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障害case01:LGBTQ

僕は生まれつき男だった。
体と心の性別とは必ずしも一致しないものだと勝手に勘違いしていた。
それくらい当たり前に、僕は男だった。

当たり前に男だった過去

好きなテレビは『カクレンジャー』と『ドラゴンボール』。
好きな遊びは高い所から飛び降りることとゲームボーイのマリオ。
公園で知らない奴と遭遇したらとりあえず喧嘩して遊ぶ。
将来の夢は大仁田厚さんみたいに爆発する有刺鉄線に囲まれて戦う格闘家。

それは小学校の高学年になるまで何も問題にならなかった。
遊ぶ時に相手の性別なんて気にしない。その遊びをしたい者同士で集まって遊ぶだけ。
スプリンクラーを跨ぎに校庭まで走ったり、遊具でどんな技ができるか競い合ったり。

その内生理が始まって、なんだか胸が膨らんできて、体育の授業が男女別になって。
その時初めて思い知った。というより、この年代の全員がぶつかる壁なんだと思う。
アイツは男。あの子は女の子。好きな人いる?じゃあ好きなタイプは?
急に世界が『男か女か』の2色に分けられた。
そして僕は唐突にというレッテルを貼られた。

男が当たり前ではなくなった過去

「何もしなければ女だと勘違いされてしまう」
事ここに至って未だ性別の不一致をエラーだと認識していなかった僕は、中学入学と同時に一人称を『俺』に変えた。
新しくできた友達はいわゆるオタク仲間で、熱血ロボットアニメから萌え系まで色んな情報を共有した。
そのグループは僕を含めて全員男だったから無事誤解を解けた気でいた。

しかし当然ながらそんなことはなかった。
修学旅行の時、学年の担当全員で話し合いが行われていた。
議題は『行動班をそのまま部屋割にあてる際、男子のグループにいるナガレをどうするか』だった。
中学生の男女を同じ部屋にするなんていうことは言語道断である。しかし常日頃から女子といる所を見ない為仲の良い女子が分からない。この異分子をどうするべきか。
そんな教師達の話し合いの末、全然知らない女子の部屋に『数合わせだから』という理由で投げ込まれた。
知らない人間を放り込まれたグループはもちろん僕を敵とみなすし、僕だって知らない女と唐突に一緒にいろと言われるのは不本意だった。

この後高校に進学したけれど修学旅行には行かなかったし、部活にも一切入らなかった。
女に割り振られるのは御免だったから。

社会は男女でできているんだと悟った過去

20歳になってすぐ、精神科を受診した。
高校卒業後進学も就職もしなかった。
女子トイレには入れない。
女子更衣室には入れない。
女子の制服は着られない。
だって僕は女の子じゃないから。

ネットで調べたら、僕のような人間は『性同一性障害』という病気だった。そしてこの病気は精神科で診断を受けた後自己負担10割での高額な手術を要すると知った。
それでもホルモン注射を始めれば生理は止まるし声変わりもする。
そうなった段階で初めて社会人としての一歩を踏み出せると思い、保護者がいらない成人と共に門戸を叩いた。

結論から言うと僕は『統合失調症』だった。
この病名を下されたら最後、性同一性障害は認められない。
詳しく書くと長くなるから省略するけど、要は『性格や精神が不安定だったり信憑性に欠ける病気を持っている場合、性別の違和感もただの妄想の可能性があるから認めない』ということだ。
個人的には
「アナタは一生女でいなさい」
と宣告された気分だった。

それからはずっと引きこもっていた。
精神科には通院しなければならず、そうして時々外に出ると目に映る人間を全て『男か女か』でジャッジした。
世の中には男か女かしかない。そして、僕は一生女でしかいられない。
ナベシャツで胸を潰しても。男の格好をしても。僕は女で男が入れる為の穴もある。
どれだけ「俺は男だ」と息巻いたところで、襲われて中に出されたら妊娠するのだ。
そんな現実に吐き気と絶望しかなかった。

新宿で見つけたホルモン注射だけをしてくれるグレーな医者も、法改正とともに『診断書必須』と追い出された。
追い出されるまでの1年間で手に入れたのは少し低くなった声だけだった。

