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カラスが詠った日の日記

夜中、眠りかけたタイミングで2度起こされた。
次男が部屋やトイレを出入りをするときのドアの音や、電子レンジを使う音で。眠りかけを起こされると、イラっとする。神経が興奮してしまう。

まったくもう、と思いながらkindkeで吉本隆明著『【合本版】定本 言語にとって美とはなにか』の続きを読む。むずかしくてすぐ寝落ちするだろうと思っていたが、逆に「これはどういうことを言っているのだろう?」と考えてしまい、余計目が覚めてしまった。

先日読んだ平田オリザさんの本でも、この本とまったく同じ言語学者、時枝誠記氏の説を引用していたことを思い出し、オリザさんの本を見返して「ああそういうことか」とやっと腑に落ちた。哲学者と劇作家。説明の違いが興味深い。私の理解レベルが低いだけか。

このまま読んでると朝にはぐったりしてしまうだろうと思い、別の本に変えた。『図解 ギリシア神話』。ゼウスの女好きっぷりと、正妻ヘラの嫉妬心の凄さ、ゼウスにかわいがられたアテナのアニキっぷりの3項目ぐらいを読んだら、自然に眠気の波がやってきた。


目が覚めると静かだった。
スマホを見る。6:08。まだちょっと眠い。
もぞもぞ寝返りをうちながら、30分近くスマホでnoteを読んだり、ニュースを見たり。このまま本を読めば二度寝できそうだけど、ひとまず起きるか。

カーテンを開け、窓を開ける。空気に少し濁りがある。
見える限り一番遠くに目をやると、外環道の上、ブルーグレーの雲間から、陽の光らしき明るみが見える。それ以外はどちらに目をやっても、グレーの雲がどてっと空を覆っている。

トイレに行ったあと、リビングのカーテンを開ける。
窓を開けると、カーテンがぶわっと部屋側に膨らんだ。

体が重い。背中が痛い。背骨の左側の筋がつっぱっている。
夜中の読書が原因か。寝ながら考え続けたのか。

またベッドにごろんと寝ころびたくなったが、そうすると1日中だるくなりそうだ。ひとまず体を目覚めさせるため、散歩に行くことにする。

着替えて、スマホをジーンズの後ろポケットに入れ、マスクをして玄関に向かう。スニーカーを履くのが面倒くさい。黒のスエードのスリッポンを履く。

玄関を開け、外にでると、少し湿気を感じる。
左に見える6棟のテラスハウス、左から2番目の玄関灯がついたままだ。
振り返る。うちはもうついていない。目の前のお宅もついていない。

玄関まわりの砂利には、雑草が日に日に丈を伸ばしてきている。毎日目をつぶって通り過ぎていたが、そろそろほんとに手入れをしないと、草をかき分けて出入りしなくてはいけなくなる。家の人、誰かやってくんないかな。

階段を上って、道路に出る。うちは斜面に立っているので、グラウンドレベルが2階、玄関は階段を下りたところにある。

階段を上ったところに「止まれ」の赤い看板が見える。あれこんなのあったっけ?毎日通るのに、注意して見たことがなかった。
三角の下側が、しゃくれたように曲がっている。上側の2つの角も、犬の耳のように、折れ曲がっている。みつかるEテレの「ミッツカールくん」みたいだな。

自転車置き場の横の竹に目をやる。成長期の竹は1日で大きく変貌する。今朝は皮が剥けかかっていて、深い、濡れたような緑がのぞいていた。こういう色なんて言うんだっけ?ビリジアン?

風よけの木々が、時折強くなる風に大きく揺れる。
さわさわという音が、ざわんざわんに変わる。

今日は東家のあるお寺にいく日だが、文章筋トレがある。
これまで文章筋トレがある日の朝は、たまたま神社に行っていたから、今日も神社にしておこう。何かあるかもしれない。坂を下りて、神社に向かう。

以前から通る度に気になっていたマンションの解体現場は、すっかりマンションの骨組みごと無くなっていた。砕かれたコンクリートの山と、土の山が2つ、できていた。その山に寄り添うようにして、ショベルカーが2台、片腕がとれたオマールえびのような姿でとめられていた。

