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詩小説 『カメレオンが書く時間』 #シロクマ文芸部【線】


 こちらのつづきとなっています。



 書く時間
 俺は緑色のアプリをタップする。

 
 『先に着いたから待ってる』

 昨日の俺が約束した待ち合わせ場所に
 早めに到着して待っていただけなのに

 後から来た彼女がなぜか
 不機嫌な表情をしていることに
 俺は戸惑う。

 「なんかあった?」
 「……別に」

 じゃあ なんでご機嫌斜めなの?
 と思ってもそんなことは言えなくて

 「今日も暑いね」

 と 無難なトークを持ちかける。

 「……そうだね」

 それでもなお ぼんやりとしている彼女を
 あまり刺激しないよう 最近あったことを
 ぽつりぽつりと話した。

 予約していたバルに着く頃には
 彼女もいつもと変わらない顔をしていた。

 理由はわからなくとも
 穏やかでいてくれるのが一番いい。

 今となっては見慣れたハイペースで
 ワインを呑む彼女が口を開く。

 「足立あだちくんってさ、」

 その声のトーンから
 俺は嫌な空気を感じとる。
 
 どうかその予感が当たりませんように
 と ざわめく心が必死に叫ぶ。

 「本当は私のことそんなに
  好きじゃないでしょ?」

 ああ……まただ。
 またいつものパターンだ。

 きっとまた向こうから断られる。
 そういう流れができている。

 だって俺は
 誰か一人だけを特別に想えるほどの
 情熱を持っていないことを知っている。

 知っているくせに誰かからの好意を
 振り切る勇気がないだけだ。

 現実を思い知らされるのが嫌だから

 やっぱり俺は誰のことも
 好きになれない人間なんだって、

 「でも気にしないでいいよ」
 「……え?」

 目の前の彼女が発した言葉に
 俺の理解が追いつかない。

 「そういうの全部わかった上で
  足立くんに告白したから」

 だって私が教育係だったし
 そのくらい見てたらわかるよ

 と 彼女……天野あまの先輩は続ける。

 「足立くんって究極の博愛主義者だよね」
 「……そんなにいいヤツじゃないっすよ」

 現に俺は先輩を傷つけている。


 「自分から転勤を申し出たんでしょ?
  だから私は転勤しちゃう前に伝えたの。
  自分の思いをね」


 付き合ったら何か変わるかなって
 ちょっと期待しちゃったけど
 想像以上に根深そうだねえ

 と 先輩は苦笑いする。

 「たぶんリセット症候群なんすよ、俺」

 
 少しでも相手の気持ちが和らぐなら
 と 必死で言葉を探す。

 
 俺は同じ場所に居続けることで
 自分のことを深く知られるのが
 どうしようもなく苦手だ。

 だから、その前に逃げてしまう。

 それはそれで自分のことを知る人が
 さらに増え苦しくもなるのだが……

 そのくせ人の好意を無下にできるほど
 薄情にもなりきれず 中途半端に
 受け入れてしまう自分が嫌になる。

 自分の存在を求められることで
 安心している小賢しさに、
 

 「ね、なんでそうなったのかも
  本当はわかってるんでしょ?」
 「……先輩はほんと鋭いっすね」


 親の仕事の都合で転勤ばかりして
 その度に新しい場所に馴染もうとして
 仲良くなった頃には別れが来る。

 そういう環境で育つうちに
 せめて誰かの記憶の中でいいヤツとして
 残れたらいいやと思うようになった。

 ただそういうあざとさが
 人に好かれるか 気持ち悪がられるか
 どっちに転ぶかはわからないけど

 どうせいつか
 その場から俺はいなくなるのだから
 どう思われたっていい、はずなのに、

 「なるほどねぇ……よし!
  私がとことん付き合ってあげる!
  あ、お酒のことじゃなくてね」

 という言葉に 俺はぽかんとする。

 「足立くんのこと完全に理解できるかは
  わかんないけどさ、君が点なら
  私が線になって繋いであげるよ。
  うざいかもしんないけど覚悟しといて」


 なんかこんな曲あったよね~と
 ガハハと豪快に笑う彼女を見て
 俺は勘違いしていたのかもしれない
 と今さら思い至る。

 彼女も彼女で俺に嫌われないように
 取り繕っていたところが
 あったのかもしれない と。

 「このあと炉端焼きとかどうっすか?」
 「お、いいねえ。
  てかもうタメ口に戻してよ」
 「あ、うん」

 この先も転々としてしまう俺を
 きっとこの人は悠々と
 追いかけてくるんだろう。

 点の俺と 線の彼女が
 書く時間はまだ始まったばかりだ。


 なんとか書けました~👏✨

 裏テーマは心の鍵を開くことだったのですが、書いているうちに自然と点と線が繋がった感じです。あ~良かった🙆良かった🙆

みなさんの点と線も
繋がったならいいのにな🌠


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