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【FLSG】ニュースレター「Weekly Report 3/11号」

日銀のゼロ金利解除と米利下げへの思惑強まる
米労働省が8日発表した2月の雇用統計によると、非農業部門雇用者数は前月比27.5万人増加と、市場予想(19.8万人増)を上回った。ただ、過去2カ月分の雇用の増加数が合計16.7万人下方修正され、失業率も3.9%と約2年ぶりの水準に上昇し、米労働市場が減速しつつあるとの見方を強めた。賃金の伸びも鈍化、2月の平均時給は前月比+0.1%と予想の+0.2%を下回った。

労働市場は昨年のような緩やかな傾向に戻りつつある。金融市場が見込むFRB(米連邦準備理事会)が6月までに利下げを開始する確率は80%と、雇用統計発表前の75%から上昇している。

日銀、マイナス金利解除支持に広がり 昨年上回る賃上げ期待(ロイター)

一方、日銀は3月のマイナス金利解除に傾く政策委員が増えていると、ロイター通信が報じた。今年の賃金上昇加速が見込まれることが理由だという。ロイターによると、3月に動くか4月に動くかは政策委員会でまだ決まっていないと伝えた。日銀が3月に2007年以来となる利上げに踏み切るのではないかとの観測が高まったのは、連合が7日、今年の春闘における加盟労組の賃上げ要求は平均5.85%で、30年ぶりに5%を上回ったと発表したことが大きい。労働組合の全国組織である連合は15日に、2024年春闘の賃金交渉結果の初回集計を発表する予定だ。
なお、日銀の政策決定会合は3月18日~19日、米FOMC は3月19日~20日。今週はこうした中央銀行の政策決定会合を前に為替市場は急速に織り込みに動いていくと思い。8日のNY市場で円は対ドルで146.99円まで買われ147円スレスレで終えた。11日の東京市場ではここから始まることになる。

 日本株は何処まで米株追随か分からないが、NT倍率(日経平均/TOPIX)は4日に14.82倍に上昇。この上は21年5月の15.4倍程度しかない。当時もコロナ集中相場だった。単純計算で、TOPIX(2726ポイント、8日終値)が横ばいのままだと、2700×15.4倍=41580円、TOPIXが2800ポイントとすると2800×15.4=43120円の計算。もう一つ、ドル建て日経平均は268ドル(8日終値)、21年の高値は279.6ドル(ドル円105円台)。ドル円145~150円ゾーン維持なら280ドル×145円=40600円、150円なら42000円の計算。41000円~42000円程度は関門と見て置きたい。

大手企業の春闘順調、賃上げは何をもたらすか
8日のSQ直前で思わぬ波乱となった。7日の夜間取引で日経平均先物は3万9000円近辺に急落した。ドル円が147円台に飛んだことに連動したもので、3月日銀政策変更思惑でSQとは関係なく投機的仕掛けが入ったか、SQでの売り手の最後屁か分からないが、時間帯から見て海外勢主導だったと見られる。

比較的短期で流れが再び変わったのはECBと見られる。7日の理事会では予定通り金利据え置きだが、ユーロ圏インフレ率2月速報が+2.6%(前月+2.8%)に低下したのを受け、24年インフレ率目標を+2.7%から+2.3%に引き下げた。ラガルド総裁は慎重ながら6月利下げの可能性に言及した。このところ多少グラついていた「6月利下げ開始」期待が戻ったことで、ドイツ株など欧州株は最高値を更新した。米株高へ連動したと見られる。

日銀のマイナス金利解消思惑の要因は、大手企業の春闘が予想以上に順調に進展していることと見られる。前述したように7日、連合が発表した4日現在の春闘要求集計は傘下3102組合加重平均賃上げ率が+5.85%と1994年以来30年ぶりの高水準となったのだ。個別交渉では満額一発回答の報道も多く、5%以上の賃上げ実現に手応えが出ている。焦点は大手企業に続く中小企業の賃上げ動向に移っている。

長らく体験していなかった賃上げの影響がどう出るか、市場の企業分析の一つの視点になろう。一般論では、賃上げが、停滞する内需、個人消費を持ち上げるか、企業は人員削減、事業再編に拍車を掛けるか、自動化・AI投資に注力するか、などが考えられる。例が悪いかも知れないが、1990年代の賃上げとIT化で、証券取引所の場立ち(知らない人が多いのでは)が居なくなったことが思い起こされる。

イトーヨーカ堂700名、資生堂1500名、ソニー・ゲーム部門900名、ワコール215名、オムロン2000名などが相次ぎ発表されている。グローバル展開、とりわけ中国事業縮小が入っているので、国内での話題性は乏しいが、欧米企業もフィリデティ1000名削減などの動きがある。事業再編では、レゾナック(旧昭和電工)の石化撤退、三菱ケミカルのアセトニトリル、日本金属のベイナイト鋼帯事業撤退などが最近の事例。

AIで何ができるかは未だ分かエアないが、JPモルガン「AI活用のキャッシュフロー管理ツールで法人顧客の手作業を90%削減、サービス有料化に一歩近づく」との報道があった。AIで大きなテーマは自動運転技術と思われるが、食品産業でも鮮度チェック、うま味判定から加工レベルで自動化が広がり始めている。
企業の評価は四半期ごとの決算動向で判定されることが定着しているが、中長期投資家は”企業の変貌”可能性により関心を高めて来ると考えられる。