今度は少し坂を上る。いつもの公園が近づいてくる。この公園でよく黒猫に遭遇する。今日はいるかな? 前回は黒猫の代わりに、カラスが近くによってきた。さて、今日はどうか。

公園に近づいても、猫もカラスも、何の生き物の気配もない。目に入るのは、公園の柵の横に停車してある黒い軽自動車だけ。あの車、最近このへんによく停まっているな。黒いTANTO。黒つながりでよしとするか。

いつもの道じゃなく、そのTANTOが止まっているほうの道に進む。ちょっと遠回りになるけど、それがどうした。近づくとナンバーが「44-44」だ。これ、選んでこのナンバーにしたんだろうな。誰かに「どうして?」と訊かれたら、いつもなんて答えてるんだろう?


違う道を進むと、違う出会いがある。
道の左側に、畑があった。長ねぎの花のネギ坊主が、まんまるのたわしのようにたくさん咲いていた。スナップエンドウは、あっちむきこっちむきにバラバラとたくさんぶら下がっている。かぼちゃの花は、その実の色のように鮮やかな、大きな黄色の花を咲かせていた。他にも、菜の花、にんじん、キャベツ。あとは種類のわからない何かの野菜。売るほどあるな、と思ったけど、たぶん売るんだろう。そりゃそうか。

神社の方に向かって道を曲がると、ものすごい錆びた自転車が目に入った。銀色の部分が全部、コーヒーをこぼして乾いた紙みたいな、色褪せた茶色の濃淡が混じった色になっている。このあたりにとまっている自転車の錆びを、一手に引き受けたような、そんな気合いの入った錆び方だ。しかもそれが、柵に、二重のワイヤー錠でつながれている。二重に、つながれている・・・。


神社の横のお宅は、今日もバラがあでやかだ。
なかでも、これが女王様。他のバラよりひと際大きく、なまめかしく花開いていた。

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神社に着いたときには、すでに2人、人がいた。
白いTシャツにぼてっとした短パン姿のおじさん。
そして、いつも境内を掃き清めてくれているおばさんだ。
おばさんはいつも、紺色の電動自転車でやってきて、落ち葉や枯れ葉などを竹ぼうきで掃いてくれている。

短パンのおじさんがちょうど本堂の前にいたので、少し時間を稼ぐために、参道の横にある紫陽花のつぼみの開き具合を確認した。ティアラのように外側から開いていくんだな。知らなかったな。

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短パンのおじさんはすぐ帰っていったが、今度はミニチュアダックスを連れたおばさんが参道を歩いてきて、紫陽花を見ていた私の横を通り過ぎていった。

その人は足を引きずっていて、歩くのがゆっくりなので、私は「おはようございます」と挨拶をして追い越し、先にお参りをさせてもらおうとした。すると、ほうきのおばさんと、犬をつれたおばさんの立ち話が始まった。ちょっと安心して本堂に向かった。

本堂の手前の石段を登ろうとしたとき、左側にある家の、屋根のテレビアンテナに、カラスが飛んできて、とまった。風見鶏のように(風見烏か)、鳥居の方を向いている。

私はあまりカラスを気にしていないふりをした。
そしていつも通りのお参りを済ませた。

くるりと体の向きを変え、石段を下りて、カラスを眺めた。
相変わらず、風見烏を気取っている。
御神木の方から、小鳥の鳴き声が聞こえてきた。

するとカラスが、全身をゆらしながら「あーあーあーあーあー」と5回鳴いた。小鳥に答えているみたいだった。
しばらくそのまま眺めていると、また大きく体が揺れ始めた。
「あーあーあーあーあーあーあー」と、今度は7回聞こえてきた。

次に5回が来たら、完璧じゃないか。
しばらく待ってみたが、鳴き声は聞こえてこなかった。
静かな風見烏に戻っていた。

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いつものように本堂の周りをぐるりと回った。
その間にカラスはいなくなっていた。
ほうきのおばさんは、サリーッサリーッと、掃き続けている。
軽く頭を下げて横を通り過ぎた。参道を戻りながら、「あと5回鳴いてくれたらな」とまたカラスのことを思い出した。

