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【FLSG】ニュースレター「Weekly Report 5/20号」

関門通過、米利下げ期待戻る
15日注目の米CPIと小売売上高が発表、両指標ともに市場予想を下回り、米株主要3指数は揃って最高値を更新。ナスダック+1.40%、S&P500+1.17%、NYダウ+0.88%で、JPモルガンの予想通り1%前後の変動となった。指摘はオプション取引からの推計で、上下に振れる可能性があるとしていたので、まずはオプション絡みの売り方の手仕舞い・買い戻し相場と考えられる。ただし、14日時点でMSCIワールド指数が最高値を更新しており、市場が前掛かりになっていたと思われる。インフレ鈍化は景気減速と表裏一体となる可能性があり、次の強弱感対立構図が焦点となる。

4月CPIは前年同月比+3.4%、3月の+3.5%から鈍化した。3ヵ月、予想上振れが続いていたため、低下傾向に戻ったことが評価された。上昇の7割方は住居費とガソリン価格とされる。FRB目標の2%に低下するかどうかの焦点となろう。

同時に発表された4月小売売上高は前月比横ばい、市場予想+0.4%を下回った。3月分も速報値の+0.7%から+0.6%に下方修正された。アマゾンの春のプロモーションでオンライン売上高が3月+2.5%から4月-1.2%になったことなどが響いた。また、決算発表(2-4月期)を行ったホームセンター大手のホーム・デポの既存店売上高がー2.8%となったことも消費不振のイメージを広げた。16日にはウォールマートの決算発表が予定されている。 
  
なお、NY連銀発表の家計債務は第1四半期17兆6900億ドル、前四半期比+1.1%、コロナ前の19年末比3兆5000億ドル増。延滞率は3.2%(19年末4.7%)、クレジットカード8.9%、自動車ローン7.9%が問題視され始めている。

米債利回りは2年債4.72%台、10年債4.34%台に低下。利下げ開始期待は9月で、12月との年2回予想。つれてドル指数は0.66%安。円は0.96%高、ユーロは0.52%高、豪ドル0.97%高。
日本株は関門の日経平均3万9000円の攻防に向かうと予測。決算発表がほぼ終了し、5割強の会社が増配、自社株買いも過去最高更新と見られる。景況感はあまり良くないが、待機資金が動き易い環境に向かうと考えられる。

低迷する中小型株巡る議論が活発化
米CPI 発表の翌日16日にNYダウ初の4万ドル乗せ後、反落で戻ってきた(17日に終値ベースで4万ドル超え)。目立ったのは、NY取引所合算出来高176億株、直近20営業日平均115億株を大きく上回ったこと、下落率が大きかったのは中小型株指数のラッセル2000で0.66%下落。

12日付ブルームバーグの記事によると、年初からの上昇率はS&P500指数+9.5%に対し、ラッセル2000指数は+1.6%に留まる。この2年半、最高値を更新しておらず、出遅れ論議が活発化してきた。
ブルームバーグが挙げた低迷要因は、第一に「高金利」の重圧。
ラッセル2000構成企業は合計8320億ドルの負債を抱え、その75%の6200億ドルが5年間(2029年まで)に借り換える必要がある。FRBの利下げ姿勢の追い風が必要と見られている。第二は成長環境の不透明さ。第一四半期でS&P500種企業の4%増収に対し、ラッセル2000は0.3%増収に留まる見込み。ただ、第三のポイントに挙げられてきた世界のIPO、M&Aは改善の動きにある。世界の4月IPO、M&Aともに前年同月比+13%。米国ではIPOが同113倍(131億ドル)、M&Aが30%増。極不振だった米国で投資銀行が息を吹き返しつつある。ちなみに欧州のIPOは前年同月比6倍、対してアジアは80%超の減少。

16日の東京市場では、1-3月期GDP年率-2.0%ショックが戻りを挫いた。引けではプラスとなったがTOPIXはマイナスで推移、小型株指数グロース250指数が7か月ぶり安値に沈んだ。
1-3月の日本経済の低迷は岸田政権の失敗との見方が強い。
①12月に実施すべきだった減税を総選挙の思惑からか6月に先送り、時機を逸した、
②インフレ・円安に無策・傍観。逆に子ども税、森林税、再エネ賦課金引き上げなど小口増税ラッシュ、
③震度7で行ってきた補正予算を能登半島地震では組まず、復興が大幅に遅れている、などが指摘されている。
岸田政権には経済の旗振り役がいない(相変わらずのリーダー)。

リスクの多い低成長環境は、株主還元余力を欠く中小型株には厳しい環境であるが、割安状態が長期化し、見直し機運が出始めた。フィデリティ投信の旗艦ファンドの一つ「世界割安成長株投信(テンバーガー・ハンター)」の運用担当者がメディア向け説明株で、「日本株の中小型株の割安は長期的にみて、おそらく最も興味深い(日本株組み入れ比率は8.2%に留まる)」、スペインの運用会社ゲシウリスは「日本の中小型株市場は割安銘柄の宝庫で一世一代の投資チャンス」。市場の活況感は中小型株相場が必要で、立ち直りに向かうか注目される。

