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ロジカルシンキング・問題解決法の進化(「分解」から「つながり(再構成)」へ)

この記事のPOINTS:
・ ものごとをバラバラに分解する手法は、問題解決法の一部に過ぎない。
・因果関係を無視して問題解決はできない。
・「分析」と「つながり」をベースに、創造的な解決策を作る必要がある。

「ロジックツリー」「MECE」「ファクトベース」などのキーワードは、問題解決の考え方に触れたことがある人なら、1度や2度は聞いたことがあるはず。ただ、これらを駆使した問題解決法で、本当に現場の問題は解決できるのでしょうか?

問題を解決するどころか、むしろ問題の原因が「上司」になって行き詰まったり、無理に解決しようとして、社内に新たな問題(対立)を生み出し、「自分には難しい」「やっぱり現場では使えない」と結論づけてしまった経験はないでしょうか?

このコラムでは、ロジカルシンキングの典型的な落とし穴に陥らないようにするコツ、そして問題解決思考(プロブレム・ソルビング)の新潮流について解説していきます。


良薬に潜む副作用

筆者は20代の頃に、世界的屈指の戦略コンサルティングファームの日本代表を努めた人物が創業したばかりの教育ベンチャーに飛び込んで、海外有名大学とのMBAプログラム立ち上げを担当し、その統括責任者を約11年務めました。(当然ながら)普段のメールでも、会議でも、ロジックツリーやピラミッドストラクチャをベースにした思考法がデフォルトとなっていました。

ぐちゃぐちゃになった物事を整理・分解して、解決の糸口を見つけ出していくロジカルシンキング、そしてそれをベースに解を導き出す問題解決法には、大きなメリットがあります。混沌とした問題のなかから、解決すべき論点(イシュー)を明確にし、ツリーやマトリックスなどのフレームワークでスッキリと図解できると、説得力も格段にアップします。

ただこの方法が万能かといえば、そんなことはなく、使い方にはコツがあります。薬でも、効能が強いほど、副作用を考えることが重要なように、ロジックツリー型の問題解決法にもメリット、デメリットがあり、それらをよく考えて使う必要があるのです。

ところが、問題解決&ロジカルシンキング研修、また書店に並ぶ問題解決本では、問題解決法のメリットを”魔法の杖”のごとく強調するものの、デメリット(リスク)を明確に示しているケースは案外少ないのです。

その弊害なのか、習ったばかりの問題解決策を現場で振り回したために、問題を解決するどころか、かえって悪化させてしまい、悶々と悩んでいる人によく出会います。(かつての私と同じです。)

「コンサルティング会社に頼んだら会社が悪化した」とか、「MBAが会社を潰す」といったたぐいの批判本が昔から出てくる背景も、根っこは一緒のところにあります。

つまり手法の特徴を十分に理解せずに使ったために、副作用のほうが大きくなってしまっているのです。

いつの間にか犯人探し


「ハンマーを持つ人にはすべてが釘に見える」

という言葉がありますが、まさに中途半端に問題解決法を習うと、ついついなんでも叩きたくなります。

一般的にビジネスの問題解決としてスタンダードなのは「分解型問題解決」で、単純化すると下記のステップを踏みます。

1)問題を細かく分解して、原因を突き止める
2)その原因を取り除いたり、修正する
3)問題が解決する
 

ロジックツリーの概念図。横の関係はMECEになっており、細かく分解することで原因を特定する

この方法がうまくいくには、いくつかの条件があるのですが、その最も重要なものが

「人や組織の問題解決に(安易に)使わない」

というものです。これを知らずに使っていると、いつの間にか、ロジカルに問題を解決しているつもりが「犯人探し」に陥ります。

「あなたが問題です」

などと指摘されて、嬉しい人などどこにもいません。ましてや、自分が問題になろうと思って、仕事をしている人もいません。だから「あなたが問題だ」などと指摘されて、素直に認める人もいないし、ロジカルに追い込んだりすると「そういうお前はどうなんだ」と反撃され、指摘された人との間に必ず対立が起こってしまうのです。

