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【FLSG】ニュースレター「Monthly Report2月号」楽観から懐疑へ、そしてまさかの熱狂へ?

1年前の23年大発会(1月4日)の日経平均は前年比377円安、2万6000円割れの2万5716円で始まり、懐疑的なムードが高まった。そして今年は3万3288円でスタート、1月19日には3万6000円にタッチ、市場は楽観ムードが高まっている。(2月1日 文責太田)

展望2024:日経平均は過去最高値も視野、米経済軟着陸の思惑が支援(ロイター)

1月は際立った日本株パフォーマンス
日経平均の最高値は、ベルリンの壁が崩壊した1989年12月29日につけた3万8915円。当時の日本株はバブルだったことに間違いはない。そして現在は、年明けから「日経平均4万円予想」が飛び交うようになり、楽観ムードが強まってきている。まずは、1年前の2023年の大発会(1月4日)から振り返ってみよう。この日は、2022年11月まで2万8000円台だった日経平均株価が年末にかけて2万7000円を割ってしまい、さらに2万6000円すれすれまで下がって迎えた新年だった。

もちろん市場は大発会での反発を期待していたわけだが、結果はどうだったか。2022年末比で377円安の2万5716円86銭、2万5000円台で引けたときには、昨年の大発会の市場は意気消沈の極みだった。ところが、昨年、年初から半年後の7月3日には前年末から約30%高、8000円超上昇の3万3753円となり、33年ぶりの高値をつけている。

毎年12月初め大方の専門家は雑誌や新聞で翌年の相場見通しを出す。昨年12月初めでの日経平均の高値予測で最も多かったのは3万6000円だった。また、ドル円相場予想でも2024年の平均レートは「1ドル=135~139円前後」が圧倒的だった。

結局、日経平均は2024年の高値予測ゾーンを、わずか半月あまりで超えてしまったことになる。円ドル相場も、新年早々1ドル=148円台の円安をつけるとは、どれほどの人が予想しただろうか。そして、24年1月の月間騰落率を見ると、日経平均は+8.43%、NYダウは+122%、米ナスダックは+101%、独DAXは+0.91%、英FTはー1.33%、香港ハンセンはー9.16%、上海-6.2‘%。圧倒的に日本株の高騰が目立つ月だった。
日本株には「節分天井に彼岸底」という格言がある。総じて3月安値が多いため、この先楽観ムードから懐疑へと投資家のセンチメントは徐々に変化していく可能性も十分考えられる。

今後の日米金融政策に関心
2024年前半の日米株式市場の見通しは、米国の金融政策の行方にかかっている。米国株は、2023年10月末を底に年初来高値を更新して上昇を続けている。
筆者はFRB(連邦準備制度理事会)が6月(11日~12日に開催)から年内4回の利下げをすることを見込んでいる。だが、すでに市場はFRBが3月から年内6回の利下げをすることを見込んでいたが、ここにきて、その確率が急低下、代わって5月1日のFOMC での利下げ確率が急上昇。いずれにしても、市場は利下げを囃しながら、利下げの開始までは米株価は堅調に推移する可能性が高い。

一方、日銀の政策に関して、今のところ市場ではマイナス金利の解除は4月の予想が最も多くなっている。もし、4月など年前半に日銀が動けば、そのタイミングで株価はいったんピークをつけるかもしれない。そして、この後が難しいのだ。懐疑の時間帯がこの時期しばらく続くかもしれない。

バブル崩壊後の最高値はあるのか?
しかし、年明けから大手証券会社の2024年末の日経平均の予想株価を見ると、野村HDは3万8000円、SMBC日興証券が3万8500円、大和証券グループは3万9000円と予想しており、そろって年内にはバブル崩壊後の最高値を更新すると予想している。

新型NISAの導入や賃金上昇を伴うベースアップなどに期待し、日銀も「金利のある世界」に舵をとることを期待してのことだ。
春闘では、賃金がある程度上昇し、日銀が想定している実質賃金がプラスに転じる、もしくはそれに近づくことがあれば、日銀はゼロ金利からの解除に踏み切るはずだ。

さらに、その上の利上げまで行けるかどうかは今後の展開次第だが、日本の正常化は投資家には魅力的だ。そういう意味では、2024年は日本経済全体から見ても「転換」の年と言える。

1月の日本株高騰の背景には、製造業にとってはプラス要因になる円安が影響しているが、最近は1ドル=120円台といったドル安円高に戻るのではないか、と予測する人も増えている。その背景には日銀の「マイナス金利脱却→利上げ」というシナリオがあり、以前のような円高に戻るのではないかと言われている。筆者の円の見通しについては後述する。

