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【FLSG】ニュースレター「Weekly Report 6/10号」

ECB利下げ開始へ、米英に先行-ピークから低下も金利先行き不透明(Bloomberg)

予想通りECB利下げ
5日にカナダ中銀が4年ぶりに0.25%利下げ(4.75%)したのに続き、6日ECB(欧州中銀)も4年9か月ぶりに0.25%利下げした(3.75%)。
世界的に利下げ局面に向かっているとの見方を裏付けた。利下げはインフレ収束か、景気減速懸念か、どちらに軸足があるかで株式市場への影響は分かれるが、ECBは声明でインフレ低下を強調した。ただ、「タカ派的利下げ」と呼ばれ、利下げシナリオを示さなかった。市場は7月追加利下げの可能性は低く、9月12日の次回会合が焦点との見方。

この日欧州株はザラ場中の高値更新。もっとも、ECB発表前の動きで、売り方の買い戻しが原動力の可能性がある。牽引役は独ソフトウェア大手SAP、肥満防止薬のデンマーク・ノボなど。
同じ日米市場は振れやすい雇用統計の発表前で小動き。週間新規失業保険申請件数は前週比8000件増の22.9万件、このところ小幅だが市場予想を上回る推移で、緩やかに労働需給が緩んでいるとの見方。その分、一時高まった賃金インフレ懸念も後退している。

リサーチ会社の調査で、雇用統計発表後の市場が「リスクオフ」36%、「リスクオン」33%、「どちらとも言えない」31%と見方が割れていた。雇用統計での非農業部門雇用者数増は18.5万人、失業率横ばいの予想。結局、7日発表の雇用統計は就業者増加数が27.2万人、予想を大きく上回った。失業率は前月の3.9%から4.0%に上昇したが、平均賃金は前月比4.0%と予想の0.3%を上回り、この結果9月利下げへの期待が少し後退している。

11~12日のFOMC(連邦市場公開委員会)と15日のCPI(消費者物価指数)に注目。
大きな流れになるかどうかは分からないが、利下げ基調と連動しそうな2つの流れがある。一つはキャリートレード解消の動き。6日もメキシコ・ペソが対ドルで2.7%続落。メキシコ新議会の招集は9月だが、様々な改革案が議論されており、市場に不透明感・不安感が出ていることが背景。インド・ルピーも弱い動きと見られている。円キャリートレードが、どの程度の規模かは不明だが、巻き戻し圧力が掛かりやすいと見られている。

今週13~14日の日銀金融政策決定会合で、「追加利上げ見送りも、国債購入額は減額」が予想されている。利上げは7月、10月の見方が割れているが、日本が利上げ方向との見方が強まっている。調達・運用両面から、円キャリートレードに解消圧力が掛かる可能性がある。

もう一つは、減税の動き。独財務相は「物価高の国民の痛みを和らげる必要がある」として、26年までに総額250億ドル(230億ユーロ)の所得減税計画を表明した。いわゆるインフレ税で、インフレと共に税負担が増加しており、減税が政策焦点に浮上している。

米NY州のホークル知事は、今月末導入で準備を進めていた「渋滞税」(マンハッタンの乗り入れる車に課税)中止を発表した。年10億ドル規模だが、老朽化が目立つ交通インフラ修復、電動バス導入、地下鉄延長などに振り向けられる予定だった。早くも17年に発生した「NY地下鉄、地獄の夏」(列車が遅延し、客が長時間待たされた)再来懸念が取り沙汰されている。ただ、渋滞税評判は悪く、11月選挙を意識したと言われている。

空売りファンド失敗か、レザーテック急落もエヌビディア急伸
空売りファンド・スコーピオン・キャピタルがレザーテック株(半導体関連装置、東証コード6920)の空売りと不正会計の疑いがあるとする300ページに及ぶレポートを公表し、5日の東証でレザーテック株は7.5%急落した。売買代金トップの銘柄であり、この日の全体地合いも悪化した。単に個別狙いか、先物でのサヤ抜き狙いか、はたまた米半導体株の下落まで狙ったものか、不明だが、5日の米市場でエヌビディア株が5%急伸、SOX指数も4.5%高で戻ってきたことで、スコーピオンの狙いは失敗に終わりそうだ。レポートの内容は分からないが、レザーテックは同日夜否定した。

エヌビディアは2日に「次世代AIチップ・プラットフォーム」を発表、26年に投入する。AIチップ新製品は毎年投入する。発表が台湾だったことや週明けのNY証取のシステムトラブルなどが影響し、市場の評価が遅れていた可能性がある。株価急伸で時価総額3兆ドル乗せ、アップルを抜いた。トップのマイクロソフト3兆800億ドルを抜くのも時間の問題と見られている。レザーテックはエヌビディアのサプライヤーであるため、連動期待がある。

背景には、米市場に薄皮を剥ぐように「利下げ期待」が戻ってきたことがある。3日発表のISM5月製造業景気指数が2ヶ月連続低下、4日発表の4月雇用動態調査で求人件数が3年超ぶりの低水準、昨日はカナダが予想通り利下げした。米10年債利回り4.28%、2年債4.72%、30年債4.43%に低下、4月上旬以来の水準。今週のFOMCを先取りする動きだったようだ。