「犯人探し型問題解決」によって起こるもう一つの弊害が、意図的に問題を検証しない現象が起こることです。

例えばプロジェクトが失敗した場合、下手に分析すると、それを推進した「エラい人」の責任が明らかになってしまう場合があります。そうなれば、その問題分析をした人が逆にリスクを負う可能性が高くなります。また、そもそのプロジェクトが本当に失敗したのかという客観的な証明も難しいので、結果的に放置状態になり、うやむやになってしまうのです。

いづれの場合も、問題は解決することはありせんし、改善もできないので、同じ失敗が繰り返されることになります。

分解型問題解決のミッシング・ピース

物事を分解する問題解決法の別の弱点は、分解した要素間の因果関係を軽視、もしくは無視してしまいがちなことです。

我々を取り巻く世界は、常に原因と結果、つまり因果関係によって成り立っていることは自然科学では常識的なことであり、ビジネスや組織も例外ではありません。

言い方を変えれば、ある現象(問題)が、それ単独で直線的に起こっていることはあり得ないのです。それは常に何かの相互作用の「結果」だということを意味しています。

だから

分解して、原因を特定して、それを取り除く」

という単純なアプローチ(線形の問題解決)だけでは必ずしもワークしないし、悪化させることさえあるのです。

分解してガン細胞を見つけたところまでは良かったのに、そこにつながっている血管を無視して摘出した結果、連鎖的に体に悪影響が出て死に至るようなもので、問題全体を構造的に捉えられていないと、問題は解決できません。

問題解決でMECE&ツリーで要素間をバラし、分析する手法自体は間違っていないのですが、多くの場合それだけでは不十分であり、バラした要素がいったいどう影響しあい、つながっているのかを考察しなければ本質的問題、そして解決策はわからないです。

もし「誰か」が問題となっているなら、それは単に「結果」にすぎません。だから「あなたが犯人です」と指摘してその人を責めるのではなく、その人の行動の背景にある構造的な「原因」、つまり因果関係を丁寧に解きほぐさなければならないのです。

2つの要素(問題解決の両輪)

日本のビジネスシーンで、ロジカルシンキングや問題解決法が普及する大きなきっかけのひとつとなったのは、マッキンゼーの日本支社長を務めた大前研一『企業参謀』(1975)です。今でも古典的教科書として版を重ねるこの本は、渾然一体になった問題を、本質に基づいてバラバラに“分解”する重要性を繰り返し強調しています。

しかし、その影で見落とされがちなのが「分解」の後のステップとして示されている重要なポイントです。

それは、一度バラバラにした各要素が全体に与える影響を理解し、目的を考えて再び組み立てる(=再構成する)することです。

『企業参謀』に大幅加筆して英語で出版された『ストラテジック・マインド』(1984)では、この“再構成”の重要性を、バラバラに分解する以上に強調しています。先見性に富んだ意思決定をする条件として、

「事業環境の中に働いている各種の動因を、因果律に基づいて未来に延長し、最も実現性の高いシナリオに対する論理的仮説を、単純明快に表現すること」

としているのは、その一例です。

再構成の方法論はまだ発展途中だった

要素をバラバラにした後、目的や因果関係に基づいてシナリオを作るのが重要なのだ、というメッセージはクリアです。ただ「どうやって実現性の高いシナリオ(ストーリー)を作り上げるのか」という方法については、実は『企業参謀』でも『ストラテジック・マインド』でも、それほど詳しく解説されていません。

「分解する」と「再構成する」は、問題解決の両輪であり、両方そろって初めて本来の力を発揮するにもかかわらず、なぜ「分解」だけが注目されてしまったのでしょうか?

私は、その背景に大きく2つの理由があると思っています。

まず1つ目は、3Cや4P、PPMといった分解型のフレームワークだけでもインパクトがあったことです。つまり勘と気合や根性の世界から脱却するには、十分だったのです。

例えば、営業を要素分解すると

成果=営業の質×営業の量

という2つの要素に分解できます。やみくもに根性論で頑張るより、営業資料やトークの「質」を高める方がよいのか、そもそもの営業コンタクト数などの「量」を増やす方がよいのかを検討するには十分役立ちます。

ただ、この「質」と「量」は必ずしも独立した変数ではありません。

一つひとつの案件を丁寧にフォローして「質」を追えば、その分だけ量が犠牲になる可能性がありますし、「量」を追えば、一人ひとりの顧客対応にかけられる時間は少なくなってしまいます。つまり、お互いの変数がどう影響するのか十分に検討しないと、なかなか有効な戦略になりません。

