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初めての障害者雇用 清掃指導が難しい その2~ 総務からはじめる、障害者雇用ノウハウ ~

はじめに(チームより)

 「こどもたちのために、日本を変える。」事業開発、政策提言、文化創造の3つの軸で、こども・子育て領域の社会課題解決活動と価値創造を行う国内最大規模のNPOである「認定NPO法人フローレンス」において、総務関連チームで障害者雇用スタッフのサポートを担当しているジョブコーチ*1の石橋です。
 障害者雇用に関する知識も経験もなかった私が、6年半、どのような課題に悩みながら障害者雇用チームを運営しつづけてきたのか、大切にしてきたことはどのようなことかなど、山あり谷ありの歩みの中で生まれたエピソードをご紹介していきます。

 「フローレンスってどんな事業をしている団体?」「どのような組織の中で障害者雇用に取り組んでいるの?」などバックボーンを知りたい方は、ぜひこちらの記事をお読みください。


前回の記事はこちら 「清掃指導が難しい その1」

「勤務スタート」

複数回の実習を経て、めでたく入社したBさん。保育施設清掃業務での勤務がスタートしました。

■入社前に準備したもの
1.清掃箇所ごとの画像付きマニュアル
2.作業チェック表(注意事項付き)
3.張り出し用 スケジュール表

清掃箇所ごとの画像付きマニュアル

ひと月ほどの業務レクチャー&サポート中は順調に毎日を過ごしましたが、独り立ちから時間が経過すると清掃業務にヌケモレが出るようになり「仕上がり具合に課題あり」と園長から報告が入るようになりました。

「レクチャー中との環境の違い」

レクチャー中はとても順調でしたし、定期的にわたしが訪問する時には丁寧な作業もできていましたので、園長からの報告には戸惑いを覚えましたが、今考えると、レクチャー中は問題なく作業できる理由がありました。

<本人にとっての環境>
・困ったときにはジョブコーチ(わたし)から声がけしてもらえる
・困ったときにジョブコーチ(わたし)に確認できる
・ジョブコーチの視線があることで「丁寧な作業の具体的行動」を思い出せた

施設で働いている保育スタッフの視線は、お預かりしているこどもたちに向いています。園長も保育に入ったり、会議があったりと忙しい毎日を過ごしているという環境ですので、Bさんへの声がけは難しい状況でした。

きっと、Bさんは清掃手順が分からなくなったり、困ったなと思ったときには誰かに声をかけたかったのであろうと思います。Bさんは周りの状況を察する能力が高く「忙しそうだな」と感じると、声をかけることができない特性が強かったこともあり、「どうするのだっけ?」を自分で考えて作業を進めていたのでしょう。また、入社したてのBさんには、マニュアルを確認することは思いつかなかったのだと思います。

「作業チェック表の顛末」

ヌケモレがでないようにと、作業を終えるごとに確認することを想定して作成したチェック表は上手く機能したでしょうか…残念ながら効果は薄いものでした。業務開始から半年後に判明したのですが、なんと!作業をすべて終えてからまとめてチェックをつけていたのです。「ん~。多分やったはず!」と、記憶に頼ってチェックしても意味がありません。本人は「その方が効率的」と考えていたそうで、まったく悪気はありませんでした。

確かに、1ステップごとにチェック表を広げペンを手にしてチェックするのは効率が悪いのです。しかも、清掃箇所は6箇所あって、1箇所あたりの清掃工程は20ステップほど。実に、毎日、100回以上のチェックを付けなければいけなかった!
さすがに、これは面倒くさい。ヌケモレが起きないことだけを考えて「チェックすれば良い」と安易に考えてしまった私のミスだったと反省しています。

<効果の薄かったチェック表>

その後は、作業工程を作ったあとは、まずは自分がやってみる。次に障害者雇用チームのメンバーにもやってもらって「面倒くさい」「やりづらい」と感じるような工程はできるだけ作らないように気をつけるようになりました。

