book-go-around #021 東京都:針本陽一朗(40代)
book-go-aroundは本を買ってる人に本を買うことや本をコレクションすることの楽しみを語ってもらうflotsambooksのインタビュー記事です。
今度あなたにもインタビューさせてください。
#021 東京都:針本陽一朗(40代)
10年くらい前に、勤務先で商品撮影の担当になったことから写真に関わるようになりました。それまで写真にあまり興味はなくて、フィルムはおろかデジカメも使ったこともない素人でした。慌てて仕事に活かそうと、雑誌やハウツー本とか買いあさりながら独学して、自分でもデジカメを買って使ってみたりして。でもなんかしっくりこない。
しばらくして、あ、こりゃダメだ、フイルムから始めないとって思ったんです。中古のフィルムカメラを手に入れて、アナログ中心の写真ワークショップに通ってたりして、まず写真を撮ることから始まりました。
写真を撮って、現像して、暗室で焼いてが面白くなるにつれ、興味の幅が広がってきて、徐々に写真展を見に行ったり、写真集も見るようになりました。そのあたりからですね、写真集の世界に足を踏み入れたのは。
それこそ、知人からflotsam booksさんを教えてもらって通販で買ってみて、ポッアップストアとかでいろいろ見せてもらって、少しずつ深みにはまっていきました。flotsam books 様様です(笑)
基準ってほどでもないですが、第一印象でいいなって思ったら買うことが多いです。
もちろん予算的に厳しい場合もありますけど。いつか買おうと思ってても、写真集は部数が少ないことが多くて手遅れになる可能性があるので。特に古本は一期一会ですから。
今のところジンクスはありません。
最近のものだと、グイド・グイディの『PER STRADA(MACK)』と『IN SARDEGNA(MACK)』の2つが気に入っています。
グイド・グイディは何度見ても見飽きない。同じような場所を飽きもせず撮影して、意識的に似た写真を繰り返す組み方が多い写真家で、特にステレオグラムみたいな見開きページに妙味があります。
同じように見えて、季節や日にち、時間帯、カメラの向きなんかで微妙に違ったりするので、見るたびに発見があって。実際グイド・グイディがどう考えてるかは知らないですけど、飽きもせず、懲りもせず、本人にしかわからないような、ちょっとした変化を本人が一番楽しんでいるんだろうなって写真を見てると思えるんです。
次は、ダニエル・シェアの『43–35 10TH STREET(Kodoji Press)』は痺れました。月並な言葉ですけどセンスの塊のような写真家です。好き嫌いは分かれるかもしれませんが、写真集の構成の仕方はとても面白いと思います。実験的なんですけど、ちゃんと抑えが効いていて、写真集として完成度が高くて参りました。
他に、フェデリコ・クラヴァリーノの『HEREAFTER(Skinnerboox)』も読みごたえがありました。かつて栄華を誇った大英帝国の衰退を背景に、30年にわたって中東で働いていた彼の祖父母の回顧録的な作品になっています。当時の手紙や写真と、彼が新たに撮った写真を組み合わせつつ、静かな時間が流れている美しい写真集です。
もう一つ、濱田紘輔『THE LAUNDRIES』を挙げたくて。
アメリカ写真のニューカラーやロードトリップの要素満載なんですが、ガソリンスタンド、モーテル、ハイウエイ、ダイナーとかではなくて、コインランドリーっていう切り口が新鮮で。アメリカのコインランドリー事情とかも面白いんですよ。濱田さんに話を聞くまで全く知らなかったんですが、アメリカには景観保護目的で外に干せない条例とかあるらしくて、コインランドリーが必須な地域もあるようです。
あと、継続的にポラロイド系の写真集を集めてます。アレクセイ・タルコフスキーの古本がきっかけで、すっかり魅せられてしまって。タルコフスキーとポラロイドってもう最強過ぎますよね。叙情と郷愁の重ね掛けみたいでグッときます。それ以降、これはと思うポラロイド写真集を少しずつ集めるようになりました。
すみません、ぜんぜん挙げ足りないんですが、きりがないのでこの辺にしておきます。
5年ほど前にノルウェーのヘキイ・カシキという写真家『TRANQUILLITY』っていう写真集が気になって、直接本人にメールして、PayPalのアカウントを教えてもらって購入したことがありました。
2週間くらいして、無事届いたんですけど、銀色のクッション封筒に切手が20枚くらい貼られた郵便で届いたんです。その切手一枚一枚が美しくてかっこいい北欧デザインで、写真集よりまず梱包に驚いてしまって、とても印象に残っています。直接会ったことはありませんが、こういうやり取りも楽しかった。もちろん写真集も素晴らしくて、今も大切にしています。
たぶん写真が面白いって思えてたら、自然とアンテナが張られて、いい写真集に出会えると思います。
詳しい人に耳を傾けつつも、結局は自分で見つけられたものが強いと思うので。身の丈に合わせつつ、身銭を切って体験するのが一番です。
一応、新古書店、ディストリビューター、ギャラリー、写真家のSNSには目を通しています。ただ隈なく追っかけるようなことはしてません。たまたま見て気になったらという感じです。
それと吉祥寺のbookobscuraさんに行くと、写真集愛が天然温泉のように湧き出ている店長さんが、源泉掛け流しでいろいろ教えてくれるので、ゆったり写真集のことを知ることができます。たまに、間欠泉みたいに写真集愛が突然噴き出すこともありますけど、写真集はまだ初心者って方にも親切に案内してくれます。
そりゃもう一冊どころか、写真に興味持つ前にすでに完売したものとか数え切れないです。これは巡り合わせなので仕方がない。古本はレアブックになると値段が張るので手が出ないこともありますし。最近は適正価格の復刻版や集成本が出ることが多くなってきたのはありがたいです。特に深瀬昌久『MASAHISA FUKASE』はとてもうれしかった。
小さい頃から「読書好き」というより「本好き」でした。昔から造本や装丁、印刷にも興味があったので、専門的なことはわからなくても、手にとって、開いて、見て、閉じてっていう行為がずっと好きだったんです。本の中でも写真集は、自分にとって相性が良いいなと思っています。
ちなみに写真集とは別に、ギャラリーでプリントを購入することもあります。プリントを壁とかに飾るって、賃貸でも狭い部屋でも工夫次第で何とでもなるんです。特にトイレ、おすすめです。余計なものがないので飾りやすいんですよ。プリントを買うって、けっして安い買い物ではないので、誰でもお勧めできるものでもありませんが、写真集とは違う体験ができます。
自分としては、写真集もプリントも自分の物っていうより、自分が生きている間に預かっている気持ちでいます。写真が好きな他の誰か、子や孫の世代に引き継げたらそれはそれで素敵だなって思うので。