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「日本昔話再生機構」ものがたり 第6話 乙女の闘い 2. 八つ当たり

『ヘルプデスク・乙女の闘い/1. 訪問者』からつづく

 沙知がトレイに目を落とした。
「乙女さんが私のことを被害者だおっしゃってくださるのは、嬉しいです。でも、やはり、私がいけなかったのです」
乙女はカチッときた。乙女はぐじぐじ湿っぽいのが嫌いだ。
「私があなたに罪がないと言ったら、ない。以上、ピリオド」
乙姫は強く言い切った。
 
 しかし、沙知は引き下がらなかった。トレイから顔を上げ、強い口調で切り出した。
「いいえ、私がいけなかったんです。私は緊急避難が認められないことで被害者意識を持ち、それに囚われ頭が働かなくなってしまった。朝、織物を出さないでおけば男が怒って機織り場をのぞくことくらい、私が自分で思いつかなきゃいけなかったんです」

 それは後知恵だと、乙女は思う。
「沙知さん、あなた、自分を買いかぶり過ぎてる。あなたが置かれていた極限状況で自分で脱出策を考えられるクローン・キャストなんか、いない。だから、私たちヘルプデスクが客観的な目で策を練り支援する」
「でも」
反論しようとする沙知を、乙女は
「デモも、ストもない」
と厳しくさえぎった。

 乙女は頭が切れ度胸があり懐の深さも備えた女性だが、あまり内省的にできていない。だから、自分が本当にいらついている相手が誰なのかということに全く気づいていない。
 乙女は、コーイチが受けた処分を「日本昔話再生機構」の常識として受け容れた。だが、彼女は、心の底では理不尽だと感じていた。そして、理不尽を見過ごしにした自分に怒っていたのだ。今、沙知にイラついているのは、実は、その八つ当たりに過ぎなかった。

 沙知は乙女と対照的に、極めて内省的にできている。そのため度胸が持てずクヨクヨ思い悩みがちだが、悩みを突き抜けると突然腹が据わってくるところがある。コーイチのことでは、沙知はこの「突き抜けた」レベルに達していた。だから、乙女の八つ当たりに屈することはなかった。
「乙女さん、私が、コーイチさんをラムネリウム鉱山送りにしてしまったのです。だから、私は何が何でもコーイチさんを助け出したいのです」
「あの子が鉱山送りにしたのは、あなたではない。また、決定済みの処分を覆すことは、不可能。以上、ピリオド」

 沙知が乙女の目にひたと視線を合わせてきた。
「乙女さん、私は、プロジェクト管理部長にコーイチさんの処分を取り消させることが出来る材料を持っているんです」

〈『ヘルプデスク担当・乙女の闘い/3. 危険なデータ』につづく〉