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ガンガァクス攻略 −その4−ウルフェリンクの神話


竜の仔の物語 −第三章|2節|ガンガァクス攻略

−その4−ウルフェリンクの神話


 「奥にウォー・オルグがいる。」ラウがシチリの剣を構える。

 「・・では、陣形を試す良い機会だな。」マールの指揮のもとに進み始める。敵の数からして、各個撃破も可能ではあるが、ここは事前の作戦通りに、皆の役割を試すことになる。

 まず先頭はドミトレスとラウ。彼らが壁役となりパーティを押し進める。後方ではメッツがボウガンを構え、ブゥブゥが魔法の霧を消し次第、遠距離攻撃を浴びせる準備をする。それに伴い、ルグとクリクが遊撃の機会を狙い、マールは後衛を守りつつ、対局を見極め流動的に動く。しんがりにはカイデラが荷物を背負い、おおむね彼は戦闘には参加しない手はずとなっている。

 「ブゥブゥくん、霧は消せそう?」マールが訊く。

 「・・わかりません。やったことはないから。」

 「わかりません?」マールは聞き返すが、すでにブゥブゥはエルカノンの杖に魔法を込めはじめている。

 「・・でもやります。」

 「ふふ。頼もしいな。」

 そこへ大弓の矢が飛んでくる。ラウとドミトレスにだけ、それが魔兵が放ったものだということがわかる。

 大半の矢をそびえる大楯が弾き、それをすり抜けたものをラウがたき落としていく。彼はひとりで飛び出し魔兵を始末したい気持ちを抑え、敵の攻撃を後衛に通さないことに徹底する。

 やがてゴブリンが突進して来る。ドミトレスが大楯を振り抜き、はじめの三体を吹き飛ばす。足もとを斬りつけようとする敵の脳天にパイルを突き刺し、そのまま死骸ごと大理石に食い込ませる。

 奇怪な叫び声とともに敵が一斉に仕掛けてくる。さらに大楯にグールどもがぶつかるが鋼鉄の壁はまるで動じはしない。停滞した敵に、左から振り下ろされた銀の槌が頭を砕いていき、シチリの剣の閃光とともに、ゴブリンが赤銅色に爆ぜる。

 それでも敵は怯まない。二人が撃ち漏らした敵が、蓮の剣の流れる流線の餌食となる。

 「ひっ!」マリクリアの刃に飛ばされたゴブリンの頭が、煙を上げてブゥブゥの足もとに落ちてくる。

 「心配ない!魔法に集中するんだ。」マールの檄が飛ぶ。

 「は、はい!」ブゥブゥが神経を集中させる。すぐに周囲の音が消え、幽玄の力を感じ始める。彼の喉元からごく自然に、相殺魔法が押し上がってくる。

 「胡乱なる諸 纏し胡乱・・消え去れよ」口についた咒言葉が杖に光を灯す。「ウルハライドル。」

 光は収束してすぐに弾ける。弾けた光源が広がり、魔法の霧を消し去っていく。

 すかさずメッツが自動ボウガンの切りかえ弁を操作する、引き金を引くと小さなの鉄の矢が石つぶてのように連射される。

 立ち所に雑兵の小鬼どもが倒れていく。倒れる死骸を踏み越えてくる屍鬼が、さらに死骸の山に積み重なる。メッツの矢は釘よりも少し長い程度の物だが、その威力はもの凄く、小鬼程度ならその身を貫通し、後ろの敵も倒すことができる。

 しばらく連射を続けると、ボウガンの腹に装填された四角い鉄箱が煙を上げて独りでに飛び出す。メッツはすかさずたすき掛けに装備した別の小箱を抜き取り、それを装着し、ふたたび連射をはじめる。彼女のボウガンは、開発者バジムの頃からかなり改良され、矢の装填も、連射速度も格段に上がっている。

 鉄の弾幕の脇からは銀狼となったルグと、四つ脚で走るクリクが遊撃に向かう。銀狼の巨体がゴブリンを踏みつけ、首に噛みつきウォー・オルグに投げ付ける。魔兵は飛んで来る味方をためらいなく切りつけると、それを目隠しに、飛びかかるクリクの一撃を盾で受ける。