その瞬間、鳥居の向こうの空から、黒い姿が大きく半円を描くように飛んできた。「あーあーあーあーあー」と正確に5回、飛びながら鳴いたあと、どこかの木にとまった。

できすぎだろ。

あまりにもおかしくて、声をあげて笑ってしまった。
カラスがとまっている木の方をしばらく眺めたが、それ以降は音沙汰がなかった。

今日も書くネタができたよ、と思いながらコンビニに向かった。
歩いているとマスクの中が汗ばんでくる。

セブンイレブンの店内に入り、昨日ハヤシライス作ろうとして赤ワインがなくてカレーにしたことを思い出した。赤ワインを買っておこう。半分くらい今日の夜飲んで、半分は料理用に取っておけばいい。

料理用だけだったら一番安いのを買うのだが、ある程度飲めるものがいいかな?と値段と品種を見比べて、うーんと考える。
「ハンバーグやミートソースに合う」と書かれているテンプラニーリョにした。よし、じゃあ今日は「金のハンバーグ」にしよう。

冷蔵コーナーに行くと、「金のハンバーグ」も「金のビーフシチュー」もなかった。「金のビーフカレー」だけ、2列にびっしり並んでいた。

ビーフカレー、昨日作りましたから(薄切り肉だけど)
しかも、ゴールデンカレーですから(カレールーだけど)

出鼻をくじかれたように感じつつ、セブンプレミアムの和風ハンバーグと大根サラダ、冷凍のマカロニグラタンをかごに入れ、レジに向かった。nanacoをピッとしたら、レジの女の人が、カウンターの下をごそごそしだした。どうしたのかな?と思ったら、しっかりしたつくりのワイン用の紙袋を取り出し、ワインを入れてくれていた。

いやいや、これ、500円のワインですから。
と思いつつ、その好意をありがたく受け取る。


帰宅して、いつもの朝のルーティンを始めようとしたら、なんかPCの動きが重い。再起動をするが、何かのアプリのせいで再起動も遅い。

じゃあ先に、とデイリーオラクルのタロットカードを引く。
最近は1枚じゃなく、「今日はどんな日?」と「アドバイス」で2枚引いている。今日は「ソード2逆」と「ペンタクル2」。2のカードが2枚。絵柄を見ながら、どんなメッセージを受け取れるかイメージをする。「宙ぶらりんだったことを、上手くやりくりする」とメモに書く。

2つのバランスをとる、と考えると今日に関連するだけでもいろいろ思い浮かぶ。
オンラインとオフライン。
やらなくてはいけないことと、やりたいこと。
仕事と家事。
読むと書く。
そういったことを、モーニングページに書いた。

PCはまだぐるぐるマークが回っているので、待ちながらセブンで買ってきたおにぎりを食べる。One DriveとCreative Cloudあたりが起動を遅くしているんじゃないかとあやしんでいるのだが、今のところ何もしていない。起動が早いMacbookもあるけど、どうしても慣れたWindowsを使ってしまう。


メールをチェックすると、7月に延期したワークショップへの申し込みがあった。申込みメールを受け取ることの、なんと久しぶりなことよ。オンラインイベントの主催をしていないからなのだけれど。

昨晩依頼を受けたメールの転送設定を済ませて、連絡。
ルーティンのレトロスペクティブとデイリースタンドアップも済ませ、ここまでをevernoteに打ち込もうとしたら、ざーっという音が聞こえてきた。雨だ。粒が大きく、屋根に当たる音がバチバチ言っている。あわてて部屋の窓を閉める。

キッチンからは、食器がぶつかる音が聞こえてくる。長男が洋楽をかけて、一緒に歌いながら洗い物をしている。コーヒー飲みたいんだけどな・・・。もう少し待つか。

そういえば、メッセンジャーのやり取りの中で、免疫力を下げないためにビタミンDがいいと教えてもらった。キッチンの長男に訊きに行った。彼は3食自炊の、筋トレ&栄養マニアだ。