メジャーSQは波乱なく通過、通過後利益確定売り見極め
8日はメジャーSQ(3月限先物・オプション決済日)。直近の12月SQ値は32639円、2月オプションSQ値は37018円。この間の上昇が大幅だったので、38000円とか39000円の売りポジションは一掃されていると見られる。直近の日経平均が4万円を割り込んでも直ぐ戻るのは、SQ値引き下げ圧力が薄いことを示す。昨年6月~12月はSQ値が32000円台で異様に安定していたので、今年は波乱になり易いと思っていたが、今のところ1月、2月上振れ一方通行になっていた。今回3月のメジャーSQ値は3万9863.92円だった。

一般論だがSQ通過後は、期末利益確定売り(いわゆる彼岸底)、下旬は配当取りの動きが注目される。今年は18-19日の日銀金融政策決定会合が関心を集めているので、結果次第で波乱となる可能性がある。高田審議委員や財務省シンパ派がマイナス金利解除姿勢を見せ、5日発表の都区部消費者物価が+2.5%(1月+1.8%)に急伸したことで、やや円高に振れている。反面、植田総裁は「春闘見極め」姿勢を強調し火消しに動き、1月の生産、消費統計が低調だったため、決定会合で「現状判断引き下げ」観測が流れている。

3-4月の日銀政策は為替動向に影響する。4月に入ると、前半は大幅上昇を受けた期初の利益確定売り、後半からは3月期決算発表、来年度業績予想が大きな焦点になる。為替が大きく動くようだと、その見立てが一変する可性がある。

当然、為替動向も株価動向も米国の変動の影響が大きい。米国の「リセッション回避、インフレ収束方向で6月利下げ開始」シナリオがどう揺れるかを睨みながらの展開。少し古いが、2月末辺りでヘッジファンドのレバレッジドファンドの米国債先物ショートポジションは昨年7月以降で最小となっていると伝えられた。足元の米長期債の利回り低下を見ると、ショートポジションの手仕舞い傾向が続いているようだ。

スーパーチューズデーで米大統領選予備選が事実上終了した。共和党はヘイリー氏が撤退、民主党ではオバマ夫人ミシェルさんの「出馬否定」をNBCテレビが伝えた。まだ8ヵ月先なので、老老対決にどういった波乱が起こるか不透明だが、当面はトランプ---バイデンの「米国優先」競争となる可能性がある。

トランプ政権の財務長官・ムニューシン氏の名前が久々に登場した。経営危機に陥っているNYCB(コミュニティバンク)の10億ドル強の増資を同氏の投資会社が主導して行う。NYCB株は47%急落後、30%高になるなど乱高下しているが、シリコンバレー銀破綻1周年の危機感は薄れそうだ、不動産屋トランプ氏の危機の芽を摘み取ったと見れなくもない。
また、ロイターが「中国マネー、海外ファンドに殺到」、「英投資家の米株買い、2月は過去9年間で最高」と伝え、依然、米株の外国人買いが活発な様相だ。

米国の中国関連株、アップル、テスラ軟調が重荷
5日のEV大手テスラに続いて、アップル・iPhoneの中国販売不振が伝えられた。年初からの6週で前年比24%減。同期間にファーウェイは64%増、Honor(20年にファーウェイから分離独立)2%増、Vivo15%減、シャオミ7%減、Oppo29%減。全体は7%減。ファーウェイと言うか、国有企業重視姿勢が鮮明で、アップルに挽回メドはない。

「輝き失ったアップル株」。先般のEV開発中止、AIプロジェクトに全力方針で失望を誘っている。EVでは1.5兆円をドブに捨てたと言われ、AIでの具体的取り組みは明らかになっていない。米GSなどが「強い買い推奨」リストから外した。4日はEUによる18.4億ユーロの制裁金発表(音楽サービスでの妨害行為)で2.4%下落、5日は一時5%超の下落、年初来下落率は10%を上回った。

「テスラ成長ストーリーに疑問符」。前日に2月の中国販売が落ち込んで売られたうえ、ドイツ工場近くで鉄塔火災があり、操業停止に追い込まれたことが嫌気された。4日7.2%下落、5日は一時5.6%安。

底流には、中国生産・販売で成功した代表2銘柄に中国の翳が広がっていることがある。中国需要が弱い上、習政権の国内企業重視策がある。米政府の「脱中国」路線があり、この日はAMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)の中国向けAI半導体輸出に米政府が”待った”を掛けたと伝わり、半導体関連株全体も売られた(SOX指数2%安)。

中国全人代は「政府活動報告」が行われたが、”習近平ヨイショ大会”の様相を呈している。官民でAI、半導体、宇宙などテクノロジー覇権を目指すと表明、国家発展改革委員会は「製造業の外国投資規制完全撤廃、通信や医療の市場開放方針」を表明したが、具体策はない。

習体制以前であれば、アップルは中国でAIや自動運転技術開発を目指した可能性があるが、中国の先端技術盗取が明らかになっている今は無理。
中国政府の対策で注目されていた「婚姻数の半減(22年683万組、前年比11%減、ピークの2013年から半減)」問題には今のところ具体策がない。昨年の人口は208万人減、出生数は54万人減の902万人。「辰年は縁起が良い」と触れ回るだけでは人口減に歯止めは掛からないと見られている。アップルとテスラ株の崩れは米株を押し上げてきた「マグニフィセント・セブン」の崩れを招くので要注意となろう。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。

一般社団法人FLSG
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