 「一気に潰せ!」マールの号令で壁役の二人が前へ出る。

 メッツが連射を止め、切りかえ弁を操作し、単発の矢を飛ばしながら進みはじめる。マールは後衛を守るようにして、皆が撃ち漏らした敵をすべて処理していく。



 ラウの一閃がウォー・オルグの頭を潰すと、多くの小鬼どもが怖じ気づき逃げ去っていく。彼らは追い打ちをかけずに、放心した残りのゴブリンと、逃げだす知恵すら働かないばかなグールを片付ける。

 「上手くいったようだな。」全ての敵を一掃すると、マールがブゥブゥの肩に手を置く。「魔法使い殿がいれば、このまま順調に先へ進めそうだよ。」

 「上々ではないか?我らの連携は。」ドミトレスが得意げに言う。

 「すごい!簡単にやっつけられた!」ラウは興奮して答える。彼は整った陣形によりこうも危なげなく魔物を追い払えたことに、かなり満足な様子。

 「やったね。」ルグはクリクに手のひらを差し出すが、やはりクリクは申し訳なさげに彼のもとから離れていってしまう。「もー、なんなんだよ、クリクは。」

 すると、彼の背中をメッツが叩く。

 「え、なに?」

 彼女は足もとを指差す。そこには死骸に突き刺さった鉄の矢が無数に散乱している。

 「ええ!これ全部拾うのかよ!?」ルグはうろたえるがメッツは藪睨みでしゃがみ込み、自ら矢を拾い始めるので、彼も渋々ながらも死骸から矢を抜き取っていく。

 「ふふ。」それを見てマールが笑う。「みんなで拾おう。メッツの飛び道具は我々全員の武器でもあるからな。」

 そうして、皆で矢をある程度拾い終わると、ルグが神妙な顔つきで立ち上がる。

 「なあ、クリク、おれがライカン。・・雷獣なのがそんなに嫌なのかよ。」寂しそうに言う。

 「いやぁ、そういうわけじゃ・・、」クリクは歯切れ悪く言い、またしても彼の側から離れていく。

 「じゃあ、何なんだよ!」その背中に向けて、ルグが声を荒げる。

 必然と、他の皆の注目が集まる。佇むルグと、ぺこぺこと場をはぐらかそうとするクリク。それからゆっくりと、皆の視線がドミトレスに移っていく。何か仲間同士のいざこざがあれば、“世話焼きドム”の出番ということだ。

 彼は大きく溜め息をつき、クリクの首を掴む。

 「なあ、クリク。これからは間違いなく戦いは激しさを増すだろう。・・何かわだかまる事があるのなら、今のうちにはっきりしておこうじゃないか?」

 彼がそう言うと、クリクは目線を反らしながらも、観念した顔つきで、「・・わかったよ」そう呟く。



 見通しの良い広い通路まで行くと、そこで小休憩となる。調度、日光石の灯りが消えたことと、少し肌寒くなってきていたので、カイデラが近くに散乱するぼろ布に油を浸し、たき火をはじめる。

 「・・おれたち犬牙族の神話ってのは、ひとつしかねぇ。」

 皆が火を囲むなか、クリクがつまらなそうに話し出す。

 「・・それも、ずいぶん不名誉な話だ。」

 ルグが不安げに彼の濡れた鼻先を見つめる。

 犬牙族、ウルフェリンクは元来、ハースハートン大陸の北部、太古の森から続くリンガーレン大森林に居を構える種族である。先の大戦以前は、雷獣フー・フリアを守り神として迎え入れ、ライカンたちと森を協同で管理し、比較的平和に暮らしていたという。

 しかし、大戦であらゆる種族が二分した際、闇の魔法使いにそそのかされた犬牙族の多くは、ライカンたちを迫害しはじめたという。

 やがて彼らが森を独り占めしたいと考えるようになるのも、時間の問題であった。

 「・・で、ライカンたちが邪魔になったんだとさ。」クリクは伏し目がちに話を続ける。

 しかし、数に勝るとはいえ、犬牙族が風と雷を操るフー・フリアはおろか、強靱な牙と爪を持ち、巨大な体躯のライカンに力で敵うはずもなかった。そこで、彼らの長たちは、一計を案じることとなる。