メキシコ、インド波乱、政治リスク起こりやすい状況
1989年6月5日の日本の新聞朝刊は一面トップが「天安門事件」、その下には「イラン・ホメイニ師死去」だった。改めて、激動の年だったと思うとともに、季節的に政治波乱の起こりやすい局面と思う。今週はメキシコ、インドの選挙で波乱となり、7月4日にスナク保守党惨敗予想の英総選挙が控える。米大統領選の攻防が話題となるぐらいで、政治リスクは市場に響いていないが、短期波乱リスクはある。もし混乱が広がれば、経済減速観から株式市場より債券市場に響き、金利低下要因となる可能性が考えられる。

3日のメキシコ大統領選では、左派系の初の女性大統領が選出された。議会、メキシコ市長など全体で2万余のポストを争う一大選挙で、候補者38人が殺害された荒れた選挙だった。今まで以上に政権運営、経済政策が不透明だとして、通貨ペソは3日3.8%、4日も一時2.9%下げる急落症状となった。メキシコ株は3日6.1%暴落、4日は+3.2%と反発したが不安定感は否めない。米市場にはストレートに響いていないが、生産障害を伴う混乱や不法移民問題での混乱に神経質になると考えられる。メキシコ・ペソは円キャリートレードの対象の一つと見られ、円高要因となる可能性がある。

4日開票のインド総選挙は、モディ・与党が単独過半数割れ、与党連合でやっと過半数維持、モディ政権3期目に向かうと報じられた。4日のインド株は5.9%の急落。経済高成長下での格差拡大などが問われた。脱中国でインド投資は活況、世界で唯一7%成長となっているが、政治の不安定化は投資心理に逆風と見られる。与党優勢観測で直前に最高値を更新していただけに、反動安が出易い。通貨ルピーも急落地合い。

IIF(国際金融協会)の発表によると、海外勢の新興国債券・株式投資は「4月は6ヵ月ぶりに流出超」。7億ドルと小幅だったが、3月の302億ドル流入超から急ブレーキが掛かった。国連によると世界の公的債務は23年約97兆ドル(1.5京円)、約3割の29兆ドルが途上国。GDP比債務比率の高い国を中心に利息負担に苦しむ状況にあり、政治不安定化が拍車を掛けると見られる。日本の政治も不安定化しており、他人ごとではない。投資マインドにネガティブ要因と考えられる。

原油急落、NY取引所トラブル、日本の自動車不正事件、失敗相次ぐ
2日に閣僚級会合を開催したOPECプラスは失敗した様だ。北海ブレントは80ドルを割り込み78.36ドル/バレル、WTIは2.77ドル安の74.22ドル/バレル。WTIは当面の下限と見られていた75ドルを割り込んできた。当面の減産継続も、10月以降は減産幅を緩めることで合意、米国提案のガザ停戦交渉が行われていることもあって、投機筋が一斉に引き揚げた印象だ。5月のOPEC産油量は3ヵ月連続横ばいだが、イラク、UAEが割り当て分を上回った。元々、足並みが揃い難いので、ジワリ供給増の見方。

NY証券取引所で3日システム障害が発生。先々週のインデックス表示トラブルに続き、60銘柄ほどが株価急変動した。知名度のある所では、バークシャー・ハザウェイの株価が一時99.97%安表示になったと伝えられる。午前中の取引は取り消されたが、午後には回復した。

景気指標で3日発表の5月ISM製造業景気指数が2ヵ月連続で低下したこともあって、米金利低下、ドル安。10年債利回り4.39%,2年債4.81%、10bpほど低下した。ところが、前述の7日発表の雇用統計を受けて10年債利回りは前日比+0.14%の4.43%に上昇して週を終えた。

日本では、トヨタ、ホンダ、マツダ、スズキ、ヤマ発の5社の認証不正事件が衝撃。量産に必要な型式指定申請で不正があったと言うことだが、屋上屋を重ねてきた制度自体の不備との見方もある。いずれにしろルール逸脱したことに変わりないので、各社の対応を見て行くことになろう。

株式市場で出遅れセクターになっているのは、米国では運輸株。ダウ運輸株指数は年初比5%安水準。21年11月の最高値水準から12%安。指数は鉄道、航空、貨物輸送、トラック輸送20銘柄で構成。景気指標と見られることもあったが、今は影が薄い。運輸株が持ち直さないとNYダウの上値に限界があると見られている。原油安が見直しのキッカケになるか、ハイテク業界との相対的評価バランス改善の動きが出るか注目される。

日本市場では全般的に消費関連の人気が低い。気を吐く百貨店業界は5月も20%前後の販売増を維持したが、香港の4月小売売上高が前年同月比14.7%落ち込んでおり、円安追い風にブランド物需要を食っていると見られる。それ以外は、岸田政権の失政(減税失敗、小幅増税ラッシュなど)で勢いがないが、広義のM&Aが一大テーマと考えられる。3日、永谷園のMBOが発表された。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。

一般社団法人FLSG
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