「免疫UPにはビタミンDがいいらしいけど、サプリとか飲んでる?」

食器を拭きながら長男は、

「おれはマルチビタミン飲んでる。あと卵にビタミンDたくさん入ってるよ。だから、卵食っときゃ、まじ最強なんだよ」

と熱弁していた。
そうか、卵か。と思いながらまた部屋に戻る。

キーボードを打ち始めると、今度は少し伸びた爪があたる感触が気になった。気になり始めるとそのことばかり気になる。爪、爪、爪。

爪を切ろうと思ってリビングに行くと、開けっぱなしになっていたベランダの窓から、雨が吹き込んでいた。やば。雑巾で、濡れた床や桟を拭く。

ソファーに座って、爪を切っていると、長男がポータブルスピーカーとともに、自分の部屋に戻っていった。段々と音が遠ざかっていった。

キッチンに、冷水筒が2つ、空になったまま置いてあった。あ、コーヒーの前にお茶だな。0.8Lの電気ケトルでお湯を沸かす。2Lの水筒にルイボスティーのティーバッグを3個、1Lの水筒に緑茶のティーバックを2個入れる。

コーヒーも多めに落としておこう。
食器棚からドリップポットを取り出す。

お湯が沸くまでの間に、テーブルの上に置きっ放しだったマグカップやコップ(次男が使ったものを、長男は洗わない)を洗う。冷蔵庫で何か使い切らなくちゃいけないものはないか、チェックする。

野菜室に、ほうれん草が3束、小松菜が2束ある。なんでこんなに?一番傷んでそうなほうれん草を取り出す。フライパンにお湯を沸かす。一房ずつ丁寧に洗いながら、傷んでいる部分を取り除く。まな板の上でゆでる前に切ってしまう。

フライパンのお湯が沸いたら、切ったほうれん草をさっとゆでて、ざるにあげる。冷水でさっとしめて、器に移し、めんつゆとすりごまであえる。ラップをして、冷蔵庫にいれる。誰か食べるでしょ。

沸いた電気ケトルのお湯を冷水筒に移し、また水を入れて沸かす。やかんがないので、毎回これを繰り返している。そうやって、5回、電気ケトルでお湯を沸かし、お茶とドリップコーヒーをつくった。


部屋に戻り、昨日途中まで読みかけた、中上健次の『岬』の続きを読む。これは、最初読んだとき、人間関係の相関がわかりにくくて、登場人物をノートにメモしながら読んだ。2回目は、全部わかっているから、描写や心情に注目しながら読める。文章が短く、太鼓を聞いているように進んでいく。時に連打され、時に強く打たれる。

文芸批評家の柄谷行人は、中上健次に、フォークナーを読むといいと勧めたそうだ。それがどういう意味か?フォークナーの、まずは短編集を、Amazonで注文する。


あっという間にお昼になっていた。昨日の残りのカレーを食べよう。めんつゆを入れて、カレーうどんにしようと思っていたが、食パンが1枚余っていたので、パンをカレーにつけながら食べた。長男がソファーで『銀魂』を見ていたので、一緒に見る。福田組の映画は、とにかく全力でふざけているのが、何とも面白い。


そろそろ文章筋トレが始まる時間だ。
今日は全部で6人。過去2回が少なかったので、多い、と感じる。10分のウォーミングアップでは、今朝の出来事を書いた。上に書いたカラスのこと。

60分では、大学時代のことを書いた。
ただ書くだけじゃなく、ひとつの話として完成させたいという欲が出てきた。ある程度記憶の中の風景を言語化できたし、なにより、ある1つの文をひねり出せたことで、満足した。自己満足だけど。1つの文が、その文章全体の価値を高めるのだとしたら、その1文には、どれだけ時間をかけてもいいはずだ。

少し時間が延びたものの、こってりした文章筋トレの時間は終了。
集中したときは、何かガリガリバリバリした、歯ごたえがあるものを食べたくなる。朝、セブンで買ってきた「カライーカ」をバリバリ食べながら、あらためて文章を読み直す。まあ、これはこれでいいじゃないか。

そんなこんなで、この日記に突入。
今日は指がハイになっているのか、長くなった。ここまですごい文字数だ。6500字。誰も読まないんじゃないか。

まあいいか。この後は、テンプラニーリョを飲みながら、少しぼけーっとしよう。関係ないけど「リーニョ」なのか、「ニーリョ」なのかいっつも迷っちゃうんですよね。

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