 「・・それも、胸糞わりぃ策をな。」彼は牙を剥き出す。

 長たちはまず、かりそめの和平を持ち掛けたという。ライカンたちは喜んでそれに同意し、用意された宴の席に出向いた。

 同時に、人間族が森へと進軍を開始していた。フー・フリアはその人間族を追い払うことを長たちに懇願され、森の外れへと出向いていた。

 そうして、宴に出された食事を口にしたライカンたちが一斉に苦しみはじめる。犬牙族たちはライカンが人肉を口にすると狂うという、アーミラルダの呪いを利用したのだった。

 「なんてこと・・。」ブゥブゥが思わず呟く。クリクはそれを横目に苦々しい顔で話を続ける。

 「・・つまり、人間たちがリンガーレンに進軍したのは、人間の女や子どもを犬牙族たちがさらい、宴の料理にしちまったからなんだ。・・当然、そのすべての所業をライカンたちになすりつけてな。」クリクは口惜しそうにそう言うと、「ホントに汚ぇぜ、おれたちはよ、」そう呟き、べっ、と唾を吐き捨てる。

 「・・そればかりじゃねえ、おれたちはライカンが人食いの“人狼”として人間族のなかにも潜んでいると、嘘の情報さえ流していたんだ。ベラゴアルド中にいる人間たちを相手にすりゃあ、流石のライカンでも手に負えやしねぇとな。」

 以来、三千年もの間を経てなお、ライカンたちは“人狼”と恐れられ、ベラゴアルドの各所で弾圧され、その数を減らしていくことになったという。

 そうしてクリクは沈黙する。ルグがぼんやりと彼を見つめたまま、何も言い出さずにいるので、代わりにルーアンが場を繋げる。

 「ライカンは人間を喰らうことを望んでしたりはせん。むしろ神経質なまでに注意する。何せ、狂ってしまうのだからな。なので、“人食い”なぞと偏った噂がまかり通るのを我は不思議に思っていたが、なるほど、そんな歴史の掛け違いがあったのだな。」

 「掛け違いなんかじゃねぇ。薄汚ぇ策略だよ。」クリクが否定する。

 「なあ、ルーアン。親父は?その時フー・フリアはどうしてたんだ?」そこでルグが口を開く。

 「フー・フリアは森に進軍した人間を打ち倒し、それがすべてウルフェリンクの策略だとわかると、何もせずにリンガーレンを捨て、残りのライカンたちとドラゴニアの奥地へと去ったと聞く。」

 「・・そうなんだ。」ルグは物憂げな顔で立ち上がり、「ならもういいや、いこうぜマール。」尻をはたきながらそう言う。

 「え?いいのか?」マールが急に話を振られて呆気にとられる。

 「だって、たぶん親父がすべてのことを怒ってたら、ウルフェリンクをどうにかしてただろ?もしかしたら、滅ぼすことだってできたかも知れない。」ルグは少しだけむっとして答える。

 「・・でも親父はそれをしなかった。ってことは、親父はきっと許したんだよ。」

 「そのわりには、何か、面白くないことがあるようだな。」ルーアンが指摘する。

 「何でもいいよ、もういこうよマール。」ルグが不貞腐れてくる。

 「ねえ、クリク。」そこでラウが口を挟む。「ルグが怒ってるのは、そんな昔のことにこだわってるクリクが気に入らないんだよ。」そんなことを言う。

 しかしクリクは黙りこくったまま項垂れ続ける。皆はそんな彼の様子を見つめながらも何も言わない。ただ、メッツだけが拾い集めた鉄の矢をより分け、ひたすらに装填容器に詰め込んでいる。



 「・・おれたち犬牙族の歴史は恥の歴史だ。卑怯者のただの犬ころなんだよ。」しばらくすると、クリクが重い口を開く。

 それを聞いたルグがさらに不機嫌な顔になる。それでもクリクは話を続ける。

 「おれぁ、おれたちは、ルグ、あんたが許すったって、フーフリアが許すったって、ライカンを森から追い出し、絶滅寸前まで追い込んだ事実は変わりねえ。それは三千年経っても、一万年経っても拭い去れねぇ過去に違いねえんだ。」