2024年後半の日米株式の見通しを立てるうえで、最大のリスクは、米国大統領選挙に絡んだ政治リスクだ。

11月5日に大統領選挙を控える与党・民主党のバイデン大統領にとっては、この選挙はどうしても負けられないはずだ。バイデン大統領は、勝利確実なラインまで支持率を上げたいと考えているだろう。だが、野党・共和党のトランプ前大統領(現状の有力候補だが未定)との戦いを制することができるのか、現時点ではどうなるかわからない。共和党政権になれば、金融政策も大きく変わるかもしれないのだ。

PBR1倍割れの日本企業の改善は
今回の株高の要因の一つにPBR 1倍割れの解消がある。東証は23年3月にプライム市場とスタンダード市場の上場企業を対象に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請した。 PBR1倍割れの解消を求め、PBR向上の方針や取り組み、進捗などを開示するよう求めた。その結果、2023年には過去最高の992社が自己株買いを発表し、その額は10兆円に迫る。2024年にその数がさらに増えても不思議ではない。ホンダはわずか1年で発行済み株式の4%を買い戻すと発表した。これを毎年続ける企業もある。

投資家は、株価を上げるためにこのような手法を使っている企業を見ると、そのアドバンテージを享受するために株を買い、株価をさらに上げる。米有名投資家ウォーレン・バフェット氏もその1人で、日本の上位5つの商社の株式の約5%を購入した。

バフェット氏は報道陣に対し、「もし彼らが自己株を買い戻すのであれば、われわれは一般的にそれをプラスとみなす。株数が減っていくのは好ましいことだ」と語った。2023年に日本株を買った3分の1は多くの中国人を含むとされる外国人投資家だった。

買い戻しが殺到する背景には、日本取引所グループが要求していることの1つは、株価が低い企業が株価を上げるための手段を公表することだ。取引所はいわゆる株価純資産倍率(PBR)を1.0倍以上にすることを望んでいるが、プライム企業の半数で1.0倍を下回っている。

米国もPBR1倍割れ時代があった
一方、1月29日現在の日米のPBR(株価純資産倍率)を見ると、日経平均のPBRは1.40倍、米S&P500 のそれは458倍。この倍率では東証が指摘するまでもなく、米国に対する日本の資本効率の悪さが目立つ。しかし、実はその米国でもPBR1倍を割れていた時期があったのだ。1982年時点では、米国の上場企業の約6割の株価がPBR(株価純資産倍率)1倍割れの状態、つまり、今の日本と同じく、過半数の米国企業の時価総額が解散価値を下回っていたのだ。

この時期は有名な「株式の死」と言われた時期である。オイルショックをキッカケに1970年代の米株式市場は長く低迷し「株式の死」と呼ばれたた時期があった。米国はいわゆるスタグフレーション(景気が後退する中で、インフレが進行する経済状態)の時代。NYダウは1972年に史上初めて1000ドルを超えたが、その後は翌1973年の1052ドルまでしか上がらず、1974年には再び1000ドルを割れた。そこから一時はなんと半値近くまで下げ、再び1000ドルを回復するのは1982年だったのである。この10年間はアメリカにとって、まさに「株式の死」だった。

その後は順調に上昇したが、NYダウが2000ドルを超すのは1988年まで待たなければならなかった。2000ドルを超えたときにはウォール街は「ビヨンド2000」と囃してお祭り騒ぎとなった。

ここでお気づきと思うが、このころ日本はバブルの絶頂期で、日経平均はまさに4万円に向かっていた。そのときNYダウは2000ドルで喜んでいたことになる。

もちろん、構成銘柄がほとんど入れ替わっているので継続性に問題はあるが、NYダウは今や3万8467ドル(1月30日)と、約19倍超になっている。もっとも、日経平均も1974年の有名なオイルショック後の安値「3355」(円)から見ると、3万6000円は約10.7倍となる。

このところ日経平均33年ぶりの高値と囃されているが、重要な節目だったNYダウの「ビヨンド2000」に重なって見えた。市場では33年ぶり高値を見て、年内3万9000円と史上最高値を予想する専門家も増えた。
高値まで10%もないため、年内その可能性は高い。おそらく89年12月の3万8915円を更新してきたら、市場は超熱狂モードになることは間違いない。米株式市場の「ビヨンド2000」と言われた1988年、東京市場はまさしく熱狂のさなかでもあった。33年ぶり高値を更新してきた日本の株式市場はまだ熱狂のさ中とは言えないため、高値の余地は十分にあると思われる。

現時点では、2024年の日本株(日経平均株価)は、3万4000円から3万8000円までの比較的ボックス圏での値動きを想定している。
2024年は「たとえ株価が下振れてもじっと耐えられる資産運用」が大事になると思っている。プロでもパフォーマンスに大きく差がつく1年になるだろう。基本は資産保全(本当の分散投資)に徹するべきだと思う。おそらく熱狂するような市場環境はあまり期待できないのではないだろうか。