「工夫あれこれ」

清掃業務へのモチベーションを持ち続けてもらいつつ、施設の衛生を保つために試した工夫をご紹介します。

<工夫その1 モチベーションを保つ>
総務スタッフがBさんの働く施設を訪れる際には必ず労いの声をかけることにした
 「いつもありがとう」「キレイになっていると利用者さんが喜ぶね」等

<工夫その2 モチベーションを保ちつつ衛生面も確保>
仕上がり具合に「丁寧さが欠けてるな」と感じたら、やり直してもらうための声をかけてもらうことにした(保育スタッフたちは遠慮があり言えなかったそうです)
「やりました」と言われたときの返し例
 「また、汚れちゃったみたいだからもう一度お願い!」

<工夫その3 担当業務にメリハリを付ける>
清掃担当を曜日ごとの交代制とした(施設清掃のみ勤務の廃止)
 効果①:あたらしい担当者にOJTを実施することで手順が頭に入る
 効果②:清掃担当スタッフ同士のチェック機能が働く
 効果③:清掃以外の作業もできるようになりスキルが増える
 効果④:子どもたちに会える日が減ったことで施設勤務を楽しみとするようになった

<工夫その4 ペンを持たずにチェックできる仕組み>
チェック表を取りやめチェックカードを導入

<壁面に貼っているチェックカード>
<チェックカード(左:表面 右:裏面)>

■カード記載事項
 表面:清掃箇所と使用する道具を記載
 裏面:手順や注意事項を記載
■使い方
 1.清掃とチェックが終わった手順のカードを裏返す
 2.終業前に保育スタッフと再確認しながらカードを表に戻しておく

効果①:壁面を見れば作業内容が確認できヌケモレが減少した
効果②:保育スタッフ等にBさんの作業内容が見える化された
効果③:他の人でもすぐに清掃できるようになり属人化が解消された
効果④:チェックのためにペンを持つ面倒臭さを解消した

「マニュアルを確認する習慣は社会に出てから」

張り切ってマニュアルを準備していたのですが、入社から1年ほどは、Bさんにマニュアルを上手く利用してもらえませんでした。その当時の私は「マニュアルを確認する」習慣は社会に出てから身につけるものと理解できていなかったので、特にマニュアルについての説明や指導は行っていなかったのです。

家庭や学校生活においてマニュアルを確認する機会は殆どなかったのでしょう。分からなくなったら「誰かに聞く」が日常のことだったのだと思います。レクチャー期間中は「マニュアルを見て!」と声がけされるからマニュアルで確認していただけで、習慣として身についていなかったため、「誰かに聞く」「自分で考える」に戻ってしまったのだと思います。

現在、フローレンスでは、実習時から「マニュアルの大切さ」について説明し、作業手順はできるだけマニュアルで確認してもらっています。

「おまけの話」

清掃担当を交代制にしたことで、Bさんは週に3日オフィス勤務に入ってもらい事務業務も担当してもらうことになりました。いつか事務の仕事ができるようにと家庭でパソコンの練習をしていたこともあり、すぐに事務業務に馴染むことができました。作業の結果(正解)がはっきりしていることが、Bさんには適していたのでしょう。メキメキと成長して、今では多くの事務業務を担当することができるようになりました。

高校在学中の実習先は清掃業務のみだったBさん。卒業校の進路指導の先生が来訪された際に、パソコンに向かって事務作業をこなすBさんの様子を見て、とても感慨深げにされていた姿が忘れられません。

*1「ジョブコーチ」 企業に在籍し、同じ企業に雇用されている障害のある労働者が職場適応できるよう様々な支援を行う人を、企業在籍型ジョブコーチといいます。

執筆の背景

障害者雇用関連の情報は、採用・育成の事例やノウハウばかりで、採用した障害者雇用の社員に「どのような業務を、どうやってもらうのか」のノウハウが足りていません。

そこで、実務ノウハウや、障害者雇用チームの立ち上げ経緯などを公開することで、障害のある社員自身や総務担当者が、はじめの一歩を踏み出せるシリーズを立ち上げました

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