どう頑張ってもオナベ止まり。男に戻ることを諦めた今

僕は今年で34歳だ。
例えば来年中に男に戻れるとして、35歳の身体に男としての年齢0歳が加わる。
良くも悪くも生活の中で様々な暗黙のルールを体で覚えていく。
そのルールを1つも知らない35歳の男。
現実的に考えよう。無理がありすぎるというか最早破綻している。

外見も同じだ。
女性ホルモンは今もこの身体が出し続けている。女性として老化していくのだ。
男性ホルモンを打ち続けていられたなら話は少し違っていたかもしれない。肌の質感や脂肪の付き方、髭の生え方。そういった加齢の部分は男に寄っていけただろう。

しかし、そもそも論として。
二次性徴期を女性として過ごした時点で身体は女性型になっている。
男女での違いは骨格や筋肉の付き方までもに現れる。
胸や女性器を切除して男性器に付け替えても、一度決まった構造までは変えられない。
大金をはたいて手術をして、滅茶苦茶プライベートなアレやコレを裁判官に曝け出してやっと手に入る『男という戸籍』は、僕はいらない。
本人が一番分かると思う。天然の男と造られた男とではあまりに土台が違いすぎているということに。
全ては報われない努力なんだと僕は思っている。

アセクシャルに性別はあまり関係ない

そもそも僕はアセクシャルである。簡単に言うと『恋愛感情が無い』『人間に性的欲求を持たない』人間だ。
学生時代に男女問わず告白されたら付き合うというルールを実践してみたけれど、最終的に相手から振られた。
「これじゃあ友達と何も変わらない」
「ナガレ君は私のことを愛してくれてない」
「「なんでセックスしてくれないの?」」
男女問わず嫌だ。セックスも、キスも、手を繋ぐのも。その全てが気持ち悪い。だから恋愛は気持ち悪いことだ。

性格や自我が男であるというだけで、女という役割を持つ体が嫌なだけで、男になりたい訳じゃない。
当たり前に男だというだけで、社会的な男の役割を担う気も毛頭無い。女を侍らすだとか、家族の大黒柱になるだとか、そんなことは一切望んでいない。

人間は相手を外見で判断する。
無意識の内に相手の外見に合わせた言動をとる。
だから心と体の性別を一致させたかった。ひとつのエラーは次のエラーを呼び起こす。そのズレを直したかった。
しかしそもそもエラーは性別だけではなく、今や不具合の塊と化した心身を引きずっている身としてはもうどうでもいい
恋愛はお断りする。対人関係は諦める。それ以前に普通の生活を諦めているから性別の不一致なんて問題の端っこに過ぎない。

面倒だし動きにくいし暑いし呼吸も大変にはなる。それでもナベシャツを着ただけで胸は無くなる。これから先買い替え続けても100万円を越えはしないだろう。
生理もオムツを履かされている感じがして嫌だけど、外出も滅多にしないし生理前の精神が云々とか生理痛とは全くの無縁だから行きたくもないのにトイレに行く苦労くらいしかしない。
生理用品の出費も同じく100万円は越えないと思う。というか前に調べた時の手術代はもっと高かった気がする。

男と女のカップルでのみ子孫を残せるという現実

最後に。
LGBTQに入れてもらえないLGBTQとして社会を見ていてよく解ったことがある。
精子は男しか持ってない。卵子と子宮は女しか持ってない。
ホモサピエンスが今後も繁栄を続けるには男と女がセックスして女が出産しなきゃならない。
男が男とセックスしても、女が女とセックスしても、誰ともセックスしなくても、ホモサピエンスが増えることは無い。
少子高齢化を憂う老人の方々が声高に偏見を主張するのも間違いじゃないんだろう。

実際性転換手術を行う際に最も覚悟を要するのはこのことに関してだとよく聞く。
自分のDNAは残せなくなるということ。
将来パートナーと出会った時、パートナーのDNAも残せないということ。
そこで一番悩むし、決断してから決して後悔しないかと言えば100%そうではないという事実。

そういう方々にはおあいにく様だけど、僕は例え初めから男だったとしてもこの遺伝子は自分で終わらせると決めている。この話はまた別の機会に。

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