個人投資家の資金が安定して流入すれば息の長い強気相場
問題は、その後日経平均がどうなっていくかだろう。株価が急速に上昇して、個人投資家の多くは自分も乗り遅れまいとして慌てて後追いで投資をする人が多い。しかし、これまでのパターンで言うと、個人投資家が投資した後に、株価が急落して含み損を抱えてしまう、そんなパターンが少なくない。いわゆる「ハシゴを外される」パターンだ。

これら個人投資家の資金が安定的、継続的に流入してくれば、海外投資家のような短期的な資金に振り回されずに済む。ここ数年は、まだ海外投資家の資金が市場を乱高下させるかもしれないが、個人投資家の資金がある程度の投資金額になれば、市場は安定した上昇を示すはずだ。問題は、日銀が保有しているETFだが、市場を乱さない程度に売却するシナリオを実践すべきだろう。

いずれにしても、新型NISAは年金生活者の資産防衛法として活用できるし、年金を頼りにできない世代には貧しい老後にならないためにも早めのスタートが求められる。日本株が一直線に高騰することは望み薄だが、現在の不安定な世界では日本株が買いなのかもしれない。投資にはリスクはあるが、何もしないリスクがあることも認識すべきだろう。

トランプ政策はドル高に
外国為替市場では、トランプ氏が大統領に返り咲きを果たした場合に、予想される政策によって混乱が生じた場合に備え、ヘッジをかける傾向が強まっている。トランプ氏が共和党候補指名争いの初戦となるアイオワ州党員集会で圧勝して以降、向こう1年におけるユーロの変動に備えた保険に対する需要が高まり、世界の安全通貨としてドルを選好する方向に傾いている。

トランプ氏は再選した場合、中国に一律60%の関税を課すことを検討しているという報道があった。トランプ政権時代の貿易・経済政策で市場に衝撃が走った記憶が呼び起こされ、報道をきっかけに足元でこうした動きが広がっている。
米大統領選を背景に、ドルに対しては安全通貨としてのプレミアムが上昇する可能性が高く、これが今年対ユーロでドルを押し上げていると指摘するエコノミストが多い。ユーロは対ドルで現在の1ユーロ=1.08ドル前後から同1.05ドルに下落すると欧州の銀行の一部では予想しているそうだ。

これまではFOMC(連邦公開市場委員会)とECB(欧州中央銀行)による利下げ観測が世界的に金融市場を動かす主な要因として挙げられ、ECBがより早く、より大幅な利下げを行うとの見方がドルを押し上げてきた。だが、市場の関心はここにきて、先進国の金融政策より、トランプ氏が大統領に返り咲いた場合の外交・貿易政策に向かっており、これはドル高を薦めることになるだろう。

有事の円買いは不発に終わった
1月1日、能登半島地震が発生した。大方の専門家は東日本大震災時の「リスクオフの円高」を想定した人も多かったのだろう。しかし、「リスクオフの円高」は起きなかった。
東日本大震災の時の円高は、損保会社が支払いに備えて対外資産を崩すのではという、今風に言えばフェイクニュース?で円高になったのだ。当時は今と違って貿易黒字の累積が多額に上がっていたため、円買いが出てもおかしくはなかった。ところが10数年後の23年12月の貿易収支は9兆円の赤字となっている。能登半島地震のキッカケに、貿易黒字を背景にした「有事の円買い」はもうなくなったことを確信した。

22年から23年の歴史的な円安局面から24年の円ドル相場をみると、前述したように円安ドル高の反転を予想する向きが多いが、貿易赤字が増えている現在では、日米金利差より、長期的には円の構造的な問題が底辺にあり「円高の時代」より、むしろ「円安の歴史が始まる」のではないかと思っている。

今年はFRBの利下げ有無が焦点になるが、今や日本の貿易収支は基本的に赤字であり、円高は限定的かもしれない。貿易収支の構造変化について、2011年と比べて違いに気が付いた。従来は「モノ作り」で輸出を伸ばしてきたが、現在は無形資産の輸入が円ドル相場に影響しているのではないだろうか。

無形資産とはAIだろう。chatGPTの日本のユーザーは多く、無形資産の対外収支赤字は23年現在で約2兆円(おそらく対米)と言われている。予想では2030年には8兆円とも予想されており、国内でデジタルテクノロジーの開発を急速に進めないと、赤字は増加の一途をたどるだろう。こうした貿易赤字を背景に、日米金利差縮小による円高は限定的になるのだろう。おそらく135円近辺が24年のピークになるのではないだろうか。為替市場は日本の産業構造の変化を読み取っていると、能登半島地震をきっかけに確信した。

■レポート著者 プロフィール
氏名:太田光則
早稲田大学卒業後、ジュネーブ大学経済社会学部にてマクロ経済を専攻。
帰国後、和光証券(現みずほ証券)国際部入社。
スイス(ジュネーブ、チューリッヒ)、ロンドン、バーレーンにて一貫して海外の 機関投資家を担当。
現在、通信制大学にて「個人の資産運用」についての非常勤講師を務める。証券経済学会会員。


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