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赤ちゃんの新型コロナ感染症の合併症「MIS-N」

 新型コロナ感染症の第7波が全国で猛威を震っています。その中心は子供の感染がきっかけとなり、また手足口病、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルスなど様々な感染症の流行もあり全国の小児科入院病床や外来が逼迫しています。
 その中で赤ちゃんの感染症例も散見されますが、軽症が多いというのが通説です。しかし海外からMIS-CならぬMIS-N(新生児多系統炎症性症候群)という病態が報告されています。先日の周産期新生児学会のシンポジウムでも話題でした。新生児医療雑誌Neonatologyからsystematic reviewが報告されました。

ポイント
・症状は心血管障害(77%)、呼吸器病変(55%)が多く、発熱は36%と少ない
死亡は全体の11%と比較的高い(5例)
・治療は83%がステロイド投与、76%が免疫グロブリン投与

方法
MEDLINE, WHO COVID19データベース、LitCovid、Google scholar、Science direct、Web of Sciences、medRxivとbioRXiv(Preprint)を対象に「Covid19」「SARS Cov2」「MIS-N」を検索用語にして検索。2人の独立したreviewerが批判的吟味行い、(1)Case report or series, (2)Cohort study (3)後方視的観察研究(4) letterやcorresponding articlesを対象。reviewや患者データが不足している文献、病因のみに焦点を当てた記事は除外。MIS-Nの診断はMIS-Cの診断基準(CDCorWHO)を満たし、日齢28前にSARS-CoV-2感染が確認された例。早期は生後72 時間、後期はそれ以降。


結果

47人の新生児を含む16件の研究が対象
患者の背景
・診断:日齢7未満34名、日齢7以上13名
・分娩経路:経膣22名、帝王切開21名、他不明
・在胎週数:早産27名、満期産18名


症状の特徴(Table5)
心血管障害(36名、77%):心不全(14名)、不整脈(11名)、冠動脈拡張/動脈瘤(6名)、心嚢液貯留(4名)、新生児遷延性肺高血圧、心臓内血栓(2名)
・呼吸器症状(27名、55%)
発熱(17名、36%)・・・発熱が少ないのが特徴!

MIS-Nの症状

検査所見
トロポニンが全例で上昇!
・D-dimer上昇 (38/45, 84%)、CRP上昇 (65%)、フェリチン上昇(48%)のみ
・SARS-CoV-2 :
母親:スワブで陽性(37%)、血清で陽性(87%)
新生児:PCRで陽性(27%)、血清で陽性(85%)

治療と転帰
・免疫グロブリン投与(77%)、ステロイド投与(83%)
・入院期間:6日から11週間
・89%が生存、11%(5名)が死亡
・死亡の内訳:
 多臓器不全 2名、左心不全によるショック 2名、壊死性腸炎 1名


その他、気になるポイントです。
・MIS-Nの発症機序としては、子宮内での母体抗体への二次的暴露、母体感染からの経胎盤感染あるいは児側の抗体の内因性産生を介して、あるいは新生児のSARS-CoV-2に対する感染後免疫応答を介した反応を起こす。これらの抗体が炎症反応のカスケードを発動させ多臓器不全を起こす。
・MIS-NにMIS-Cと比べ発熱が少ないのは、新生児の未熟さにより免疫活性の違いが原因である可能性がある。
・MIS-N症例は治療開始から48~72時間以内に炎症マーカーの低下と心機能が回復した。
現在、母親のワクチン接種でMIS-Nの発症が予防できるというエビデンスがない。またワクチン自体がMISの発症自体につながるというエビデンスもない。


今回はMIS-Nという新しい病気を紹介しました。対象者に早産例が多い事は大切な背景で症例報告ばかりで出版バイアスは除外できてませんが、MIS-Cと比べ死亡報告が多いなど侮れません。「赤ちゃんはコロナになっても軽症」という事実は覆る事はありませんが、こういう重症例も知っておく必要がありますね。


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