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G36(The Bug+Gorgonn)

The BugとGorgonnによるアナーコ・ダブ・コレクティブG36。これまでに2枚の12"レコード、JK Fleshとのスプリット・アルバムをリリースしており、パンクな反骨精神を激らせたノイジーでヘヴィーウエイトな彼等の曲は世界中のコアヘッズから絶賛された。

2018年にPressureから発表されたジャマイカのダブポエットNazambaのソロデビュー作『Vex』のプロデューサーとしてクレジットされたのがG36の始まりであり、当初はThe BugとGorgonnのユニットであることは隠されていた。
『Vex』のプレスリリースでは「長崎のアナーコ・ダブ・コレクティブG36」と記載され、それ以外の情報はまったくない謎の存在であった。

後に判明するのだがNazamba『Vex』のリディム(トラック)を作ったのはThe Bug。「Skeng」に通じる印象的なベースラインが進行する『Vex』は、The BugがPaul SimononやJah Wobbleと並ぶベースライン・メイカーであるのを証明している。また、裁判官のガベルのように力強く打ち鳴らされるビートはSteely & ClevieのStreet Sweeper Riddimからの影響を感じさせ、歪んだベースラインとのミックスによりパンクとダンスホールの親和性を具現化している。

The Bugの2ndアルバム『Pressure』から詩人Roger Robinsonをフィーチャーした独自のダブポエトリーに挑戦しており、3rdアルバム『London Zoo』収録の「Fuckaz(feat Spaceape)」もThe Bug流のダブポエトリーといえるかもしれない。Roger RobinsonとのユニットKing Midas Soundとして2009年に発表した『Waiting for You』は、ダブ〜アンビエントを母体としたリディムにポエトリーティングと甘味な歌声が乗ったダブポエットの新解釈的な曲も披露。以降、King Midas Soundはポストロック〜シューゲイザーの要素を取り込んだメロウなダブポエット的な曲を展開していたが、Nazamba『Vex』では真逆となる歪みと怒りを源としたまさにアナーコ・ダブを投下した。
NazambaとThe Bugのコラボレーションはダブポエトリーの新たな流れを生み出す予感があり、Spaceapeとのコラボレーションが持続していたら起きたかもしれない可能性を大いに含んでいたが、非常に残念ながらNazambaもSpaceapeと同じく若くして亡くなってしまう。

GorgonnはDokkebi Qとしてダブ〜ダンスホール〜レゲエにジャングル〜IDM〜メタル〜パンクから抽出した過剰性を掛け合わせた自称Death Dubを展開。Devilmanではノイズ〜インダストリアル〜ドゥームの要素がDeath Dubに組み込まれ、更にディストーションが増し増しになり、Ghengis名義での作品でオリジナルのディストピア・ダブを開発し、その進化形をG36として現した。

Nazamba『Vex』から数ヶ月後にPressureからG36のデビュー作『Floor Weapons Vol.1』がリリース。この時点ではまだ長崎のユニットとされており、レコードにはKaku, Kappa, Teraという名前がプロデューサーとしてクレジットされ、ジャケットには顔が隠された三人のメンバーが映っていた。

『Floor Weapons Vol.1』の1曲目を飾るGorgonnによる「Militantはテクノをステッパー解釈したようなまったく新しい革命的なスタイルを生み出している。天才的なホワイトノイズの使い方、永遠と聴けてしまう中毒性のあるベースライン、テクノでありステッパーである規則的なリズムなど、そのどれもが完璧であり、危険な程に快楽的な音楽。
EmptysetやByetoneが切り開いた可能性の更に先にあるノイズとダンスミュージックの究極の完成形と言えるだろう。

Hotline RecordingsからリリースされたG36の二作目『No Escape / Black Mass』は、よりトラディショナルなダンスホール/ステッパーの要素を彼等のフィルターを通して作り出した2曲が収録。彼等のダンスホール/ステッパーへの強い愛情が感じられる力作だ。

G36としてリリースされる曲はベースラインをリフ化させたメタル的なニュアンスがあり、両者のパンクやメタルのルーツが上手く活かされている。ベースとビートで成立させるG36の曲は最小限の音素材で構成しながらもオーケストラ並みの広がりとインパクトを残す。

数年の沈黙期間を経て、2021年に発表されたJK Fleshとのスプリット・アルバム『Disintegration Dubs』の発売時にG36はThe BugとGorgonnのプロジェクトであることが明かされる。

今作ではダンスホール/ステッパーをベースとした作りは変わらず、ポスト・メタルやオルタナティブなベースミュージックからの影響を貪欲に取り入れ消化させたThe Bugのトラックと、ポリリズムやパーカッシブなビートを用いたミニマルなサイケデリックを引き寄せるGorgonnのトラックに、JK Fleshのスローモーション・ダブテクノが交代に並べられた麻薬的な危険さを感じる快楽度数が凄まじいアルバムとなっている。三者三様のダブ感を元にそれぞれが追求する音楽の快楽ポイントが違っていて興味深い。

以降、The BugはPROGediaとModeratのリミックスでG36名義を使い、ベースライン先導型のヘヴィーウエイト・スタイルを突き進め、GorgondmもAelk Minsurのリミックスにてインダストリアルな強度が増したG36名義のリミックスを提供している。

G36として彼等が開拓した手法と世界観は80年台のポストパンクやデジタル・ダンスホール、2000年代のダブステップと同等の革命であるはずだが、それに相応しい評価を受けているか微妙である。音楽の歴史において、正しい評価は後年にされることも多いが、G36の作品もきっと数年後に見直され、相応しい評価を受けるはずだ。


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