機関投資家強気、中国分断も追い風か
14日、BofA(バンカメ)による5月資産運用会社月次調査が発表された。「投資家は21年11月以降で最も強気」と伝えられた。グローバルファンドマネージャーの82%が下期の利下げ開始を想定、78%が今後1年間に景気後退が起こる可能性は低いとの見方。現金比率が3年ぶり水準の4.0%に低下、株式比率は22年1月以来の高水準。なお、BofAの週間調査では「ドル独歩高と中国悲観論、新興国株式への配分抑制」。日本株オーバーウェイトが20%、ユーロ圏の18%、米株の12%を上回った。

前述した4月CPIに先行して14日PPI(卸売物価指数)が発表され、前月比+0.5%と市場予想+0.3%を上回り、一時米金利上昇(10年債利回りは一時4.53%台に跳ねた後4.445%に低下)、ドル高円安に動いたが、パウエル議長の「統計はマチマチ」発言、PPIの前年比は+2.2%で市場予想と一致、などから落ち着いた動きに戻った。

このところの売り方はヘッジファンドと見られ、「過去5か月の最速ペースで株売却」(米GS)と伝えられていた。ロング・ショートが主流で、売り対象は高級品、自動車含む一般消費財、テクノロジー、金融。買われたのはエネルギー、不動産、公益株と言う。金利高止まり、景気悪化シナリオと見られる。

売り方を慌てさせたのは21年以来の「ミーム株」(ミーム株とはSNSで注目を集める株式で、購入の呼びかけが広がることで短期間のうちに株価が急騰するものをいう。 多くの場合、数時間や数日で一気に株価が高騰するのが特徴)の復活急伸。

代表銘柄のビデオゲーム小売のゲームストップ、映画館チェーンのAMCなどが急伸。米GSのロング・ショートバスケット指数は週初から11%の急落、空売り投資家の評価損は2000億円を超えたと報道された。
その余波か、テスラ、エヌビディアなどが買い直され、ナスダック指数は終値ベースの最高値を更新、S&P500指数は3月下旬の最高値に迫った。

バイデン大統領がEV、半導体、医療用製品などの中国製品輸入に関税大幅引き上げを発表。このところ「宥和的」と見られたバイデン政権に対中強硬姿勢が戻った格好。もっとも「60%関税」を主張しているトランプ氏は”生温い”と批判。混迷の大統領選に向け、政策が似通ってくる方向かも知れない。なお、テスラ、ホンダなどの中国での人員削減が報じられ、「生産の脱中国」観を後押しした可能性がある。また、AI関連で、イーロン・マスク氏のxAIがオラクルとクラウドサーバー利用協議でオラクル株が急伸、台湾鴻海がAI関連サーバーの好調で大幅増益を発表(液晶生産撤退のシャープ堺工場はAIデータセンタ―になる予定)、AI関連に期待感が戻ったようだ。
なお、5月31日付のMSCI銘柄入れ替えが発表され、日本株は15銘柄(シャープ、清水健、小田急、東武ヤマハ、スクウェア、アズビル、ヒロセ電機など)削除、追加はアシックスのみとなった。

日米とも政策失敗感漂う
JPモルガンが15日の米CPI発表後の株価大幅変動に事前警告を出すなど、市場はCPI 発表前から身構える状況にあった。オプション取引でS&P500指数が発表後に1%以上上下する取引が膨らんでいるための様だ。日本市場では、新発30年債利回りが2.03%、13年ぶり水準に上昇。10年債利回りも0.94%に上昇、日銀の買いオペ減額に反応した格好。円安と日銀利上げ攻防に焦点が移っている。米ブラックロックは「円安進行が海外投資家の日本株離れを招く恐れ」を警告した。もっとも、米GSの指摘によると、「日本株ロング・香港株ショート」の取引をヘッジファンドが解消したと言う。昨年の日本株上放れの一因と指摘されていた。最近の香港株は地方政府の不動産救済措置を好感して上昇している。

日本市場の最近の低迷の背景には、このところの景気指標の低迷があると見られる。厚労省・毎月勤労統計で3月実質賃金2.5%減、24ヵ月連続前年割れ。総務省・家計調査3月1.2%減、13か月連続減少、23年度平均は―3.2%。4月街角調査の現状判断DIは47.4,22年8月以来の低水準。家計関連の落ち込みが大きく、円安による物価高が圧迫と伝えられている。岸田首相が円安抑制へ、日銀に圧力を掛けているとの見方と符合する。23年度経常黒字が過去最大の25兆円超、「増える投資収益、国内に還流せず」と報道された。企業の増配など株主還元が主流で、効果は夏場。

原油相場が落ち着いていることもあって、米市場はリスクヘッジのポジション解消が進み、NYダウを中心に株高、米10年債利回りは4.5%を程度、VIX(恐怖)指数は12.55ポイントに低下した。原動力は企業業績の好調で、S&P500指数ベースの第1四半期利益は前年同期比7.4%増(エネルギー除くと10.5%増)の見込み。今後4四半期の予想PER(株価収益率)は20.6倍。自社株買い等も活発。

米国でもバイデン政権の脱炭素戦略が失敗している。製油所投資を抑制し、ガソリン高がインフレの主要素となり、EV奨励は空振り。輸出攻勢を掛ける中国EV車に100%関税を掛ける方向だが、BYDの攻勢を交わせるか焦点となろう。なお、米世論調査で80%の有権者がインフレを最大の問題に挙げ、バイデン政策に「不満足」は58%に上昇している。


■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。

一般社団法人FLSG
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