 ルグの顔つきが哀しみに満ちてくる。それでもクリクは続ける。

 「ルグ、お前が雷獣だってんなら、おれたちの王だってんなら、犬牙族として、本心ではしっかり償っていきてぇとは思ってるんだ。・・けど、おれは、おれたちは、お前がその歴史を知らねぇってんで、そのまま黙ってやり過ごそうとしてた。
 ・・ガンガァクスには身分も種族もねぇ。誇りのために戦う戦士たちの集まりだ。だがおれぁ、それをいつも偉そうに振りかざしながらも、自分はこそこそ逃げ回ってたんだ。」

 クリクは掠れた声でなおも続ける。

 「・・だからルグ、王のあんたが、何かしらの裁きを下してくれ。ウルフェリンクの名を返上するでも、リンガーレンにいる残りの仲間を立ち退かせるだとか、なんでもいい。・・でないと、おれの気が収まらねぇ。」

 「・・なあ、ラウ。」ところがルグは、しなだれるクリクの代わりに今度はラウに話しかける。

 「ヒンジバーは怒るかな?ライカンがウルフェリンクのせいでばらばらになったって知ったら。」

 「きっと怒んないよ。」ラウが即答する。「ヒンジバーは今もどこかで、散りじりになったライカンたちを探すのに忙しくって、そんな昔のこと気にしてられないよ。」

 「・・だよな。」するとルグはしばらく考え込んでから、今度はマールに話しかける。

 「ねえ、マールは王族なんだろ? だったら教えてよ、こういう場合にどうすればいいのか。」

 「わたしが?」

 マールは目を丸くして考え込む。それからカイデラの方をちらりと見る。彼が小さく頷くのを確認すると、彼女は一呼吸置いて、「人間式でよければ。」と、肩をすくめる。



 それからしばらく少し離れた場所でマールとルグは何やら話し込んでいる。皆が見守るなか二人が戻ってくると、ルグは顔を伏せ座り込むクリクのもとへ歩いていく。

 視界にルグの爪先を捕らえたクリクが、僅かに耳を振るわせる。

 「ええと・・、」ルグが居心地悪そうに頭を掻く。

 「・・我、ライカン及びウルフェリンクの王として命じる。」

 するとクリクはがばりと跳ね起き、彼の足もとにひざまずく。

 「すべての出来事は不問とする。これからは過去に囚われず、未来のために尽力せよ。」そう言うと、すぐにルグは、「ぷはぁ!」と息を大きく吐き出す。

 「もうだめ!やっぱこういうの苦手!」そう叫び、かぶりを振る。「なあ、もういいだろ?クリク。面倒くさいことは無しにしようぜ。」

 それでもクリクはひざまずいた姿勢のままに顔を上げようとしない。皆が溜め息まじりに顔を見合わせ、やがてマールに視線が集まる。

 「クリク、お前は先の戦いで、自分を責めるわたしに、傲った、英雄気取りだと言った。」マールがゆっくりと口を開くと、クリクの耳がまたしてもぴくりと動く。

 「その言葉にわたしは、はっとなったぞ。」そう続けマールは微笑む。彼女は半ば自分自身に言い聞かせるように続ける。「まだやるべき事を止めてまで自分を責めるのは、自己憐憫でしかない・・。」

 そうして微笑みながら皆の顔を見渡す。

 「ガンガァクスはお前の言うとおり、無名戦士の集まりだ。気遣いも後ろめたさも、戦いの邪魔になるものは全て捨て、ただ横の繋がりだけに終始しようではないか。」ひざまずき、クリクと目線を合わせる。

 「・・それをわたしに教えてくれたのは、他でもないクリク、お前なのだから。」彼女は優しく彼の肩に手を添える。

 そこで大理石の砕ける音に皆が振り向く。そこには大楯を構えたドミトレスがいる。

 「さあ、もう行くぞ!まったく、お前らしくない!そんなことでわたしの背中を守れるのか?クリクよ!」

 彼は怒気を孕んだ声でそう言うと、ずかずかと先へ進みはじめる。そうしてクリクの横を通り抜けると、「・・なによりも態度で示す。それがお前ではないのか?・・」そう吐き捨てる。

