短編小説 『ガラスの手』 #シロクマ文芸部
「ガラスの手みたいだね」
と、よく言われる。それは血管が透けて見えるほど私の手の皮膚が薄いから? それとも冷え性でいつも手が冷たいから?
「何にもしてないから、手が荒れないのね」
と、言われたことも何度かある。
そこに秘められた「手荒れするような作業をしないから、いつまでも綺麗な手でいられるのね」といった嫌みを感じ取れないほど私は鈍感じゃない。
私は皿洗いや洗濯物の手洗い、トイレや風呂掃除、水仕事だって嫌いじゃない。手袋をはめずに洗剤に触れても手荒れしないほど、人より手が丈夫なだけだ。
何もしないから綺麗な手でいられるわけじゃない。むしろ何をしても手が汚れない、そういう手を持って生まれただけのこと。
私は唯一持っている白手袋を丁寧にはめ、気持ち良さそうに鼾をかいている男の首に両手を添え、親指にクッと力を入れる。
一瞬、カッと目を見開くが、それも数分のこと。慣れれば意外と簡単に逝かせられる。
開いた目を指先でそっと閉じる。
だから言ったのに。
私は水仕事が嫌いじゃないって。
なのに何で結婚を断ったからって、別の子を指名するかな。それも私より醜い子を。
断っても一番私を大切にしてくれる人だって信じてたのに。私のガラスの手を褒めてくれたのに、残念な人ね。
私の手はガラスの手。
何をしても汚れない。
だけど、気をつけてね。
ガラスの手はいつでも簡単に
凶器に変えられるってことを。
たまには、ブラックな作品もいかが?
(さすがに人の手では殺められなかったので……)
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