始めたが、米市場とのキャッチボールが欧州市場からシフトして来たためと見るのが穏当なところか。ドイツ株を見ると、5月高値を抜けずにいる。6月から表面化してきた英、仏などの政治リスクが重石と考えられる。小池都知事が曲がりなりにも三選し、9月自民総裁選まで大きな動きがないとすると、海外からは日本の政治リスクは小さいと映ると思われる。

1989年のバブル相場時に、「品薄25」と言われる日経平均225銘柄のうち小型株が乱舞した。今は差し詰め「値がさ25」と言ったところか。買いが値がさ株に集中し、売りがETFとすると、値下がり銘柄が多いことが説明できる。とくに、小型株のスタンダード、グロース市場が下落しているため、信用買い残が重荷となり、場況を悪化させていたのが12日の大幅下落につながったのだろう。

9日、米EIA(エネルギー情報局)は24年、25年のBウィ電力消費量は過去最高との見通しを発表した。AIやデータセンター需要が急増するため。また、ドイツ復興金融公庫は国内電力網刷新に2050年までに3000億ユーロの投資が必要との見方を発表した。AI人気の裾野が拡大するとすれば、電力設備投資関連も見直される公算がある。

11日まで日経平均急伸、活況感広がりが課題
9日の日経平均は3営業日ぶりに上昇に転じたところからスルスルと上げ、終値は799.47円、1.96%高、TOPIXの0.97%高と大きく開いた。東京エレクトロン、ファーストリテイリング、ソフトバンクG、アドバンテストの4銘柄で約430円押し上げ。14倍強で推移していたNT倍率(日経平均/TOPIX)は14.36倍に急上昇(6月5日に14倍を回復後は安定的に推移していた)。

如何にも日経平均先物主導の上げで、東証プライムの値上がり銘柄数は1098銘柄(66%)、10営業日ぶりに1000銘柄を上回ったが、活況感はなかった。

スタンダード(-1.59%)、グロース(-1.43%)両指数は下落した。
7月に入って6連騰のナスダック指数に連動する買い戻し相場と見るのが妥当なところであろうか。オイルマネーの買い説(日経;後場に上げ幅拡大の時によく言われる)もあるようだが、「サウジがG7に警告」(ロシア凍結資産押収なら、欧州債売却と脅し)と報じられており、G7の日本に資金を移動する理由が見当たらない。

敢えて、買い材料ニュースを探すと、BII(ブラックロック傘下のブラックロック・インベストメント・インスティテュート)が9日、「日本株を投資対象として選好する」と発表。日銀が引き締めでなく、慎重な正常化を進めていることなどを要因に挙げた。政治安定の英国、一時売られたインド、メキシコもサプライチェーン再構築で恩恵を受けるとした。インド株が上昇しており、アジアの見直しの一環で日本株が買われた可能性はある。

シンガポール政府系投資会社テマセクが「最大の投資先を中国から米国とインドに軸足シフト」と伝えられた。運用資産は約46兆円、22年度(22/4-23/3)の株主総利回りは―5.07%、23年度が+1.6%。20年に約3割を占めていた中国資産の不振が足を引張り、3月時点の比率はシンガポール27%、米州22%、中国19%。7%のインドへの投資を増やす方針を表明しており、日本株も範疇に入るかも知れない。

日本企業の業績期待が背景との見方もある。中国のダメージ、円安影響など企業ごとにバラバラだが、総じて今年度は慎重予想。第1四半期で上方修正してくるところは少ないと見られるので、通期計画に対し進捗率30%で高評価になるとの見方が出ている。トヨタの前提で、ドル145円、ユーロ160円。140円前提の企業などに期待が膨らみやすい。

また、インバウンド好調の大手百貨店が上方修正しており、販売好調セクター探しとなろう。日経平均は36000~39000円ゾーンで揉み合った後、39000~42000円ゾーンにシフトしている。42000円ゾーンを一気に突破してくるかどうかは、もうしばらく様子を見たいところだ。次のゾーンは42000~45000円と考えられるが、依然先行き不透明感が強く、手応え感は今のところない。

方向転換描けず、薄商い相場
週半ばまで日本は猛暑、豪雨に見舞われているが、同じころ米国ではハリケーン「ベリル」のテキサス州上陸、ラスベガス48℃などのニュースが出ている。ハリケーンでヒューストン港閉鎖、停電が発生している様だが懸念された石油施設に障害は発生せず、原油相場は小反落。

米株市場は高値警戒のコメントも多いが、薄商い(取引所合算出来高101億株、20営業日平均116億株)下でのジリ高相場が続いている。日本と違うのは、値上がり銘柄数が1.3対1で多い(日本のプライム市場は2営業日連続で値下がり銘柄数が1000を超えた)点であろうか。なお、日経平均1033円安を付けた12日の値上がり銘柄数が1020、値下がりが573と歪な状況は続いている。

8日の東京市場の場中に「中国・江西銀行で取り付け騒ぎ、一時預金封鎖へ」との話が動画像付きで流れたが、以前の話が蒸し返しで流されたようだ。ただ、「一週間で40の銀行が消失、337が危機的状態」と言われれば、実態が分からない危機的状況に陥っていると見られても仕方ない面がある。

8日の香港ハンセン指数-1.55%、上海総合指数-0.93%、2月の危機以来、「国家隊」が支え続けているようだが、底抜け気味。中国不振の影響と見られる安川電機の減益決算から見ると、中国情勢は日本株の重石と見られる。
ただ、日本経済を後押しする材料が、小さいながら重なった。1)5月経常収支2兆8499億円の黒字。5月は海外配当などの端境期だが、黒字3兆円前後のペースが続いている。

円安効果が大きいと見られると同時に企業業績押し上げ要因、2)6月景気ウォッチャー調査、前月比1.3ポイント改善。海外投資家の関心が高いと言われる指標で、インバウンド効果が引き続き大きく、猛暑需要や減税効果の見方も。先行き判断は1.6ポイント改善と期待感がやや大きくなっている、3)日銀支店長会議は「中小企業の賃上げ、多くの地域で広がりが見られる」。前回4月の「期待できる情勢」から判断が前進した。
指数先物に振られやすい相場だが、今月下旬からの第一四半期決算先取りの動きに広がる可能性がある。



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■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。

一般社団法人FLSG
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