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低身長男子はマイケル・コルレオーネを見倣え 『ゴッドファーザー』名シーン解説③


身長の低さは、いつの時代も変わらない男の悩みの一つだ。

男は170cmなければ人権がないとか言われるこのご時世、アル・パチーノとダスティン・ホフマンという、二人の稀代の名優がれっきとしたチビであることは、世の低身長男子を大いに勇気づける。
(パチーノ、ホフマンともに165cm程度だと言われている)

日本よりも平均身長が5cm以上も高いアメリカのこと、アル・パチーノやダスティン・ホフマンは確かにスクリーン上において小さく映る。

しかし、彼らはそのディスアドバンテージを跳ね返し、背の低さを感じさせない演技力で、観る者の心に訴えかける。

もちろん彼らはわれわれには及びがたい名優だが、それでも参考にできる所作がある。

身長の低い者が、威厳を高める術。

それはズバリ、座ることである。

アホみたいな解答だが、これに尽きる。

そして、美しく威厳をもって座ること。

それをアル・パチーノが体現しているシーンがある。
『ゴッドファーザーPart Ⅱ』。コルレオーネファミリーのドンであるマイケル・コルレオーネを演じているときのものである。

『ゴッドファーザー Part Ⅱ』より


ユタ州・タホ湖畔の自邸で襲撃を受けたマイケル・コルレオーネはファミリーに大きな危機が迫っていることを感知し、それを打破するために行動を開始する。
マイアミでユダヤ系マフィアの巨魁ハイマン・ロスと会見し、その足で突然ニューヨークへ向かいフランク・ペンタンジェリ邸を訪問する。
フランクは父ヴィトー・コルレオーネ以来二代にわたってファミリーに仕えてきた幹部の一人であるが、マイケルの去ったニューヨークでは敵対するファミリーとのいざこざが絶えず、つねづね不満を訴えていた。

初冬のニューヨーク。雪の降り積もる中、帰宅したフランクは家人からマイケルの訪問を知らされる。
突然のことに困惑したフランクは、応接間で待っていたマイケルの怒りに触れることになる。
「襲撃のことは聞いたよ」と話しかけるフランクにマイケルは、鬼の形相で一喝を浴びせかける。

「私の家で!妻が眠る寝室でだ」

かつて見せたことのない剣幕で激昂するマイケルに、フランクはその場に立ち竦み、動揺する。

ここでマイケルはフランクに「裏切り者」の嫌疑をかけている。
フランクを圧倒し、相手の出方を見る。

「In my home! In my bedroom where my wife sleeps.」


黒いコート姿のマイケルはフランクに目線を据えたまま、近くにあったソファに腰を下し、ゆっくりと脚を組む。(テーマ写真)

この所作が、この上なく美しい。

目線で「人を見下ろす」とはそのまま人を下に見ることの慣用表現だが、どうしても高身長の人間の視線には圧倒されてしまう。

しかし、玉座に座った王は別だ。
深くソファに腰を下し、鋭い目線で人を射すくめるマイケルは、まさに巨大ファミリーを統べる王者としての貫禄を示している。

そしてマイケルが着席したことは、すでに怒りの表明が終わり、「ビジネス」としてフランクを説得するというタームに入ったことを示す。

「I need your help.」(「手を借りたい」)

フランクの直ぐ側まで身体を寄せ、遥か歳上の相手を静かに諭す。
旧コルレオーネ邸だった応接間の調度品について語ったあと、父ヴィトーの言葉を引いて自分の考えを打ち明ける。
マイケルの要請は、フランクと敵対する勢力、ロサト兄弟との手打ちだった。

「Keep your friends close, but your enemies closer.」
 (「友は近くに置け。敵はもっと近くに置け」)

この時点で、マイケルにはハイマン・ロスが真の敵であるという確信はない。しかしそれを確かめるためには、いったんロスやその手下であるロサト兄弟との関係が改善することが不可欠だった。

もちろん、フランク・ペンタンジェリが「裏切り者」であるという可能性も捨てきれない。フランクを牽制しつつ、ハイマン・ロスの動きを探るというのが、マイケルの魂胆だ。

人によって態度を使い分け、時に圧迫し、時に懐柔することによって、マイケルはファミリー内にいる真の「裏切り者」の正体を突き止めようとする。


身長とか、男にとって必要ですか?


コルレオーネ兄弟の中でも兄のソニーには、妹コニーを打擲されたことに激昂し、妹婿カルロを街中でしこたま殴打するシーンがあるが、対照的にマイケルには男同士が取っ組み合うようなシーンはない。

優雅で冷静。チェーザレ・ボルジアばりの権謀術数を駆使して競争相手をやり込めていくマイケルには、身長も、フィジカルの強さも必要ではないのだ。

もちろん、アル・パチーノには成り上がり者のギャングを演じたスカーフェイスでチェーンソーを鼻先に向けられてもビビらず啖呵を切ったり、ロサンゼルス市警の敏腕刑事を演じたヒートの街中での壮絶な銃撃戦のシーンなど、カッコいいシーンは彼のキャリアにおいて山のようにあるのだが、今回は『ゴッドファーザー』から取り上げてみた。

実は当初パラマウント・ピクチャーズの希望では『ゴッドファーザーPartⅠ』のマイケル役はロバート・レッドフォードのような金髪・高身長の実績あるスターだった。
監督のフランシス・フォード・コッポラは映画界ではまだ駆け出しだったアル・パチーノを猛烈にプッシュしたが、制作会社からはパチーノの身長の低さを理由になかなか承諾が得られなかった。

だがパチーノは「いつまであのチビのスクリーンテストを続けるつもりだ!」という製作会社の声を跳ね返し、見事にマイケル役を演じきった。

大ヒットした前作の続編である『PartⅡ』ではもはやマイケル役はパチーノ以外では有りえず、彼の演技にも自信がみなぎっている。

アル・パチーノ自身が言うように、やはり『ゴッドファーザー』のマイケル・コルレオーネは最高の当たり役である。

というわけで、『ゴッドファーザー』名シーン解説第三回でした。


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