 するとクリクが立ち上がり、ルグの方をちらりと覗き見る。それから、へへへと笑い照れくさそうに鼻を掻き、何も言わずにドミトレスの後を付いていく。



 そこからの通路は入り組んでくる。ドワーフの彫像や壊れた調度品が散乱しはじめ、脇にある部屋の規模もだだ広くなる。それだけでも玉座が近いことが分かる。

 しかし何よりの危惧は、その入り組んだ経路にあった。部屋と部屋が繋がり、輪を描くように元に戻る場面もある。内装も造りもより複雑になり、中二階や仕切りで区切られた大部屋や、低い階段と小部屋の格子状に並んだ地区もある。

 弓なり型の小さな石橋がしつらえている中庭のような場所には、魔窟には珍しく土が敷き詰めら、朽ちた草木なども見られる。 

 どの場所も、背後左右、すべての方向からの敵襲に備えなければならず、神経をすり減らす場面が増えてくる。

 やはり、ここまで来ると敵の数も増し、グイシオンに乗ったゴブリンどもが突然襲いかかってくる場面も多くなってくる。幸い、魔兵の指揮はなく、どれも統制の取れていない雑兵ばかりではあるが、それでも見慣れぬ場所で背後を気にしながらの戦いは、危険と隣り合わせの進行となる。

 そこでマールたちは一度、一本道の通路へと戻り、ある程度地理を把握してから進む方針をたてる。見通しの良い広い通路の脇で、予め持参したテントを張り、即席の陣営で数日を過ごすことになる。

 食料は充分に持ち込んでいた。魔窟中に旧ドワーフ王国の手により張り巡らされた細い用水路があり、地下深く潜ったこの場所でも、ガンガァクス山からの湧き水が通っていた。彼らはそれを念のため“毒見草”で確認し、煮沸してから口にしたが、ブゥブゥの魔法の力でも毒性のある成分をある程度は浄化できたので、水分の心配もなかった。


 「ここの大広間から東にうねる通路も、中庭に繫がってた。」ルグが地図を見て言う。

 彼らは数日の間、拠点から三名ひと組で偵察を送り出し、少しずつ地図を埋めていく作業に邁進していた。

 「先の見にくいこの場所で戦いになったら厄介だな。」ドミトレスが唸る。

 「はい、この通路は避けたほうがいいですね。しかし、これでどこを通っても結局、中庭に繫がることはわかりました。」と、ブゥブゥ。

 「その先が王宮のさらに先へと続く路、ということになりますな。」カイデラが乾燥肉に香草を振りかけながら言う。

 「それで?見かけたツノ付きの魔兵というのは?」マールが訊く。

 「うん、中庭の先、クリクとゴブリンの胎動を燃やしてた時に、はじめにメッツが気づいた。」ラウのその言葉に皆の注目が集まる。

 「大きなグイシオンに乗っていた。全身に鎧を着込んでて、赤くて長い髪を垂らしてた。」

 「グイシオンも、おれたちが見たことのねえやつだ。ありゃ、稀種だな。」クリクが続ける。

 「そいつ、じっとおれたちを見つめてから、中庭の先の下り坂に消えてった。」

 「不気味だな。」ドミトレスが顎をさする。

 するとメッツが何やらカイデラに耳打ちをする。彼女は何故だかカイデラにだけは、たまに口を聞くことがある。

 「ゲヲオルグ。」カイデラが彼女の言葉を伝える。「近頃は、ドワーフの中ではそう言われているらしいです。」

 「ゲヲオルグ?ツノ付きのことか?」とクリク。

 「そうです。ドワーフの言葉で“指令兵”と言う意味です。」カイデラがそう伝えると、メッツは満足げにボウガンの手入れをはじめる。

 「敵の装備も気になりますな。」カイデラが皆に食料を配りはじめる。「それに指揮も。」

 「いづれにしろ、いつまでもここに留まっていたも仕方あるまい。」ドミトレスがそう言うと、皆がマールを見つめる。

 「・・では、道は決まったな。」彼女の言葉に皆が頷く。

 「明日にでも、先に進むことにしよう。」


−その5へ続く−

 

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