別の例をあげてみます。ある商品の売り上げが上がらない原因を、4P( Product(製品)、Price(価格), Promotion(プロモーション)、Place(流通)で分解したとします。その上で「Price」が犯人だから値段を変えてしまおうという戦略を立てたとします。

ところが実際にはPriceとProductに密接に連動していますし、PlacementともPromotionとも影響しあっています。仮に問題をPriceだと決めて価格を下げると、当然ブランド価値にも影響し、売り場も、宣伝方法も連作的に変わってきます。

また時間軸も十分考慮する必要があります。

クラウドサービスでは定番ですが、初期に値段を下げたり、無料にしてまずはマーケットを拡大するというフリーミアム戦略があります。ところが、単に目先の利益を稼ごうをして価格を下げると、短期的には利益がアップしたように見えて、長期的にはブランド価値を毀損することもあります。

つまり実際にはPrice“だけ”変えるというわけにはいかないのです。

これらの要素のつながりを無視し、たまたま見つけた「犯人」(問題)に注目し、「部分最適」な解決策を作ってしまうと、短期的には上手くいくように見えても、後になって想定外の副作用のほうが大きくなってしまうようなことも起こってしまう。つまり一つの問題を解決したつもりで、2つの問題を新たに生み出すような結果に陥ってしまうのです。

問題分解後の再構成が注目されなかったもう一つの理由は、「再構成」が、まだまだ直感や非線形思考といった個人のセンスに基づくアートな世界にあったことです。つまり十分に体系化されていなかったために、理解が難しく、相対的な注目度が低くなってしまったのです。

つなげてシンセサイズ(再構成)する

問題を「つながり」(因果関係)によって捉える視点が、ビジネスにおいて注目されはじめたのは、比較的近年になってからです。その先駆けが、自然界をさまざまな要素が影響し合うシステムとして捉える研究(システムダイナミクス)を、組織論に応用した、MIT教授ピーター・センゲの著書『最強組織の法則』(1995)です。

日本でも、2010年に発売された楠木建『ストーリーとしての経営戦略』がヒットしましたが、この本は因果関係の連鎖を経営戦略の視点から分析した一冊となっており、タイトルとなっている「ストーリー」は、まさに因果関係を示しています。

またマッキンゼーで日本支社長を務めた横山禎徳氏も、著書『循環思考』(2012)で、「プロフィット・ツリーでいくら細かく要素分解していっても因果関係を示してくれることはない」と喝破しています。

『企業参謀』から30年以上を経て、イッシューツリーを駆使してきた世界を代表するコンサルファーム元代表からの出てきた言葉は、味わい深いものがあります。横山氏は、その解決策としてつながりを強調した”循環思考”を提唱していますが、同じように現場経験を積んだコンサル出身者が、線形の問題解決に限界を感じ、独自の視点で経験則で補っているパターンはよくあります。

そして、それら多くは「直感」や「右脳思考」と説明されることもありますが、その中心的コンセプトとなっているのは複雑系です。

マッキンゼーやBCGでシニアアドバイザーとして活躍した名和高司氏が、”(既存の)コンサルを超える”最新手法の一つとして「システム思考」を紹介しているのはその一例といえるでしょう。

名和氏はその後の著書「パーパス経営」(2021)、「10X思考」(2023)でも、システム思考の重要性について繰り返し指摘しています。

私が薫陶を受けた大前研一氏も、2005年頃からロジカルシンキングと同じぐらい社内で強調されていたのが、創造的な解決策を生み出していく「構想力」でした。

実際に一緒に仕事をさせてもらって「すごい」と思ったのも、練習を積めば、誰でもある程度同じような結果が出せるロジカルシンキングより、一見関係ないような知識をつなげて、全く新しい視点を作り出す編集力ともいうべき構想する力でした。(逆に言えば、基本的なロジカルシンキングは、できて当たり前ということですが。)

ゼロからイチを想像する「構想力」とは、まさにバラバラに存在する事象や経験をつなげて統合(シンセサイズ)していく、まさに再構成の思考に他なりません。

現代は、まさにイノベーションを生み出していく非線形思考の領域が価値を生む時代ですが、この領域はまだ完全にはサイエンスにはなっていません。

ただ、複雑な事象を因果関係で読み解き、そして再度組み立てていく手法はかなり言語化されてきており、直感や勘としか表現できなかった領域が確実に狭まってきているのは確かでしょう。

