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喫煙所にて。

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煙草1本が燃え尽きてしまう時間のなかで書いた、文章や物語をまとめておく、そんな場所。 かなり前に書いておいたものから、これから書いていくものまで。
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当たり前じゃなくなるという、当たり前のこと。

今日、僕の住んでいるところはしばらくの間結構な強さで雨が降っていた。調べてみたわけではないから、もしかしたらどこも同じようなものだったのかもしれないけれど。

小さな子どもの頃は、強い雨に濡れることを何も思っていなかったような気がする。むしろ待ち侘びていたかのように降る雨を楽しんでいたようにすら思う。
でも、もうそんなことはできなくなってしまった。どうやったらあんまり濡れないかな、なんてことを考え

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ことば

「女の子の“ほうっておいて”とか、“さみしくない”は、その反対なんだよ」
2人しかいない部室で、先輩は僕に向けてそう言った。
「そんなこと言われたって、理解しろっていう方が無理ですよ。最初からそう言えって話でしょ」
きみはほんとうにロマンのかけらもないねぇ、とそう言いながら笑う顔は、なんというか、とても魅力的だ。
「先輩の笑顔って素敵ですよね。僕、あなたが笑ってるところを見るの好きですよ」
えっ、

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星と煙

駄目だったら全然大丈夫だから、といったような、明言されるよりも圧倒的な強制力を持つ言葉によってバイトに明け暮れる日々を送る中で、煙草に火をつける時間はより一層輝くものだと改めて思った。

なにもない日々を、なにもなく送る。目に見えて自分のものになるものは何一つないけれど、目に見えない疲れだけは確実に自分のものになっていく。ネガティブなものばかり簡単に手に入るもんだな、とそんなことを考えながら煙草を

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smoking stalking…

日が昇るのと同時に、人は1日を始めるのだそうだ。それならば、火が燃え上がっていくタバコは僕の1日の始まりと言ってもいいだろう。

空想に囚われるようになったのはいつからだろうか。1日の始まりをも決められる僕に、その始まりを思い出す力はない。僕は読書を好む。人並みに、いやそれ以上に本というものに触れてきた自負はある。10数年文字に触れてきた人間である僕は、先日思いがけない気づきに出会った。恥ずかしい

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喫煙所にて。

青く染まった空は寝静まって、黒の時間が始まる二十三時。仕事から帰る疲れたその足は、必定であったかのように歩を進める。……半ばルーティンと化した動作で煙草を一本取り出して、火をつける。一日は、いまここから始まる。

 自然によって生み出される光はすでに隠れているのに、僕が暮らす街はまだまだ寝る気はないらしい。人工的に作り照らされるライトは、変わらず光り続けている。

 喫煙所から途切れ途切れの大通り

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