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【100の銃弾を浴びた男】ソニー・コルレオーネ殺害『ゴッドファーザー』名シーン解説②

第二回に取り上げるのは、ソニー・コルレオーネ銃撃シーン。

映画中盤、コルレオーネ兄弟の長兄ソニーは敵対するファミリーの策略に嵌り、ひとり車でおびき寄せられたところをマシンガンによる一斉掃射を受けて絶命する。

『ゴッドファーザー』シリーズ随一の凄惨な殺害シーンである。

料金所に隠れていた暗殺者たちの激しい機関銃の掃射に、無数の銃弾を受け、身体中から血を吹き出しながら絶命するソニー。
車に乗っていたところを撃たれ、さらに車外に出たところに追討ちをかけられる。こうしてソニーはあえなく死に、愛車の1941年型リンカーン・コンチネンタル・クーペとともにハチの巣にされてしまう。

このような演出が初めてスクリーンに登場したのは、『ゴッドファーザー』から遡ること五年、映画『俺たちに明日はない』(1967)のラストシーンでのことだった。

銀行強盗を繰り返したボニーとクライドが逃避行の末に87発の銃弾を浴びて絶命する映画のエンディングは、「映画史上最も血なまぐさい死のシーンの1つ」に数えられている。


それ以前は、西部劇でもギャング映画でも、劇中で銃に撃たれたものは、胸を押えてその場に崩れ落ちるだけだった。

それだけに、『俺たちに明日はない』で身体から血が吹き出す衝撃的な銃撃シーンを初めて見たときの観客の驚きようは如何ばかりだっただろうか。

肉体が傷つき、血が吹き出る演出。
この先鋭的な技術は、もともとは日本映画の産物である。
黒澤明は『七人の侍』(1954)で肉の千切れるような痛々しい効果音を使用し、『椿三十郎』(1962)では、クライマックスで動脈から噴水のように血が吹き出る凄惨な映像を創り出した。


黒澤映画の持っていた迫力は映画の本場アメリカのクリエイターたちにも大きな影響を与え、アクションシーンではよりリアルで暴力的な表現が求められていく。

そしてカラー作品が主流となった60年代以降、スクリーンに映える赤い鮮血は暴力表現に不可欠なものとなった。
観客は、もはや安穏とした映像表現では満足できなくなっていたのである。


しかし、ギャング映画であるにもかかわらず『ゴッドファーザー』にアクションシーンは少なく、コッポラも言うように「男たちが暗い部屋で密談ばかりしている」映画である。
コッポラは『ゴッドファーザー』の制作中、ジーン・ハックマンが演じる刑事“ポパイ”が躍動する『フレンチ・コネクション』を観て、「私の映画はこんなに地味でいいのだろうか」と不安に捉われたという(『フレンチ・コネクション』は1971年アカデミー最優秀作品賞に輝いた)。


そんな中でソニー銃撃シーンは、観客を惹きつける派手な映像で、『ゴッドファーザーPart Ⅰ』のクライマックスの一つと言っていい。

ソニー役のジェームズ・カーンは、自身の死に際をまさに決死の演技で飾った。


ソニーを狙うのは、マシンガンを手にした一団。ジェームズ・カーンの全身には45口径の弾着装置が無数に取り付けられ、顔の命中弾も8つ貼りつけられた。
こうしてカーンは、さながら“歩く爆弾”と化した。

この暗殺シーンにかかった費用は10万ドル、期間は3日を要したが、マスターショットはただ一度の撮影で済んだ。

何百もの火薬が次々と爆発し、ガラスが割れ、木や金属が吹き飛び、眼の下で爆竹が破裂してソニーは痛みに悶え、叫び声を上げる。

「撮影しているときは、着ているスーツが吹き飛ばされるんじゃないかと思ったよ」とカーンは述懐する。

だが、火薬が爆発するとはいえ、実際に銃弾に撃たれるほどの衝撃は無い。
それだけに、無数の銃弾を受けてのた打ち回るカーンの演技はまさに迫真のものだった。

「虐殺される合間に一服するカーン」

『ゴッドファーザー』の美術監督を務めたのは、『俺たちに明日はない』と同じくディーン・タボラリス。
タボラリスは細かな点にまで気を配ることで知られ、映画の舞台となっている1940年代の雰囲気を忠実に再現した。このシーンで彼は、封鎖された飛行場の滑走路に料金所のセットを組み上げ、惨劇の現場となる空間を作り出している。


すでに超一流の俳優として世に認められていた(トラブルメーカーでもあったが)マーロン・ブランドを除けば、『ゴッドファーザー』の主要キャストは映画界ではほとんど無名の俳優ばかりが起用された。

彼らは制作陣の期待に応えて迫真の演技を披露し、映画の大ヒットに伴って、アル・パチーノ、ダイアン・キートン、ロバート・デュヴァル、ジョン・カザールらの若手俳優は映画界のスターとして羽ばたいていくことになる。

その中で、ジェームズ・カーンは『ゴッドファーザー』でアカデミー助演男優賞にノミネートされる栄光にあずかったものの、ソニーのイメージが強烈過ぎたためか、その後主演級の俳優としては苦戦を強いられることになった。

カーンは2022年7月6日、82年の生涯に幕を閉じた。
多くの作品に出演する人気俳優だったカーンだが、やはり彼の代表作は『ゴッドファーザー』だった。
彼の一世一代の演技であるこのシーンを、ぜひとももう一度味わってみてほしい。 


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