戦略と実行

問題解決において、分解以上に重要なのは、間違いなく「実行」です。
何をすれば、何が起こり、それがどんな結果を引き起こすのか、といった組織内・外での「原因―結果」のつながりを緻密に考察した具体的手段(How)がなければ、立派でかっこいい戦略(What)は、絵に描いた餅に過ぎないからです。また場合によっては状況を悪化させるリスクもはらんでいます。

問題解決者は、問題をバラバラにするだけの「分析屋」でも、アイデアを出すだけの「評論家」でもなく、「再構成」を通じて実行し、成果を出す「実務者」でなくてはならないのです。そのためには、つながりを無視することはできません。

余談ですが、よく「数千万円のFEEをコンサル会社に払ったら、分厚いレポートだか残して去っていった」という批判があります。これは半分当たっていて、半分外れています。そもそもの問題解決が、因果関係を無視していては話にならないのですが、伝統的なコンサルは、純粋にWhatを求められる存在だったのです。

つまり、実行(How)は「現場の人の方がよく知っているでしょ」というスタンスでOKだったし、クライアント側も原因さえわかれば、後は自分たちでできると考え、それを求めたのです。そのことは前述の名和高司氏の本の中に象徴的な言葉で書かれています。

「HOWの細部については、クライアントの現場のほうがよくわかっているので、あまり細かいことには立ち入らず、現場に任せることだ。」

ただ「言うは易く行うは難し」です。

組織を変革するHowには因果関係、そしてそれをベースにした「組織の力学」(社内政治)を読み解き、実際に動かすマネジメント力(DeepSkill)が要求されます。

というのは、立派な戦略(正論)を作ったがいいが、抵抗にあって思ったような結果が出せない会社、現場が反発してお蔵入りになるケースが圧倒的に多いからです。

結果として、コンサル側の言い分としては「実行まで頼まれていない」となりますし、クライアントの言い分としては「役に立たない分厚いレポートを残して去っていった」となるのです。

いずれにしても、誰かが悪いのではなく、つながりを重視して実行する重要性が軽視されていたところに問題があるのです。

そして経験を積んだ”できる人”は、そこに「違和感」を感じ、因果のつながりを個人的な直感や勘、つまりアートの世界で補ってきたのが現実でしょう。

NEXT STEP

最後に筆者の知る範囲で因果関係に注目するいくつかの優れた情報ソースをご紹介します。

まず手軽なのは、システム思考(思考プロセス)系のビジネス書です。

『ザ・ゴール 思考プロセス コミック版』は、主人公がシステム思考を駆使して難問に挑戦するストーリーをマンガ化しており、手軽に読めるのでおすすめです。

前出のセンゲの著書『学習する組織』(2011)や、その関連図書、岸良裕司『全体最適の問題解決入門』(2008)、『問いの力』(2023)は一読に値します。

「システム思考の概念的な重要性はわかったが、一体どうやってトレーニングすればいいんだ」とお考えの方には、「TOCfEトレーニングプログラム」なども提供されています。

もともと

「ロジカルである(論理的である)」

とは、「筋道を立てて考えること」=「つながりを考えること」であって、単にバラバラに分解することではありません。繋げなければ意味がないのです。

その意味では、つながりをベースにした問題解決手法は、日本でも多くの現場で暗黙知的に脈々と使われてきました。トヨタ式問題解決として有名な「なぜなぜ5回」も、起こった結果から原因をあぶり出していくという観点で、俯瞰的に見れば因果関係に着目した問題解決手法そのものです。

要素還元主義は西欧的、つながり思考は東洋的、ロジカルシンキングは左脳的、発想法は右脳的などとよく言われます。その真偽はともかく、両者は二律背反の関係ではなく、融合することで真価を発揮します。

過去に問題解決法で挫折してしまった人、そしてこれから問題解決を志すなら、「分解」一辺倒でなく、「つながり」思考の重要性を再認識し、二刀流で勝負していくことが成功のキーになるはずです。

*本稿は「東レ経営センサー  2019.5」に寄稿したコラムに大幅に加筆訂正したものです。


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